Chapter11 治癒術 (1)
「なんか、久しぶり」
「何が?」
「大怪我したの」
「・・・ごめん。
やりすぎた」
ノムの攻撃に耐え、彼女に一撃をお見舞いするはずであったその瞬間。
私の視界は、文字通り真っ白になり。
・・・
その後のことが思い出せない。
しかし、今の私の状態、状況から、過去を推測することはできる。
まず、身体中に痛みが走り、体がだるく、ベッドから起き上がることができない。
あと、いつも無表情な先生が、バツの悪そうな、申し訳なさそうな。
そんな彼女としては珍しい表情をしている。
その辺りの事柄から解を導き出すと・・・
・カウンターでぶっ飛ばされました
・先生に
・情け容赦なく
つまりは、まあ。
そういうところだろう。
前回、ノムを相手にした際、爆発魔法でぶっとばされた映像が思い出される。
デジャブ感すごい。
前回と違うのは、記憶の断片が少ないことくらいか。
頭でも打ったかな。
・・・。
もう、嫌だ。
「あのとき、エレナが私の魔法を耐えて、一気に間合いを詰めてきたから。
反射的に、自分の得意な魔法を使っちゃって。
その・・・。
悪かったと思ってる」
ごめんで済めばマリーベル教会騎士団は要らない!
そんな、冗談を放つ気力すらないです。
今の私にできることは、戯れ言を宣うことくらいでしょうか。
「じゃあ私、結構ノムを追い詰めてたってこと!?」
「全然」
「違うんかい!」
いや、追い詰められてなかったら、もう少し安全方向な対処できるでしょ。
弟子、半殺しにする必要なくない?
愉快犯なの?
まあまあ、そんな冗談はさておき・・・。
私が今回、先生に相手をしてもらった中で、気になる点がいくつかあった。
今後のためにも、それらを確認をしておきたいのだ。
「昨日の試験の復習がしたいんだけど」
「おととい」
「私、1日寝てたの?!
怖っ!!」
ちょっと三途の川で遊んできた程度の事故だったらしい。
川遊びがもうちょっと楽しかったら、今頃は川の向こう側にいただろうに。
私、本当に今生きてるよね。
手が透けてないか、まじまじと見つめてしまう。
・・・。
うん、透明度ゼロ。
「おとといの話、するんじゃないの?」
話を戻すよう促され、意識がこちら側に帰ってくる。
おかえり、私。
「えーっと・・・
私はノムの放つ魔法の属性を知りたかったんだけど。
最初はわからなかったんだよね。
で、ここからは推測だけど」
「うん」
「その理由は、ノムが魔力をプレエーテルの状態で止めて、それ以上、光のエネルギーに変換しないでいたから。
でも、ノムが魔法を放つ瞬間だけは、それが光属性の魔法だって判別できた。
それは、プレエーテルが光のエネルギーに変換された後であったから。
・・・。
こんな感じで合ってる?」
「正解。
ただし、並の術師なら、プレエーテルの状態で収束を長時間止めたりはできない。
また止めれたとしても、開放魔力、つまりコアや術者の体から漏れ出る魔力は、光の割合が高くなる。
今のエレナの実力なら、正しく『光』と判別できると思う」
「そうだといいけど」
「それにエレナは、私が伝えたかったこと、ちゃんとわかってくれた。
『戦いながら相手の情報を収集していくことが重要』ということ。
でも本来は、私の魔法を遠方で避けながら観察して様子を見る方が良かった。
突然間合いを詰めてきたの、あれは焦りすぎ」
「でも、対魔術師なら、近距離戦に持ち込むのがセオリーかなって思って」
「エレナって、意外と怖いもの知らず?」
「いや、おとといに嫌ってほど知ったから。
死んだと思ったもん。
体が消滅する感じがした」
「私が使った魔法は神聖術のセイントクロス。
まさに、悪しき魔を浄化し、消滅させる魔術なの」
「おい、こら!!
私を『悪しき魔』と同列で扱うんじゃありません!」
『悪しき魔』という単語と正反対の、うすらはにかんだ表情を浮かべる先生。
可愛くて、若干震えるわ~。
狂気と可愛らしさを兼ね備えるとか。
この娘、やっぱり怖いわ~。
「でも、私も最初は焦ったよ。
完全に無意識でセイントクロスを発動させてしまっていたから。
すぐにエレナに治癒術をかけて、治療をしたからなんとかなったけど。
でも、生きててよかった」
「治癒術をもっと長期間かけておけば、私って今ベットで寝てる必要ないんじゃないの?」
「治癒術で治せる怪我にも限界がある。
『私のレベルでは』ということもあるけど。
それに、『使わないで治せるなら、治癒術は使わない』が私の信条だから」
「残念。
ということはこのまま寝たきりかー。
しばらくは休息期間って感じかな」
「大丈夫。
今回のステップは、今のエレナにちょうどいい内容だから」
???
先生に何か考えがあるらしい。
・・・。
こんなときまで修行すんの?
怪我のおかげでノムの対応が優しくなるとか。
まあ、ないですよね~。
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