Chapter10 防衛術 (2)
ノム先生から、光術に対する防衛術『ディヒュージョン』、および『リフレクション』を教えてもらった私。
早速、闘技場のウィスプ相手に試してみることに。
ノム先生を相手にするより、魔物のほうが格段に安全なのです。
『ディヒュージョン』は相手の光術攻撃を『拡散』する。
これにより、直撃を避けることができる。
が、適当に拡散させるだけなので、攻撃の何割かのダメージは受ける。
痛い。
一方、『リフレクション』は、相手の光術攻撃を『反射』する。
それゆえに、うまく制御すれば、完全に攻撃を無効化できるのだ。
・・・
じゃあ、リフレクションだけ使えばいいじゃない。
そう思うところだが、残念ながらそうではない。
リフレクションの、ディヒュージョンに対する欠点を列挙する:
(1)発動に時間がかかる
(2)失敗することがある
(3)魔力消費量が大きい
特に、(2)の要因がでかい。
例えば、ノム相手にリフレクションが失敗したら、高確率で死ぬ。
そういう博打的な要素があるのだ。
だからこそ、相手の意表をつける、とも言うのだが。
さて。
2つの防衛術を覚えた私は、闘技場の次ランクFに出場。
さくっと、見覚えのある5体のモンスターを撃破し、賞金の20000$を獲得。
本来なら、ここで次のステップに進もうとノムに提案するところである。
が、今回のステップのクリア条件は、『VSノム戦』である。
勝利が条件なのか、一定条件達成が条件なのかは聞いていないが。
一方的に私が虐められる展開が待っているのは間違いない。
ならば、どうするか。
それは、闘技場出場を繰り返し、私がノムよりも強くなることを待つ、こと。
1年くらいあればなんとかなるんじゃないでしょうか。
それまでは、ノムを避ける。
逃げる。
なんて言われても聞かない。
よし。
作戦がまとまったところで家に帰ろう。
そう思い闘技場から出ようとしたところで、見知った青髪が待ち伏せしているのを見つけた。
・・・。
青鬼かな。
*****
「エレナ!!」
今までにない、彼女にしては大きな声に反応し、体が跳ねる。
「どしたの、ノム」
「・・・。
どうせ、いつかは戦わないといけないんだから。
なら、早いほうがよくない?」
いろいろな説明が省かれている。
本来はこの間に、
『ノム:そろそろ、次のステップに進んでもいいと思うよ』
『私:でも、いや、まだ早いと思うよ』
『ノム:早いとかじゃなくて、私と戦うのが怖いだけでしょ』
『私:いや、まあそうだけど』
というやり取りがあったはずだ。
まあ、なくてもわかるけどさ。
「もう少ししたら、私がノムより強くなるかもしれない、かも~。
それからでも、よくない?」
「強くなりたいならステップをこなすしかない。
急かすつもりはない、つもりだったけど。
最近、エレナ、私から逃げてたから。
そろそろ捕まえようと思って」
「わたしは、ネズミかよ」
*****
観念した私は、ノムと共に、バーストストーム習得でお世話になった岩場にやってきた。
地面が硬い分、ふっとんだら確実に平原より痛いです。
なんかマットみたいなの持ってきたほうがよかったかな。
「エレナ!」
「・・・」
「今回は私に負けたらだめだから。
私に倒されたら、勝つまでずっと、毎日、『VSノム』になる」
「たぶん3日目くらいで死んじゃうから大丈夫!」
あー。
冗談言ってみても全く楽しい気持ちにならない。
「この前よりも手加減する。
その代わり、しっかり私に攻撃を当てること」
「ノムを攻撃するのは、なんか嫌だなー」
「始まったらそんなこと言ってられなくなるから、大丈夫。
じゃあ、はじめる!」
ノムが杖を私に向け、宣戦布告する。
・・・
しゃぁーない。
やるか。
*****
息が切れ、体が痛む。
それでも。
彼女から、目線を外すことはできない。
闘技場ではいまだ無敗。
どこかで、それが傲りになっていたのかと。
そんな劣等感を、無理やり抱かされる。
目の前の青い悪魔は。
明らかに手を抜いているのに。
ノム。
徐々に攻撃の魔力を強くしている。
同じ3点収束の魔術でも、戦闘開始時と現在では、威力が違う。
私がどのレベルの攻撃まで耐えれるのか、見極めている。
試されているのだ。
「エレナ」
視線の先の彼女がつぶやく。
魔術発動の様子は見られない。
「次、私は何の魔術を使うと思う?」
「・・・。
わかんない。
わかんないから防ぎようがない」
素直に、ありのまま思ったことを伝えた。
たぶん。
ヒントをくれるんじゃないか、と思ってみたりして。
「そう、わからない。
でも例えば、相手が炎術師だったら炎術のみを防げばいい。
でも私は、全ての属性を均等に強化している」
「勝てるわけない、かな」
残念。
ヒントではなく、死の宣告でした。
「人間の命は1つしかないから、みんな全力で守ろうとする。
だから私は死角を作らない。
戦闘中は、どうやったら生き延びれるか、どうやったら勝てるのか。
相手の特性、攻撃方法、弱点、そして自身の改善点を常に考える。
ポジティブすぎるのもだめだけど。
ネガティブな結末で脳を支配されるのは、絶対だめだから。
自分の欠点を考えるときも、相手の攻撃をイメージするときも。
笑うの」
「・・・。
わかってる。
とは言っても、今は難しいけどね」
笑えない、現実が今ここにある。
・・・。
でも。
「エレナ!
次で、決めるから。
私の一連の攻撃に耐えられたら、この試験は合格。
耐えられなかったらもう一回」
次で終わり。
圧倒され続けて余裕がなかったが、意外にここまで好評価だったらしい。
そんな楽観をかき消すほどに。
収束され始めた、ノムの創る魔力球は、私に戦慄を覚えさせた。
次は、ヤバイのがくる。
五感を最大限に研ぎ澄まし、洞察する。
3点収束?
違う、6つ点がある。
それらが光でつながって、六芒星を描いている。
以前ノムが言ってた、6点収束?
3点収束よりも威力が高いことは必至。
でも、属性がわからない。
防御に向け、属性を予測するしかない。
とにかく、ノムの得意な封魔術を最も警戒。
ここまで使用頻度の高い炎術も警戒が必要。
風術ならあえて防御をせずに、思い切って切り込んでみるのもアリか?
雷術、光術は使わない、ような気がする。
魔導術は・・・十分ありえる。
『魔法発動時、それに伴って発せられる魔力を開放魔力という』。
そう、ノムが言っていた。
もしそうならば、今ノムが収束している属性の魔力を、一番強く感じるはず。
これを感じ取れれば、もしかすると。
・・・
・・・・・・
あー、わかんない。
いろいろな属性の魔力を感じる。
ノムが開放魔力を制御しているのかもしれない。
属性を悟らせないように。
ノムのつくる魔力球は、既に安定化しているように見える。
が、彼女は動かない。
まるで私に、『先に動け』と言っているような。
そんなプレッシャーを与えてくる。
・・・
じっとしてても、仕方ないか。
切り込む!!
私が動いたのを察したように、彼女の体がピクンと動く。
ほどなくして、彼女の魔法が発動されるだろう。
ふと言葉が浮かぶ。
『プレエーテルを四元素変換で魔力に変換するの・・・』。
・・・。
そうか。
彼女の魔力球は、まだプレエーテルだったのか。
だから属性の判別ができなかった。
でも。
魔力が完全に収束され、属性が決定されたなら・・・。
ぎりぎりまで。
相手の。
彼女の魔法攻撃の属性を見極める。
収束が終わるその直前なら。
攻撃の属性を知ることができる!
間合いを見計らう。
きっと。
私が彼女なら、このタイミングで魔術を発動する、その地点。
私がその地点に達したとき。
彼女の魔力球が、さらなる魔力の吸収を始め。
一瞬で、桃色の魔力球に姿を変えた。
光術だ!!
6点収束の光術が発動された。
ならば。
私は。
攻撃用に収束しておいた魔力を、迷いなく封魔術に変換した。
「ディヒュージョン!!」
「む!」
私の眼前に、粉々に砕かれたガラスの破片のようなものがばら撒かれる。
これらの破片に、ノムの放った光線が衝突。
閃光を撒き散らしながら、キンキンと甲高い音を立てる。
目論見通り、光線は散乱し、私を貫く程の威力にはならず。
しかし、これも想定通り、拡散の結果、元の進行方向に進むことを決めた光の成分も多分にあり。
それが、ジリジリと私の体を焼き付ける。
痛っ・・・。
でも、このくらいなら!
そして、ついに。
私は光の嵐を抜ける。
耐えた!?
視界、晴れ。
少しぶりに見た先生の顔からは、驚きの感情しか感じ取れない。
もう彼女は目の前。
この間合いは私の領域だ。
使い慣れた槍に、雷の魔力を込める。
そしてそれを、彼女に向け、解き放った!
「やーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」




