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Chapter10 防衛術 (1)

 私がこの街(ウォードシティー)にやってきて、4ヶ月半が経とうとしている。


 ・・・


 修行(これ)、いつまでやんの?

 ほんとうに終わんの?


 ふとした疑問が湧き上がり、モヤモヤする。

 魔術の修行はうまくいっているのか否か。

 まったくわからん。

 この感覚を払拭すべく、私は先生に疑問をぶつけた。


「魔術の修行って、今どの程度進んでるの?」


「ステップ的には、今ちょうど折り返し地点」


「まだ半分もあるのかー」


 A:ステップの数が半分。

 B:修行に掛かる日数が半分。

 どちらかはわからないが。

 後半になるほど1ステップの難易度が上がるのは必死。

 そう考えると、Bのほうが楽である。

 ・・・。

 でもたぶんAだな。

 そんな気がする。

 どちらにしろ、今までの苦労の日々が、あと半分以上残っているということだ。

 自然と、ここ数ヶ月の情景が、哀愁の感覚と共に思い起こされる。

 が、それらは、ノムの言葉でかき消された。


「悲観する必要はまったくない。

 エレナの魔術習得のペースはかなり速い。

 通常、ここまでで4ヶ月半はありえない。

 ・・・。

 たぶん、私よりも速い」


「そ、そうなんだ」


 久しぶりに褒められてびっくりしてしまった。

 久しぶりすぎて対応に困る。

 なんて言葉を返せば良いのか、考えがまとまらない。

 とりあえず何か言おうとしたら、次のような言葉が出てきた。


「でもそれは、ノムの教え方がうまいからさー」


「それもあるけど」


 否定せんのかい。


「でも。

 やっぱりエレナは魔術師に向いてる。

 最初にエレナを見たときも感じたけど。

 魔術を覚えていくと、より強くそう感じる。

 でも・・・。

 それだけじゃないかも」


「ん?」


「エレナ、少し無茶してる」


「してないって」


 それは『無茶 "させられてる" 』の間違いでは。

 そんな返しができないほどに、ノムの表情が真剣なものであると感じた。


「早く強くなりたい気持ちも、ちゃんとわかってる。

 けど。

 死んだら意味がない。

 戦闘では、常に生き延びることを考える。

 それだけは、忘れないで」


「・・・。

 ありがとう」


 心配してくれていることは伝わった。

 ここでいう無茶が意味するものは、ノムが私に与え続ける無茶とは別のものなのだ。

 

「でも、無茶させるときはさせるけど。

 私が見てるときは。

 死なない程度に」


 (かす)かな笑みを浮かべ、彼女は言った。

 が、徐々にその表情に、再び真剣な雰囲気を漂わせ、私を見つめてきた。

 何か大切なことを伝えたい。

 そんななにかを感じ取り、私も彼女を見つめ言葉を待った。


「エレナ」


「何?」


「今回のステップの最後は、私が相手をするから」


「死んだら意味ないって言ったばっかじゃんか!!

 死ぬって!」


 論理とは。

 そんな根本を見つめなおさせるような展開。

 もしかして論理的に解釈しようとするから理解できないの?

 心理的なアプローチが必要なの?

 『考えるな感じろ』的なアレなの?

 

 そこで、現在のノムの心理を推測してみる。

 先ほどの真剣な表情から察すると、何か意味があるのかもしれない。

 そう思い、改めてノムを見つめる。

 が、今は若干ニヤニヤしていた。

 心理的な考察の結論、『エレナをからかうの、おもろい』。

 くっそ!

 その青髪、脱色してやろうか!

 寝ている間に!

 徐々に!

 そっちは冗談でも、こっちは冗談じゃすまないっての!


「最近わかったし!

 前回ノムと戦ったとき、ノムはほとんど力を出してなかったって!

 ノムの魔法相手じゃ、私の防御力なんてゼロに等しいようなもんだって!」


「そうだね」


「そうだねって・・・」


 事故が起きると私が死ぬ。

 そういうことが伝えたい。

 が、怒りで思考がまとまらず、うまく伝えられない。

 なんとかノムには私の言葉の裏を読んでほしい。


 この願いが届いたのか、どうかわからないが。

 ノムが1つの案を提示する。


「だから今日は、『防衛術』を教える」


「防衛術・・・。

 防御のための魔法だよね?」


「そう。

 じゃあ準備して」


 そう言うと、すぐに講義の準備に入る青髪。

 納得できないことは多々あるが、問答無用であることは理解できた。

 

 なんてことはない。

 いつもの展開である。 

 ただし、死の危険性の高さは桁違いですがね。

 ・・・。

 防衛術の話、ちゃんと聞いておこう。

 





*****






「防衛術は大きく分けて2種に分類できる。

 1つは『封魔防壁』、もう1つは『魔導防壁』」


「『封魔防壁』、と『魔導防壁』ね」


「ただしこれらは、『封魔術、魔導術を使うかどうか』、という分類法ではないの


「どういうこと?」


「封魔術を教えたときにも話をしたけれど。

 術師、というより人間の体はみんな、封魔術で守られている。

 これが『封魔防壁』。

 『封魔防壁』は術者の体を覆うように存在し、相手の魔術攻撃に対して反発力を発生させる。

 それは、封魔術と同じ魔力で実現されている、らしい」


「うんうん」


「さらに具体的に言うと、魔術攻撃のうちのエーテルのエネルギーに反応して反発力を生む」


「エーテルだけ?

 バーストとかスパークは?」


「バーストやスパークの魔力の中にもエーテルの魔力が存在してるの。

 封魔防壁は、それに反応して反発力を生じる。

 このとき発生する反発力は、エーテルのみではなくバーストやスパークといった四元素のエネルギーを含めた魔力エネルギーに対する反発力となる」


「うーん・・・。

 じゃあ、バーストの魔力の中にエーテル属性の魔力が存在しないように魔法を実現すれば、防壁が発動しないってことだよね」


「それはできない。

 厳密には『とてつもなく難しい』と言うほうが正しいけど」


「そうなんだ」


「ちなみに、今話したのは『急襲されたとき』の話。

 この場合は、反射的に封魔防壁が私達を守ってくれる。

 でも、もしあらかじめ攻撃を受けるとわかっている場合は、攻撃直前に封魔防壁を強化することが可能。

 それが封魔術の防衛術『レジスト』」


「封魔術をやったときに、頑張って覚えたやつだよね」


 覚えたての頃は効果を実感できなかったレジストの魔術だが、使用を繰り返すたびに、より効果を実感できるようになってきていた。

 今や、魔術を使用してくる相手との戦闘では欠かせないものになっている。


「一方、相手の攻撃を受けるとあらかじめわかっている場合に、その攻撃を防ぐ別の方法がある。

 それが『魔導防壁』」


「魔導防壁」


「一言でいえば、『攻撃を攻撃でかき消す』ような行為。

 魔導術のバリアーが最も有名。

 相手の魔術攻撃に対して、自身の前方、もしくは周囲に魔導術の防壁を作り、攻撃を相殺する」


「なるほど。

 それでも相手の魔術攻撃を防げるね」


「バリアーは相手の魔術攻撃の属性に関わらず有効な防衛術となる。

 ただし、相手の魔術攻撃の属性が分かっている場合は、その属性に応じた防御方法で対処する方が効率的。

 相手の攻撃属性が炎術、風術の場合は、同じ属性の魔術で防壁を作成するのが良い。

 これはそれぞれ、炎術防御、風術防御と呼ばれる」


「ふんふん」


「ややこしいのは、攻撃属性が光術と雷術の場合。

 それぞれ特殊な防御方法が存在する。

 まず、光術。

 光術に対しては、封魔術を利用した『リフレクション』、『ディヒュージョン』という防衛術が知られている。

 これらの防衛術は、封魔術のもつ『光を反射する』という性質を利用したもの。

 相手の光術攻撃を反射、拡散することで、その威力を弱めてくれる」


「そんなことできるんだ」


「次は雷術。

 雷術と封魔術の混合術である『インダクション』という防衛術が知られている。

 封魔術で相手の雷術の制御力を減少させた上で、自身の雷術で相手の雷術の放出軌道を逸らしたり、または逆制御する。

 やってみるとわかるけど。

 これ、相当難しい」


「ノムが難しいんなら、わたしにゃ無理だよ」


「ちなみに、封魔術に特化した防衛術は、特段知られていない。

 バリアーかレジストを使うのがいいと思う」


「うーん・・・。

 わかったような、わからんような」


「実際にやってみたほうが速いかも。

 ・・・。

 でも、防衛術の訓練をしっかりとやりたい場合は、攻撃する相手がいた方がいいかも。

 その場合は、遠慮なく私に声を掛けてくれていいから」


 『気を使わなくていいよ』という優しさ。

 その優しさの裏に、狂気が見え隠れするような。

 そんな感覚を覚える。

 この()、ほんと怖い。

 ノムの申し入れを丁重にお断りし、私は防衛術の習得に取り掛かった。






*****

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