Chapter7 三点収束魔術 (4)
「12時・・・10分前」
治癒術で体力、時間経過で魔力が回復。
しかし、満を持してのトライバースト再挑戦は、あえなく失敗に終わった。
残時間から考えると、次が正真正銘のラストチャレンジ。
試行回数が増えるほど、コアの反発を抑られる時間が増えてきている。
この調子なら、次は成功するかもしれない。
と。
そう思い込みたいのはやまやまなのですが。
正直なところ、コアが合成されている感覚は、まったくもって感じられなかったりする。
このままトライバーストに再挑戦しても、成功確率はアラウンドゼロと思われる。
認めたくはないが。
ということで、作戦を変更しますね。
「ノムちょっといい?」
「何?」
「私は今、『3点収束』を習得できればいいんだよね」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ最初に覚えるのは、3点収束『炎術』じゃなくて、3点収束『雷術』でもいいよね」
属性変更。
私の得意属性の雷術に全てを賭ける。
もしかすると奇跡が起きるかもしれない。
というか、起きろ。
「いいけど。
でも雷術は威力が高い分、暴発での危険性も高いからね」
ノムから軽い脅しを受けるも、私の決心は変わらない。
「私が魔導防壁で守るから。
思い切ってやってみて」
軽い脅しで気持ちが揺るがなかったことを察すると、ノムが呆れ半分、微笑み半分といった表情で補助を買って出てくれる。
「よっし!
じゃあ、やってみる!」
「説明の必要もないかもだけど。
雷術であること以外、発動手順はトライバーストと同じ」
「了解!」
深呼吸に、成功への祈りを込めて。
魔力収束開始。
コア1。
コア2。
コア3生成。
3コア同時、プレエーテルを収束。
コアの存在をその煌きで視認できるようになったとき。
雷術への変換、3コア合成の同時並行。
3つのコアが、その色を青色に変えながら火花を散らす。
炎術のときには無かった感覚。
新しい何かが生まれるような。
そんな僅かな感覚を。
体を包む封魔防壁越しで感じたとき。
私は・・・
私は!
「あ~~~~~~~~~~~~~~。
収束した魔力が無くなってく~。
へなへなする~~~~」
魔力切れで吸い込まれるように地面にへたり込んだ。
「トライスパークは魔力消費が激しすぎるから、今のエレナじゃあ魔力が足りなかった」
「なんだよそれ」
魔力枯渇の影響か。
はたまた、日ごろ使わない気力活力を明日の分まで前借りで過剰に利用したからか。
まったく体に力が入らない。
だる~ん。
「じゃあ帰ろうか。
肩をかすから」
そう言って私の横にしゃがみ込み、青い髪の掛かった肩をぽんぽんと叩いた。
そんな彼女の気遣いに答えられないほどに。
お腹が減った。
酷く眠い。
宿まで帰るの、超だるい。
もはや『ここに宿が来い』とか『ここに宿を建てよう』とさえ思うよ。
とりあえず、1点だけ確認しておく必要がありますね。
「瞬間移動の魔法ってないの?」
「ないって」
*****
「あー。
結局だめだったな」
3点収束習得失敗から一夜明け、私はノムと一緒に朝飯という名の昼飯中。
頬杖を付き、口に運ぶでもないパスタをくるくるくるくるしながら呟いた。
パスタの麺はこんなにも絡み合うのに、私の作る3つのコアは本当に最後まで言うことを聞かなかった。
3つのコアも、パスタみたいに回転しながら合成させたほうがいいのかもしれない。
知らんけど。
それにしても、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですかね。
「で、3点収束の習得は何日程度かかるのが普通なの?」
「1年くらい」
「そら無理だ!」
1年もかかるのなら私の能力が低かったから習得できなかったわけじゃなかったんだね、という安心感。
1年って、どんだけ習得難しいんだよ3点収束って、という驚き。
習得に1年も掛かるのなら、1日で習得できるはずない、という納得感。
明らかに習得できるはずないのに『1日でできたら』という条件を提示してきたノムへの、苛立ち。
それらの感情が入り混じり、相殺し合うことで、苛立ちの感情が残りました。
イラダチスゴイ。
くっそ!
珍しくノムが奢ってくれるとか言うから異質だとは思ってはいたが。
やってくれたなこのやろう。
そんな感情でニヤニヤとノムを見つめる。
「エレナみたいに1日中ぶっ通しで習得訓練するのではなく、1日数時間づつ時間を取って、という形で継続的に訓練を行う場合だけど。
3点習得は魔力消費量も大きいから、すぐに魔力もなくなってしまうし。
だからエレナも、今日からはそういう方針にするから」
「1年か・・・長いね」
しみじみと呟く。
「エレナなら1年はかからない。
封魔術の感じからすると、2ヶ月から3ヶ月くらいで習得できる予定」
「あれっ?
そうなの?」
ノムの中の私の評価は、私が思った以上に上昇しているようだ。
期待を裏切る結果にならないことだけを祈りたい。
「あと、やっぱり雷術での3点収束習得はお勧めしない。
魔力消費が大きくて、挑戦可能回数が減ってしまう。
炎術のほうがいいと思う」
「そーなのか」
「あと、もう少し能力を強化しておいたほうが楽になるかも。
3技能に関しても、炎の属性に関しても。
3点収束習得以外の時間は、闘技場に出場して魔力強化に取り組んで」
「うーん。
でもやっぱり早く習得したいなぁ。
・・・。
闘技場を休みにして、3点収束習得だけに集中したらダメかな」
いつの間にか、そんなこと言っていた。
私が思っている以上に、私は昨日のうちに魔法を習得できなかったことが悔しかったのかもしれない。
「大変だと思うけど、エレナの意志があるのなら、それでも構わない。
私もできる限りサポートするから」
「ありがとうノム」
*****
コア1。
コア2。
コア3収束。
プレエーテルへ変換。
属性変換開始と同時に、3コアを合成開始。
収束力で魔力球を押さえつけ、反発を抑える。
ここまでの操作も、かなり手馴れて速くなってきた。
反発力を抑えるコツも体得でき、さらに何故かはわからないが、コア自体の反発力も日を追うごとに小さくなってきている。
3つの炎球の反発で発生する火花の量も、今は消えかけの線香花火のようだ。
そんなことを考えたとき、儚い火花が完全に消える。
これって・・・
「エレナ」
「ん?」
「できてる」
「成功なの!
本当に!?」
「まだ油断したらダメ。
放出動作が残っている。
最後まで集中して」
緩んだ心を締め直し。
大地を踏みしめ。
放出を!
<<ドッ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーーン>>
放たれた、過去最大サイズの炎弾が、草原の風を切り裂いて進み、一定距離の到達を確認のうえ、大爆発を引き起こした。
1点収束炎術との、攻撃力の差を、視覚情報、他から判断しようと試みると、徐々に興奮が押し寄せてくる。
「すごい!
1点収束のときとは、派手さも迫力も、全然違う!」
「放出はもう少し離れたところまで届くといいけど。
収束に関しては問題ない。
合格。
たいへんよくできました」
「22日かかったけどね」
22日で『よくできた』なのか『そんなもの』なのかはよくわからないが。
とにかく長かった。
特に、最初の2週間。
この2週間がつらかった。
これは、コアの反発力を抑えるのに集中力が必要で、精神的に削られ続けたのが大きい。
ノムに『次のステップの話、先に聞いていい?』と何度言い出そうとしたか。
しかし3週間目になると、コアの反発力が何故か減ってきて、楽になってきた。
余裕ができて収束する魔力量も少し増やすことができたし、長時間コア同士をくっつけた状態にできるようになった。
すると急激に、『合成』できている感覚が増してきて、精神的にも安定した。
正直、2週目までと3週目からの違いがよくわからんのですが。
この辺りをノムに聞いたところ、『従属情報の強さ』、とか言われたが。
なんのこっちゃ。
すごい脳疲労感ですので、それ以上の考察は、今は遠慮しておきます。
さて、習得もできたし、帰りましょう。
と、言いたい気持ちは非常に強いのですが・・・
「もう1回やる。
発動の感覚を忘れたりしたら、洒落にならん」
人差し指1本を立てて、ノムに伝える。
ほんの少しだけ、ノムが驚いた表情をしたように見えた。
『ほんの少しだけ』すぎて、断言はできませんがね。
*****
覚えたての3点収束炎術を繰り返し試行。
その試行は、一度たりとも失敗しなかった。
この成功体験の繰り返しが、私に、自信を与えてくれる。
「いよーし!
うまく使えるようになったし!
疲れたし!」
「宿に帰る?」
「その前に晩ご飯食べる」
「それじゃあ、今日は私が奢る」
!!!!!!!!!!!!!!!
元々は、『1日でできたら』という条件だったはず。
22日かかったけど、いいの?
ノム、どしたの?
風邪なの?
確率変動なの?
エレナちやほや月間なの?
「おお!やった!!
あーでも、1日じゃできなかったし・・・」
「んじゃ、やっぱやめる」
「はいっ!ごめんなさい!
謝るから、奢ってください!」
危ねぇ。
ノムが奢ってくれるとか、レアモンスターの遭遇確率より低いぞ。
あと、最近闘技場に行ってないから、お金がないのです。
「で、エレナは何が食べたい?」
私が選んで良いらしい。
「うーん、じゃあ・・・」




