Chapter7 三点収束魔術 (2)
「そろそろ・・・」
「む」
『そろそろ』という私の言葉を遮る様に『む』という言葉だけを発し、ノムは読書を再開した。
『言葉』なのかすらわからないが。
トライバースト習得に向け、闘技場の次のランクJに進んだ私。
相手の魔物も、再び登場したウィスプ以外は特段問題なし。
ウィスプに対しても、ノムにアドバイスを受けた魔法防御補強魔法レジストのおかげでかなり楽になってきた。
もしかすると、もうトライバースト習得条件を満たしているのでは?
楽観的な期待を込めてノムに確認を依頼した。
すると、『ダメ』という短い否定の言葉で不合格通知を受けました。
ですよね~。
ちょっと聞いてみただけなんだからね。
最初からわかってたんだからね。
今回必要となるのは『収束』『放出』『炎術』の3要素。
ランクJへの出場を繰り返して能力強化をするしかない。
が・・・。
『ダメ』。
『ランクJ出場 ⇒ ノムに確認』の手順を何回繰り返してもノムの判定は変わらなかった。
今回、条件厳しすぎませんか?
この流れを数回繰り返すと、ノムは『ダメ』とさえ言わなくなった。
私が確認を求めると、食い気味で『む』とだけ呟いて直前の作業を再開する。
そもそも、ちゃんと確認してんの?
適当に言ってない?
倦怠期なの?
私のこと飽きたの?
とまあ、こんな調子があんまりにも続くので、私も闘技場ランクJに飽きてしまいました。
私は、闘技場の次ランクIに挑戦。
さすがに相手モンスターも強くなってきましたが、ランクJへの繰り返し出場で十二分にレベルアップできていたようで、特に問題なく最終5戦目まで勝ち進みました。
*****
「さて、最後、5戦目の相手は・・・」
北の登場門が開かれ、対戦相手が入場する。
と同時に、私は相手の分析を開始。
杖を持ち、薄汚れた黒いローブを着た・・・
「魔術師!?
相手は人間?」
がしかし。
よく見ると手と足がありません。
さらに見ると顔もない。
空中に杖とローブが浮いていて、ローブの隙間から奇奇怪怪な光を放っている。
これは・・・
「アンデット系のモンスター、レイスですか!?」
まさかの不死系モンスター。
こんなのまで出てくんの?
しかも、確かレイスって・・・
「はじめっ!!!」
試合開始のアナウンス。
それと同時にレイスから感じる魔力圧が増加。
これを受けた私の第六感が戦闘体制への移行を強制する。
レイスの杖が赤く光る。
「魔法だ!!」
私は、レイスの放った炎弾を横にステップして回避する。
先制攻撃かよ!
直後、背後で聞こえた爆発音と衝撃の大きさが、相手モンスターの魔術攻撃力の高さを否応なしで伝えてくる。
慌てて回避したために崩れた体勢を立て直し、相手の次動作を確認する。
その時点でレイスの杖は、再度、赤く光っていた。
連続攻撃なの?
2発目のバーストブレッドが、体勢を大きく崩しながら緊急回避する私の横を掠める。
こいつは、本当にやばい。
ウィスプとは違う、明らかな殺意を持った魔術攻撃。
ウィスプはこちらから攻撃しない限り魔法を使ってこなかったり、攻撃するにしても放出がでたらめな方向に飛んで行ったりしていた。
それに対し、レイスは高い精度で直撃を狙ってくる。
2発目の炎弾回避後、再び相手のほうを向く。
3発目の攻撃はまだのようだ。
魔力が尽きたのか?
が、次弾発動も時間の問題だろう。
緊急で脳内対策会議を行う必要がある。
ウィスプと異なり、レイスはある意味実体を持つ。
レイスはローブと杖に魔術師の怨念が取り付いて生まれるモンスターらしい。
杖やローブを破壊すればレイスは浄化される。
つまり物理攻撃も効果がある。
私の敏捷性、回避力があればレイスの炎弾を回避し続けるのは容易い。
また、相手が魔力切れになるまで回避を続けるという手もある。
一つ前のランクJで頑張っておいたおかげか、4戦目までの疲労はさほど多くない。
それもこれも、ノムが「む」、「む」、「む」と、会話面倒臭い症候群になっていてくれたおかげだ。
ノム、ありがとう。
何気なく、初めて闘技場に出場した日のことを思い出した。
そのときノムが座っていた座席、その方向を何気なく見つめる。
すると、青髪少女は、あの日と同じようにそこにいた。
「来るんなら先に言ってよね」
レイスは魔物でありながら、魔術師のようなものだ。
相手が魔術師ならば、こちらは魔術攻撃でなく物理攻撃で対抗するのが筋であろう。
相手の魔術攻撃力も先ほどまでの2撃で十分に理解できている。
でも。
それでも。
私が選ぶ選択肢は・・・
「修行の成果を見せる、絶好の機会ということですかね」
ノムには届かない独り言を呟き、私は武器お試しローテーション中、新武器の杖を相手に向け構える。
見つめた先のレイスの杖に魔力が集まり、赤い光が美しい球体を形作ろうとしていた。
「小細工なし。
炎術 vs 炎術の勝負」
私が構える杖の先に赤い光が瞬き、すぐにその輝きが強くなってくる。
収束速度、収束魔力量どちらをとっても、闘技場初日、あの日の私と比べ物にならない。
その事実がうれしくて。
相手の魔法が私よりも強かったらどうなるか。
そんな考えが思い起こされないほどの集中は、今までで最も完璧な魔力球を作り出した。
「くる!!!」
レイスの魔術発動を悟る。
直後、3撃目にして最も大きく、強く魔力を感じる炎弾が放たれる。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
同時に私も魔法を放出。
直後。
2つの魔力球が私と相手の中央、闘技場のステージの中央で衝突する。
同時に、巨大な爆音と巻き上げられた塵が空間を制圧した。
一瞬の静寂。
爆音と衝撃に否応なく怯まされ、思考が一時停止する。
巻き上げられた塵が再び地面に返ると、ようやく相手の杖とローブが場外まで吹き飛ばされていることを認識できた。
「勝負あり!」
試合終了のアナウンスの後、小さな喝采が起きたことに少し驚く。
観客ゼロの闘技場初日と違い、今は数人の観客がいるのだ。
その中で一人だけ無反応な客がいる。
私が何かの回答を求めるようにその客を見つめると、彼女は微笑みで返してくれる。
そしてこの日、私はトライバースト習得を許可されました。
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