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プレモーション

9200字程度です〜

 いつもならユキヒトに声をかけられる乗換の電車待ち。

「おはよう」

 今日はわたしから声をかける。

「お、おはよう……?」

 ユキヒトは片方の眉を上げながら訝しげにあいさつを返してくる。

「今日も暑いよね?」

 デニムシャツの胸の部分をパタパタと前後に動かして風を作りながら、世間話を始める。

「お、おう、暑いな……」

 予想した通りユキヒトからはぎこちない答え。

 うん。こんな感じ。

 昨日、二人から聞き取り調査をした結果、得られたら手札は5枚。

 まず1枚目。会話をしたいけど何から話ししたら良いか分からず、世間話から始めるもののなかなか会話が続かず、少し気まずい雰囲気になる〜作戦(立案わたし命名わたし)。

 とりあえず無言で電車に乗る。

 普通に会話できる二人では全く意味がないように思えるが、明らかに意識しているという状態を作り上げることで、とにかく自分の一挙手一投足に注意を払わせる、という作戦なのだ。

「ユキヒト……」

 名前だけ呼んで俯き、会話を止める。ユキヒトは首を傾げてわたしを見てくる。わたしは顔を上げ、ユキヒトを見つめ返す。

「…………」

 見つめ合ったまま会話はしない。

 じれてきたユキヒトが先に口を開く。

「あのな……サクラ……」

 ユキヒトも名前だけを呼んで口をつぐむ。今度はわたしが首を傾げるだけ。

「……サクラ。表情が固定されてたら、これ意味ないぞ?」

 なぜか問題点を指摘される。

「何かおかしかった?」

 もう一度笑顔で首を傾げる。

「ずっと口元が笑ってて、躊躇いだとか恥ずかしさが欠けらもない」

 ふっ……常にハニカミ笑顔というやつだよ?

「まるでロボットのようだが……?」

「んむむ……上手く行くと思ったのにな〜」

「昨日の今日だぞ? いつもと違って先に声をかけてきた時点で警戒するだろ……」

 肩も頭も落とすユキヒト。足も腰も使って。全身で脱力を表現している。

「そう気を落とすなよ、ユキヒト」

 わたしはポンポンと軽くユキヒトの頭に触れる。

「オレじゃねぇよ!」

 手を払い除けながらユキヒトはすぐに復帰する。ツッコミを入れるともいう。

「ユキヒトにはぎこちない会話から始まる恋とかない?」

「逆だろ逆。それは恋をしたからぎこちない会話になったんだ」

 うん、知ってる。でも、疑似体験したら知らずに恋に落ちているとかなるでしょう普通。

「ただの人見知りの会話だろ」

「誰が引きこもりか!」

 ツッコミよろしくユキヒトの肩に軽く手の甲を当てる。

「言ってないし!」

 反対に鋭いツッコミがわたしの肩にクリティカルヒットする。ヨロヨロとわざとらしく姿勢を崩すわたし。電車の揺れと相まって倒れそうになるのを、ユキヒトの腕を掴んでバランスを取る。

 そんなわたしの手をユキヒトが眺める。

「……これもか?」

 言葉とともにユキヒトから粘度の高い視線が注がれる。

「何のことかな?」

 わたしはユキヒトの腕を掴んだまま、極めて冷静に質問を返す。何もやましいことはないよ?

「……別に良いんだけど」

 ふぅ、と音に出してため息をつくユキヒト。

 んー、期待した反応じゃないなぁ。

 2枚目の手札──スキになったらふれあいたい、ツッコミもスキンシップ、からのボディタッチで距離も気持ちも急接近〜作戦(立案わたし命名わたし)はスルーか。でも、嫌がられるわけじゃないし、これは様子を見ながら続けよう。

「ところでサクラ。週末には新しい基本セットも出ることだし、久しぶりにみんなでシールド戦をやろうかと思うんだけど、どう思う?」

「あれ? そんな時期だっけ?」

 頭の中でカレンダーをめくるわたし。

 ユキヒトの案は専門用語で知らない人には分かりにくいが、簡単に言うと『新しいカードゲームで制限をかけた頭脳バトルをしようぜ!』ということ。

 まあ専門用語を説明しておくと──

 基本セットとはカードゲームのバージョンのこと。今遊んでいるのがフォースと呼ばれる4番目のバージョンなので、次は5番目のフィフスになる。カードの内容が一新され、場合によってはルールの改訂がされるほど。

 ちなみにシールド戦は、新しく買ってきた8個のカードパックをその場で開封して、制限時間以内にデッキを組んでデュエルをする大会のことで、かなり人気がある。なんでこのシールド戦が人気かというと、それはカードの販売方法が原因。

 このカードゲームは、約400種類のカードからランダムに選ばれた15枚を1パックにして売られているので、とにかく量を買わないと強いカードが揃わない。お金をかければかけただけ強くなるということ。

 でも、その場で新品を開封することで財力に左右されない平等な試合が出来る。

 その上時間制限があるので、未知のカードを即座に理解してデッキを組まねばならず、またデュエルでは未知のカードに臨機応変に対応しなければならないという、非常に頭を使った遊びとなっている。

 得てしてカードゲームを遊ぶ人達は頭を使った遊びがスキなので、シールド戦は絶大な人気となっている。

 ──要するに知恵比べがしたいということ。

「もちろんやりた……うんうん、すごく良いアイデアだよ! ユキヒトの提案ならなんでも嬉しいし受け入れるよ! どんなものでもね」

 普通に返しかけ、慌てて語尾にハートが付くような調子で答える。

「なんか変なキャラになってるぞ? 失敗するぐらいならやめとけよ……」

 あっさりとアラを指摘されてしまう。しかし引き下がるわけには。

「ホント! ホントだよ!! これはユキヒトの提案だから乗るんだ。他の人の提案だったらそんな簡単には──」

「ふむ。じゃあ、そんなオレから、シールド戦をしないことを提案してみよう」

「──却下!」

「早過ぎるだろ!! どんな提案も受け入れるキャラはどうした!」

 またしてもユキヒトの手の甲がわたしの肩に炸裂する。

「いやぁ、ユキヒトのツッコミはホントにちょうど良い加減だよね〜」

「ツッコミを流すなよ……とにかく否定せず褒めて気分良くさせる作戦にでも切り替えたか?」

 ユキヒトからの鋭い指摘。これはさすがにバレバレだな。

「むぅ……スキな人の意見はとにかく受け入れて心証は登り上って留まることを知らず、いつの間にか無条件で肯定するわたしがいないとダメになっちゃう〜作戦(立案わたし命名わたし)がぁこんなにあっさり破られるとは……」

「その名前今適当に付けたよな? な?」

「何を言う! 昨日寝ずに考えたんだ!」

「んなわけあるか!!」

 三たび炸裂するユキヒトの手の甲に視線を送りながら「うん、んなわけはないよ」と心の中で同意する。

 実際は、惚れられたら無理な要求を受け入れてくれるんだから、最初から無理な要求を受け入れさせて、いつの間にか無理な要求が癖になっちゃう〜計画(立案わたし命名わたし)……だったような。

 などとどうでも良い名前を考えていると、ついつい首を傾げてしまう。

「どうせ適当な名前なんだから悩まなくていい……」

 ユキヒトの疲れた声がこぼれる。

 ちっ、バレたか。とにかく3枚目も空振りに──未遂に終わったので、ならば4枚目を……

「サクラ、駅着いたぞ?」

「早くない? もしかして今日は電車が空気抵抗を受けなかったとか?」

「お前が遊びに熱中し過ぎなだけだ。だいたい空気抵抗がそんなに毎日変わっていたら、飛行機での輸送サービスが提供できないだろ」

「おー 全くもってその通りだね〜」

 わたしのボケに真面目に答えてくれるユキヒト。ボケにボケで答えているとも言えるけど。

 何はともあれ電車が着いたということは、すぐに二人の時間が終わるのだから今日の挑戦はここまでにしよう。ん? 二人の時間……それは明日に回そう。

 しかし、ユキヒトの反応はいつも通り。予想通りだけど期待通りじゃない。ブレないな。まあ、どう転んでもわたしに告白してくるユキヒトをイメージすることが出来ないのだけど。



 今日は少し早めにクラブを切り上げたので、珍しく帰りも他のメンバーがいない。つまりユキヒトと二人。

 折角だからアクションを起こそうかと考えていると、先にユキヒトが口を開く。

「ゲーセン、寄って帰るか?」

「お? 良いねー VR ON? SSR?」

「トーヤがいないからVR ONだな」

「おー お手柔らかにお願いします、准尉殿」

「この間、三等陸尉に上がった」

「ユキヒトは早いなー わたしは一等陸曹から変わらないのに……」

「サクラなら、いけるって。階級に関係あるのは雰囲気的に与ダメージ率、被ダメージ率、勝率だけだし」

「前者二つが上手くならないと最後のは上げられないけど?」

「最後のを上げるのは二人で攻略するって手があるだろう、それで行こう」

「分かった。階級上げて良い機体を手に入れないとどうにもならないしねー」

「それは戦闘スタイルも関係があるが……」

 二人ともはまっているゲームだけに会話が止まらない。会話が盛り上がってる内にすぐにゲームセンターへと辿り着く。

 まず入ってすぐ前にある両替機で百円玉を10枚準備してポケットへ入れる。そして、プレイデータを記録している磁気カードを2枚取り出して準備完了。

 4台並んだ筐体の壁側へと移動する。人気台だが今日は運良く誰も使っていない。

 半個室のようなコックピット風の筐体へ滑り込んで、同じように隣の台にユキヒトが座るのを確認する。ユキヒトと同時に、慣れた手つきでコインとカード1枚を筐体へ投入する。残ったカード1枚はコイン投入口の上に伏せておく。

「協力プレイで」

「了解、三尉殿♪」

 わたしが楽しそうに答えると、ユキヒトはこちらを見てしかめ面を作る。

「貴様についてこれるか、一曹?」

 キャラプレイにノってくれるユキヒトへ敬礼をしながら続ける。

「もちろんです!」

「あれ? そこは、もちろんであります!じゃないんだ?」

「それだとカエルになっちゃう」

「違いないな」

 そう言って笑うユキヒト。打てば響くように返ってくる答えに満足していると、画面に映っていたカウントダウンがゼロになり、他プレイヤーのエントリーが締め切られる。

「とりあえず、特殊敵の乱入出さずにクリアを目指すぞ?」

 親指を立てて返事をしてから、筐体から突き出ている2本のスティックを握る。スティックの上面と前面に付いたスイッチの感触を確かめ、スティックを前後左右に倒した後ぐるりと一周させる。

 筐体に問題なし、後は自分の腕次第。

 スピーカーから告げられる『ゲットレディ……ゴー!』の合図と共にロボット同士、2対2の戦闘が開始される。

「対CPU戦の初戦から3戦は慣らしだし、大技当ててサラッと終わらせるぞ?」

「ラジャー」

 頷きを返してから、自機の操作を開始する。

 ユキヒトの機体は、相手に向かいながら攻撃する突進系の攻撃と、剣による近接攻撃が得意で、いわゆる軽い機体。機動性が高いので、相手に近付きながら攻撃して足を止め、近距離戦で決める戦闘スタイルを基本としている。

 一方、わたしの機体は、遠距離攻撃メインの重装備型で、いわゆる重い機体。機動性が遅いので、遠距離から牽制攻撃を仕掛けて相手を誘導して、高威力の遠距離攻撃でトドメを狙うスタイル。

 弱点を補い合うバランスの良い機体構成のチームと言える。

 ユキヒトの言葉通り、囮としてユキヒトが前に出て相手を引きつけたところで、わたしがゲーム中最大火力のフルチャージメインウェポンで一網打尽にする、という作戦で難なく3戦目までクリア。

 わたしの攻撃が敵2体を貫通して勝利メッセージが出た途端、

「よっしゃ! 命中ぅー!」

 わたしの代わりのように喜ぶユキヒト。

「ユキヒトの誘導が良いからだよ」

 ユキヒトの方がやりこみ量も多く上手いゲームなので、絶対に自分の実力だとは思えない。援護攻撃を入れながらユキヒトの動きを見ていて、何となく「ここ!」という瞬間にメインウェポンで攻撃をする。それだけでこの3戦は終わっているのだから。

「いや、サクラの狙いが完璧なんだよ! 他のやつだとここまで囮をやってて楽しいことはない」

 なんてユキヒトは褒めてくるけど、一人でプレイしたらユキヒトよりかなり勝率が低いんだから、これはお世辞だと思う。3戦ごとに変えるユキヒトの作戦に従って動いてるだけで、あっと言う間に最終ボス戦までクリアしてしまえるし間違いないだろう。

 そんな感じで一周ゲームクリアしたところで隣の筐体を眺める。まだ誰も座っていない。外を見れば準備をしてそうな男子が二人。まあ、ロボット戦闘モノということで、99パーセントぐらい男子プレイヤーだから、女子が待っているのを見たことがないが。

 ユキヒトも同じように周りをうかがっているのを確認してから問いかける。

「機体変えてもう一回?」

「おう、まだ行けそうだし」

 ゲームクリアと共に出てきたカードとコイン投入口の上に置いたカードを入れ替え、新しいカードをコインと共に投入する。

 今回の機体はお互い女性型──見た目重視用。ギャラリーに対して見せる用とも言う。

 わたしの機体は、魔法使いのような大きな機械杖を持ち、薄い紫と白でカラーリングされた「お淑やか」という言葉が良く似合う機体。遠距離も近距離も攻撃力が中途半端ではっきり言って使い勝手は悪いけど、氷を使う攻撃のエフェクトがどれも美しく、見た目の人気は非常に高い。そしてわたしとお揃いのポニーテール。ゲームが出たときに真っ先にこの機体を選んだけど、一人では全く進めずヘコんでいたのは良い思い出。

 対するユキヒトの機体は、先ほどユキヒトが使っていた機体と戦闘スタイルは同じで、先ほどより更に機動性を上げて防御を弱くしたもの。ピンク色を基調にアクセントとして白が入った「可憐」という言葉がぴったりな機体で、軽やかな動きで華麗に敵を打ち倒すことをコンセプトとしている。

 そして、どちらも特殊な機能を持っている機体。

「全戦のっけから覚醒させるぞ」

「了解。でも、わたしはすぐに落ちるかもよ?」

「構わん構わん。この二人はこれで勝たないと練習にならないから」

「そのために使ってるからね」

 同意を返してから、チラリとユキヒトの表情を伺う。楽しそうにゲーム開始を待っている。

 うん、ここで余計なことしてもデメリットしかないな。わたしも楽しいのだから、一緒にゲームを楽しむが最適解だろう。

 少しの思考で待ち時間は終了する。

 そして、戦闘開始の合図と共に、シンクロしているかのように、わたしとユキヒトは同じキー入力を同時に入れる。

 両スティックを内側に倒して全ボタン同時押し。

 すると、どちらの機体も光を放ちながら特殊能力を発動させる。

 わたしの機体は背中から天使のように純白の翼を生やし、体力が5分の1に。ユキヒトの方は控えめな金色と白色に機体を染め上げ、体力が半減する。

 そして圧倒的な速度と高威力の攻撃で、初戦の相手を軽くひねる。

 これはこの2体に備わった隠しコマンド。見た目の変化を伴いながら速度と攻撃力を上げ、その代わりに防御力と体力を捨てる。とにかく敵を倒すこととその美しさにこだわった2体。だが、相手の攻撃が避けられないと大抵負けるので普通は使わない、あくまでも遊びで仕込まれた機能。

 そんな2体が敵の機体を屠っていく姿は幻想的で、プレイヤーもギャラリーも等しく魅了する。ロボットというSF的設定の中なのにここだけ異世界ファンタジーになったようで、ゲームの世界という非日常を更に非現実として高めて刺激を与えてくれる。

 魅了は非現実か。

 わたしは変なところでヒントを得た気分になり、少し集中が乱れる。

 ユキヒトは集中して戦っているようだけど……

 チラリと外に視線を送り一瞬だけギャラリーの様子を見る。その顔に浮かんでいるものを見て、わたしは慌てて視線を戻す。

 なんかめっちゃこっちを睨んでいるような……

 バトルの様子は筐体背面のディスプレイに表示されている。この美しい戦いを楽しそうに見ているわけでもなければ驚いているわけでもない。どちらかというとディスプレイというより、わたしとユキヒトを交互に見てるような。

 横の筐体は空いてるし──

「サクラ一曹、集中しろ」

 わたしの集中が途切れていることに気付いたユキヒトが注意してくる。

「しかしユキヒト三尉、後方から敵の視線を感じます!」

「今は捨て置け。まずは前の安全を確保してからだ」

「イエッサー!」

 集中が乱れている間に少し被弾してしまったので、体力バーの残りはほんのわずか。

 どんな攻撃を受けても負ける? なら、前に出るだけ!

 魔法使いの近距離戦と言えば杖で殴る、これしかない。今は威力が低かろうと離れてショボい弾を受ける可能性を残すより、遙かに勝率が高い。

 上がった機動性を活かして、突進して杖で殴る。敵が縦に振ってきた剣を滑るように横移動で避け、また杖で殴る。横に払われた剣は翼をはためかせて飛び上がり避ける。そこから相手に向かってダイブしながらまた杖を振るう。

「トドメ!」

 勢いとロボットの質量が充分に乗った杖を受けて、敵ロボットが膝をつき崩れていく。

 美しい天使型ロボットによる殴殺。いや、ロボットだから殴壊か。シュールだな。

「サクラは近接戦も見事だな〜 惚れ惚れする美しさだな」

 もう一体の敵を一足先に倒していたユキヒトはわたしの格闘を観察していたようだ。

「んむー……CPUが弱いからだよ。対プレイヤーだと勝てないし」

 少しふくれ気味にわたしは答えて言葉を続ける。

「それより、後ろは?」

「ああ、あれはほっといたら良い。見てるだけだから」

「んん? どういうこと?」

「んー……サクラは何であの二人がオレを睨んでいるのか、本当に分からないのか? サクラのいつもの洞察力なら気付くような気がするが?」

 なんだかしゃくに障ることを言われているような、本気で不思議に思っているような言葉。でも、わたしたちのプレイが気に入らないという自分勝手な理由ぐらいしか思い付かない。

「自分勝手な理由なのは間違いないが、あれは多分違うなー サクラは変なところで鈍感だよな?」

 こんなにも男子の気持ちを理解しようとしている男子他にいないよ? さすがにムスッとした表情を返してしまう。

「まあまあ、怒るな怒るな。仕方ない、ヒントだ。オレがサクラと一緒にゲームをしているからああいう視線を向けられている、それだけだ」

 ユキヒトがわたしと? そういえばさっき、ユキヒトはユキヒトだけが睨まれてるようなことを言ったような……

「はいはい、気にしない気にしない。次の試合が始まるぞ?」

 と言われた瞬間に開始の合図が聞こえる。

 慌てて操作を開始するが、焦って入力してしまったので特殊能力が発動せず、代わりに自機体の前に大きな菱形の鏡が出現する。

「あ……」

 これは攻撃を防ぐための盾でしかなく、この間にわたしをターゲティングした敵機は距離を詰めてくる。

 落ち着いて再度特殊能力発動の操作をするが、翼が生え終わるまでに敵機の攻撃圏に捉えられる。

「まっずー……ユキヒト、たぶん落ちる」

「分かった。ここはオレに任せて先に行け」

「いや、違うし! 行けないから困ってるし!」

 ユキヒトもマジメに言ってるのではなく、気にするなという意味でボケているだけ。

 案の定、近接戦に持ち込まれては流石の体力差が埋まらない。敵機のトンファーをもろに受けて、吹き飛びながら体力ゲージが消失する。敵体力を半分削れただけでも善戦したと思う。

「くぅ……残り半分。いけるか……?」

 横に視線を動かしユキヒトのプレイ画面を見ると、敵機の体力はあと少しだがまだ生き残っている。

「あー、こっから2対1ではちょっと無理かー」

 とユキヒトがこぼしていると、ユキヒトの機体が背後から攻撃を受ける。

「装甲紙なんだから、受けながらは戦えんよ……」

 流石のユキヒトも諦めモード。

 体力ゲージがみるみる減っていくのだからもはや仕方がない。負けは決定的。

「とりあえず、負けたら一旦筐体空けるぞ?」

「まだ隣の2台空いてるのに?」

「後ろの二人からいちゃもんは付けられないにしても、プレイに集中できないから金の無駄になるだろ?」

 わたしはやっぱりユキヒトの言う後ろに待つ二人の思いが理解できていない。ユキヒトに負けた気がして不満となって口をついて出る。

「うー……」

 ユキヒトは不満そうなわたしを見て、むしろニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。これは理解してないことを楽しんでいるな。

「オレとしてはラッキーだったとするか」

 へ? ラッキー? 続けてゲーム出来ないのに何が?

 意味の分からないことを言うユキヒトへ、不満顔のまま首をかしげて説明を要求する。

「ははっ。ほらほら、負けたからさっさと退くぞ?」

 膨らましていた頬をユキヒトにつつかれる。ぷぅと空気を吐き出してノロノロと立ち上がる。理解できない以上、わたしはユキヒトに従うしかない。

 筐体から外に出ると、待っている二人組からの視線が更にキツくなっているような……こちらから視線を送ると逸らされてしまう。でも確かにユキヒトが言ったように、わたしではなくユキヒトを見る目が厳しい気がした。

 視線を逸らせたということは、直接文句を言いたいわけではないようだ。

 そんな反応を見てユキヒトが更に笑顔を深め、そして筐体から離れていく。わたしは小走りで駆け寄り横に並ぶ。

「ホントに、何がそんなに楽しいんだ?」

 ユキヒトの耳元に口を寄せて小声で問いかける。

 ユキヒトは前を向いたまま、お腹に手を当てて口を開く。

「くは……そんなことしたら更に睨まれるぞ……ふふっ」

 今にもお腹を抱えて笑い出しそうだ。

 一瞬チラリと後ろを振り返ると、残念なことにユキヒトの言ったとおり、二人は慌てて身体の前に突き出していた手を下げている。

 あの手は人を否定する表現だ。それも最大限に。

 わたしの理解できない部分を完全に理解しているユキヒト。その上でわたしの反応を見て楽しんでいる。

 ユキヒトが手強いのは当たり前か。

 そんな楽しみ方性格悪いよ?なんて自分を棚に上げて思ってしまう。

 そう思っている時点で負けているな。

 くう、こうなったら禁じ手を使うか? でも、そこまでしたら……しかし相手はユキヒトだし、それでも無理かも。後の手札を合わせて……せめて何か片鱗でも掴めたら良いのだけど。

 迷い彷徨いどうにかする手段を探してグルグルと思考が廻り続ける。

 最近、ユキヒトがどういう反応を示すか?そんなシミュレーションを無限にし続けている気がする……もう、禁じ手まで出して完敗するのもそれはそれで楽しいかも……ここまで悩むとそんな風にも思えてくる。

男はゲームがスキなものです〜

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