おまけ2
2000文字程度ですー
カラオケルームを出てすぐ、廊下ですれ違ったスタッフの視線が、なんとなくわたしを追っていることに気が付いた。
え? なんかおかしい? 男同士で付き合ってるとかバレてる!? って勝手に付き合ってるとか思ってるし! いや、わたしとしては付き合ってると思いたいんだけど……じゃなくて!
「なに一人で表情変えて遊んでるんだ? まだ表情が上手く動かせないとか?」
「違うよ! そっちは大丈夫だけど、なんかスタッフに見られてるような気が……わたし、なんかおかしいかな……?」
ユキヒトが足の指先から子細逃さないようゆっくりとわたしを観察していく。
変なところがあるかもしれないのに見られてるってすごく不安……
でも、すぐにユキヒトは気付く。
「ああ、髪型か」
言われてすぐ思い出す。直さないと、と寝る前に思ったことを。
「しまったぁ……」
「オレが会計しておくから、その間に直すと良い」
「分かった、ごめんね」
「気にするな」
ユキヒトの優しさに甘えて、わたしはレジ横のソファに座る。まずは今のシニヨンをほどきにかかる。
鏡がないから良く分からないけど、色んなところを色んな方向からピンで留められている。崩し終わる頃にはユーピンとアメピンが合わせて10本ほどになってしまった。
「オオミチさん、いつもこんなに持ち歩いてるのかな……?」
わたしがいつも持ち歩いているのはアメピンが2本だけ。しかも用途はピッキング用。
オオミチさんを見習って女子力を上げねば!
後は手慣れた手つきでポニーテールを作るだけ。
なのだけど……今日は低い位置で一つくくりにしよう。
「やっぱりイメージ変わるな?」
会計を済ませてそばに立ったユキヒトが教えてくれる。
「あ……そっか……ユキヒトはポニーテールの方がスキだよね?」
「いや、そうじゃなくて。単純にいつもと違うからってだけで」
とりあえずこの髪型も悪いわけではなさそう。でも『悪くない』よりは『良い』を、欲を言えば『スキ』を選びたい!
「ユキヒトはどっちがスキ?」
自分で質問を口にしてから気付く。
ああ、だから女の子はこういう質問をするのか……
これが全てではないけど、演技なんてしなくても勝手に女の子になっていってる。それを嬉しく思う反面、危険も感じる。
また、どこかで感情を制御しないと。
心のメモにそう殴り書きし、書いたら一旦忘れて、今はとにかく変化を楽む。
意識を切り替えてユキヒトを見ると、ユキヒトは困った顔をしている。
うん、知ってるこういう質問って男子は困るんだよね。
「どっちって言われても……」
考え込んでしまうユキヒト。
こういうとき男子は、何がどう良いと思うからスキ、なのか理論的に考えてるんだよね。
だから、わたしは補足する。
「ごめんユキヒト、困らせたいわけじゃないから……ただ、ユキヒトがよりスキだと思う方を選びたいと思っただけ。ユキヒトによりわたしをスキになってもらいたいから」
自分が何を望んでいるか、これ以上ないほど素直に説明できた。とても分かりやすい理論。
わたし自身をスキになってもらいたいから、ユキヒトがスキだと思うわたしの恰好を選ぶ。それだけ。
わたしの真っ直ぐな気持ちに、ユキヒトは顔を赤らめ視線を右に逸らす。
「スキになってもらいたいって……サクラはすごいな」
何に感心されたのだろう?
首をかしげる。
「サクラはもう自分の気持ちを受け入れて
素直にしたいと思うことをしている。オレは逃げていたのに……」
ユキヒトの表情が曇る。
過去の自分を責めているのかな?
わたしはユキヒトをしっかりと見つめて口を開く。
「ユキヒト、わたしも同じだよ? 恋愛ゲームに変えて自分の気持ちを見えないようにして逃げてたんだと思うよ?」
ユキヒトがわたしを見つめ返してくれる。
大丈夫、ユキヒトだけじゃない。だから──
「これからどうするか?だよ。わたしはユキヒトの気持ちを逃がしたくないから必死で捕まえる。捕まえて牢屋か金庫に入れておきたいぐらいだもん」
わたしはニカッと笑って続ける。
「ユキヒトはどうしたい?」
ユキヒトは苦笑を浮かべて答える。
「それならオレは鳥籠に入れておきたいな。寝てるところもなんでも眺めていられるし」
言われた瞬間、カッと顔が熱くなる。
さっきから何度目? これだけ早いと、もうティファールになった気分……
「うぅー……いじわるぅ……?」
顔を伏せながら問いかける。
「そんなわけ……あるかもしれないな、反応がカワイイから。でも本心なのは間違いない。3時間ずっと見てて飽きなかったんだからな」
分かった。分かったからもう言わないで。嬉しくてまた泣いちゃうよ?
わたしは顔を上げられずに沈黙してしまう。簡単に会話の主導権がユキヒトに移ってしまった。
髪型の質問に答えてもらってないけど、もう何でも良い気がしてきた。
充分理解してるから。ユキヒトにとって髪型なんてどっちでも良いことは。似合ってさえいれば何でも良いって言うだけ。
「じゃあ、帰るか」
「分かった」
わたしは俯いたままそれだけ答えた。
あと一つ!