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プロローグ

時代設定は2000年付近なので、少々今では古い単語が出てきます。

でも、新しい言葉も使うのは、分かりやすくするためなのでスルーして頂けると助かります。


プロローグは3000文字程度ですー

 カラカラカラカラ──後ろから引き戸の開く音が聞こえる。

 ジーンズ姿にバイト服のはっぴを羽織ったわたしは、クルリとその場でターンして扉へと向き直る。少し遅れて、自慢のポニーテールに自分の頬を撫でられ、ニコリと笑う。

「いらっしゃいませ〜」

 少し高めの声と共にお辞儀をして、入ってきた作業着姿の中年男性に笑顔を向ける。男性はつられて笑顔になり、

「三人。空いてる?」

 すぐに人数を答えてくる。

「三名様ですね〜 はい、空いてますよ〜 お好きな席へどうぞ〜」

 客を見送りわたしはお茶の準備を始める。急須にお湯を注ぎながら厨房へ首を出し、

「三名様です」

 人数を連絡する。急須と湯飲みを載せた丸盆を左手に、右手で一つ伝票を掴んで今通した客の元へ。

 テーブルに置かれたメニューを案内したあと、客の前にお茶を差し出していく。

 客は伝票をスタンバイしたわたしへ視線を向ける。

 定食屋のメニューにそんな種類はなく、たいていすぐに注文が告げられる。

 わたしは告げられた注文を伝票に記載し──

「復唱します……」

 と少し低めの声で注文を繰り返す。

 すると、客が不思議そうな顔で、わたしを見上げてくる。

「嬢ちゃん、男かいな!? そんなん、ほんまびっくりするわ!!」

 見事な関西弁で驚きを露わにする客。

 わたしはとびきりの笑顔を作り、もう一度注文を確認する。

「お、おう、それで合ってるわ。すぐ頼むな」

 客はどこかしらばつが悪そうに答え、お茶をすする。口をつけたものの熱かったのか、すぐに湯呑みを離し舌を出す。

「かしこまりました〜」

 わたしはまた少し高めの声で軽快に答え、厨房へと戻る。

 客のこういった反応にもずいぶん慣れた。

 そして、その反応が楽しくて仕方がない。

 予想外の出来事でその人の本性を垣間見る。

 ついつい満面の笑顔を浮かべてしまうぐらいに楽しい。

 先に通したカップルもヒソヒソと会話しているのが聞こえる。

「えっ!? あの子、女の子じゃないんだ?!」

「全然気付かなかった……」

 にひひ。

「ほら、サクラちゃん、お客さんをからかってないで、さっさと運んでちょうだい」

 女将さんにカキフライ定食が載ったトレイを渡される。

「まあ、そんな名前でカワイイ18歳ならしょうがないけどね」

 そう言って苦笑する女将さん。

 サクラというのは苗字で、漢字で書けば『佐倉』となる。この際下の名前はどうでも良い。この日本の花をイメージする発音がわたしには似合ってるようで、みんなサクラと呼んでくるのだから。

「ありがとうござます♪」

 お世辞を素直に受け入れて、わたしは頭を下げる。

「料理は順番に上がっていってるから、ちゃっちゃと運んじゃってね」

「は〜い」

 能天気に答えて仕事を開始する。

 料理満載の重いトレイを片手に一つずつ持ち、気合いを入れて運び出す。

「細い腕だけど、他のバイトの女の子は二つ運べないから、やっぱり男の子なのよね……?」

 女将のわずかに疑問形の言葉を受けて、またわたしはニッと笑う。

「おまたせしました〜!!」

 そして、手早く客席へとトレイを運ぶ。

 ピークタイムはこれから、まだまだ忙しくなるけど、今日も笑顔で乗り切れそうだ。



 バイトから帰ったら、まず撮り貯めたアニメチェック。母親から晩御飯の声がかかるまで続け、晩御飯を食べ終えると2階の自室にこもってゲーム。

 ジャンルはエロゲ。わたしもこんななりだが普通の男。そういうことに興味ありあり。女の子がベッドの上でカワイイ声を上げれば興奮もするというもの。

「くぁ〜 たまんねぇな〜 唯ちゃん超エロい!」

 端から見ればキモいの一言で切り捨てられそうな独り言も、自分の部屋ではついつい口から漏れてしまう。

 とりあえず、今日も1人攻略してトイレに行ったら、既に時間は23時を回っていた。

「う〜ん、先週買ったカラーインクを試したいところだけど……」

 と思っていると、兄からお風呂が空いたと告げられる。

「お前風呂長いんだから早く入れ」

「へ〜い」

 風呂が長い理由はこの髪の毛の手入れを頑張ってるからだ!と食ってかかるようなこともせず、素直に従いお風呂へ入る。

 艶やかな黒髪を維持するために、椿油などの多少面倒なケアもしている。時間がかかるのも仕方がない。

 長風呂を終えれば、そろそろ寝ても良い時間。

「寝る前にメールチェックっと〜」

 1階のパソコン部屋で立ち上げておいたパソコンをいじり、インターネットへ接続しメールを確認する。わたしももう少しテレホーダイのお世話になる身分。親がケーブルテレビの回線を検討中なのでそれまではダイアルアップで我慢我慢。

 暫くした笛の鳴るような音がしたあと、ようやくインターネットへつながり、ゆっくりとメールを受信する。

 届いたメールは3件。リアルな友達としかメールのやりとりをしていないので、当然知ってる名前が並んでいる。その内1件にただならぬ気配を感じ、とりあえず他の2件を先に確認する。

「ユキヒトの小説か〜 印刷して電車の中で読もう」

 友達の中でも一番付き合いの長い親友、ユキヒトからの小説。これがわたしのツボを突いていて、読み出したら止まらないし、読んでしまうと頭にイラストイメージが湧き上がってきてしまう。読んでイラストを提供するのがわたしの役目ではあるけど、そんなすぐに要求されるようなことはない。むしろ、感謝される方だ。ただ、楽しい小説のイラストを考えるのは楽しいので、止まらなくなって寝れなくなってなってしまう。それはそれで望まれていない。

 なので、感想は明日と返信して、次のメールへ。

「ふ〜ん、ヒイラギの気持ちは落ち着いたか……1ヶ月ぐらいかな?」

 ヒイラギからは心理状態の報告。レポートにまとめる気か?と思うほどに詳細な考察はさすが。男でありながらわたしに告白しておいて、それを考察し続けて報告してくるとは、少し変わった真面目さを持つヒイラギらしい。最初から迷惑はかけないと言っていただけのことはある。

「ふふふ……さてさて、トーヤのメールはっと」

 タイトルが『実は……』なんてところがもう怪しい。

 前置き無く一行目に書かれた文字。

『オレ、お前に惚れてるみたいだ……』

 バスケ部兼合気道部の直球スポーツ男子のトーヤだけのことはある。さすがのわたしも驚いた。

 他男子3人から告白メールを受けたが、長い前置きをニヤニヤ笑いを浮かべながら読んだ後に結論だった。

 でも、最初に驚いただけで、どちらにせよ残った部分をニヤニヤして読むのは同じだ。

「やっぱりみんな髪型について触れるな。みんなそこに惹かれてるって……」

 合計4件の告白メールを読んで思うこと。男というのはいかに見た目に騙されるのか、というのが良く分かる。

 とりあえず、感謝の言葉と今まで通り友達でいよう、という平坦な文章を返す。

「これで後一人。残すはユキヒトだけか〜」

 良く連んでいる友達5人の内、すでに4人から告白メールを受け取った。

「まるでギャルゲの攻略だね。いや、この場合は乙女ゲーか?」

 別にその先に何か期待があるわけでもない。男と恋愛する気はないし、その先なんて考えるだけでもおぞましい。

 だいたい女の子と付き合ったことも無ければキスすらしたことも無い。女の子と付き合ってその先何を望むのかも具体的でない。エロゲのように遊んでいくだけでないことは分かるが、実際どんな風に進むのかも知らない。

 だからこそ、本当にゲーム感覚でやってると自分でも思う。与えられたら条件でどこまでいけるか?それだけ。初期パラメーターに助けられ、ここまでかなりのぬるゲーとして楽に進められてきたけど、爽快恋愛ゲーというのがあればこんな感じだろうか。今のところクリア条件は全員からの告白と設定している。

「さて、どうやってユキヒトを攻略するかな……」

 次もゲーム感覚で考える。本気ではない。だから、女装もしなければ化粧もしない。自分の少し女の子っぽい部分を引き出して人を騙す。あくまでも勘違いしているのは相手、という前提を強調するため。

 男子比率の多い学校で、欲を解放するための娯楽。現実を使った簡単なゲーム──fancygame。


分からない言葉があれば気軽にコメントください。

【用語解説】

テレホーダイ:ダイアルアップインターネット接続時にお世話になった方も多いはず。固定電話で通話料が無料になるサービスで、深夜時間帯に提供されていた。この時期に夜型インターネット利用者が多いのはこいつの所為(笑) 逆に超朝型利用者も少数派ながらいました。時間が規制されるというのはそう言うことですね。

ケーブルテレビ:地上波以外の放送を独自回線で行っているサービスだが、この時期はテレビ番組自体のメインサービスではなく、高速インターネット接続を目当てに加入する人が多かったように思います。わたくしの家もそうでした。

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