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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第四章 天命を受けし者
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斉の南征

 紀元前656年


 正月、(せい)桓公(かんこう)()僖公(きこう(そう)桓公(かんこう(ちん)宣公(せんこう(えい)文公(ぶんこう(てい)文公(ぶんこう(きょ)穆公(ぼくこう(そう)昭公(しょうこうら諸侯と共に(さい)に侵攻した。


 蔡の穆公(ぼくこう)はこの大規模侵攻に驚き、()に救援を求めた。楚はそれに答えた。


 しかし、楚とてこの侵攻に対し、そう簡単にはいかない。大量の兵が必要になる。楚がそれを用意することに手間取っている中、諸侯連合によって蔡は崩壊し、穆公は捕らえられた。


 楚はこの結果に悔しさと同時に安堵もした。ここまでの大規模侵攻は古来よりほとんどなく、これで戦わずに済むと考えたためである。





「蔡君は捕らえました」


 斉の桓公の元に勝利の報告がされていた。諸侯たちもこの勝利を口々に褒め立てた。


 しかし、彼らの言葉を受けても桓公は嬉しそうな表情を浮かべることはなかった。そして、彼は管仲かんちゅうを呼ぶように傍にいる者に伝えた。


「お待たせ致しました」


 管仲はそう言って、現れた。


「構わん、仲父よ」


 彼を近くに来るように手招きした。


「何かございましたか?」


「私はこれから楚を攻めるべきと思う。仲父よ。汝は如何のように思う?」


 桓公の言葉を聞き、思わず彼は息を飲んだ。確かに今、多くの諸侯が斉に従っており、楚を討伐する上で兵数の問題は無い。


 だが、楚を攻めることは事前に諸侯に伝えてはおらず、その準備も諸侯はしていないはずである。それにも関わらず、協力してくれるだろうか?


 しかし、ならばいつ、楚を攻めるのか……


(早いほうが良い)


 管仲はそう考えている。だがらといって、そう簡単には頷けない。


「楚が中原へと勢力を伸ばしておる。そのため楚に従う諸侯も出始めている。故に今、楚を討伐せねばならない」


 桓公の言葉を聞き、彼は少し悩んだ後、同意した。


「承知しました。諸侯と共に楚に侵攻しましょう」


「おお、良く同意してくれた」


「ただ、こちらに従わない諸侯も出てくる可能性があります。それら諸侯はどうなさいますか?」


 こういったことを怠ると不満が生まれてしまう。


「仲父に任せる。されど、できればここにいる全ての諸侯と共に楚を攻めたいと思う」


「承知しました」


 そのように言って、管仲は桓公の元を離れると鮑叔ほうしゅく隰朋しゅうほうを呼び相談した。


「これから、楚討伐に乗り出すこととなった。諸侯の中で反対する諸侯はどれだろうか?」


「恐らく、鄭、陳、許だろう」


「私も鮑叔殿の意見に同意します」


 彼らの言葉に頷くと彼は言った。


「我らで彼らを説得する。私は一番従わないだろう鄭の説得をしよう」


「なら、私は陳を説得しよう」


「ならば、私は許ですね」


 彼らはそれぞれの諸侯の元に行った。





「楚を討伐ですと、事前に聞かされておりません。同意しかねます」


 許の太子・ぎょうが苛立ちながら、隰朋に言った。


「これは全て中原諸侯の秩序のためでございます」


「されど……」


 太子・業が更に言葉を続けようとすると許の穆公が止めた。


「良い、隰朋殿。斉君には承知したとお伝えください」


「しかし、父上。体調が思わしくないのですよ」


 彼の言う通り、許の穆公の顔色はとても悪かった。


「大丈夫だ」


 彼はそう言って、取り合わなかった。





「困りましたなあ」


 陳の大夫・轅濤塗えんとうとが鮑叔に向かって言った。


「私共は蔡を攻めることしかお聞きしていないため、あまり物資を持ってきてないのですよ」


「物資についてはある程度は我が国が援助致します」


「ふむ……」


 轅濤塗は顎を撫でながら……陳の宣公をちらりと見て、同意した。





「楚を攻めますか……」


 鄭の文公は管仲に楚を攻めることを聞き、呟いた。


「ここは同意しましょう」


 孔叔こうしゅくが文公に向かって進言する。


「私も同意致します」


 彼に続いて言った男は申侯・はくである。


 彼は以前、楚の文王ぶんおうの寵臣であったが、文王が亡くなると鄭に行き、文公の寵愛を受けていた。


「うむ、楚を攻めましょう」


「感謝致します」


(思ったより、楽に同意してもらえたな)


 管仲はそう思いながら鮑叔、隰朋と合流し同意してもらった旨を桓公に伝えた。


 諸侯連合は楚に向かって、侵攻した。





「斉を中心に諸侯連合軍がこちらに向かっております」


 楚はこのことを知り、一様に驚き慌てた。


「まさか、南下してくるとは……」


 楚の成王せいおうもさすがに予想していなかったため、呆然としたが、いつまでもそうしているわけにはいかない。


「取り敢えず、無闇に戦闘を行わないよう通達せよ。諸侯連合の盟主である斉君に使者を出せ」


 命令を聞き、使者が斉の桓公の元に行くと彼に成王の言葉を伝えた。


「貴君は北海にあり、私は南海にいる。馬や牛を駆りたてたとしてもお互いの地に至ることはないほど離れているにも関わらず、君が我が地に来られたのはどういうことでしょうかな?」


 桓公の代わりに管仲が答えた。


「かつて、しょう康公こうこうが我らが先君・太公たいこうにこう命じられました『五侯九伯で従わぬ者が居れば、汝が征伐し周王室を援けよ』先君に与えられた任の境域は、東は海に至り、西は黄河に至り、南は穆陵ぼくりょうに至り、北は無棣むていに至る。汝が苞茅ほうぼう(草の名。楚が周王室に進貢することを命じていた)を貢納しないため、王祭に必要な物が不足し、縮酒しゅくしゅができなくなった(周王室の祭祀では、祭壇の前に束ねた苞茅を立てて酒を注ぐ儀式があり、酒の糟が茎の中に溜まり、清められた酒が下に流れる様子を神が酒を飲む姿に見立てていた。これを「縮酒」とと言う)。我々はこれを譴責に参ったのです。また、かつて昭王しょうおうが南征して還らなかったことについても我々はこの罪を問いに来たのだ」


 使者は成王の元に取って返し、管仲の言葉を伝えた。


「左様か……では、こう答えよ」


 使者は彼の言葉を聞き、桓公に伝える。


「進貢しなかったのは我が国の罪である。今後、怠ることはしないだろう。しかし、昭王が還らなかったことに関しては、川にでも聞いていただけたい」


「それでは何ら答えになっておりません」


 管仲は桓公に侵攻を進言。諸侯連合は陘山けいざんにまで侵攻し、駐屯した。




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