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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第三章 天下の主宰者
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魯の兄弟

 現在、改稿中

 かつて、魯の荘公そうこうが楼台(高い建物のこと)を築いた時、その上から党氏しょうしの屋敷を眺めることができた。


 その際、彼は党氏の娘の孟任もうじんを見つけた。彼女は美貌の持ち主のため、彼は彼女を目で追った。すると、彼女は門を閉めて隠れた。


 彼女の美しさに惚れた彼は彼女を夫人に立てるとし、臂を切り、血をもって誓った。


 やがて、彼女との間に子般しはんが産まれた。


 ある年、雩祭うさい(雨乞いの儀式のこと)を開く前のこと。大夫・梁氏りょうしの屋敷でその予行演習が行われ、女公子(恐らく子般の妹)がそれを見物していた。すると圉人(馬を養う職人のこと)・らくが石垣の外から女公子をからかった。これに子般は怒って彼を鞭で打った。


 それを知って、荘公はため息を吐くと言った。


「鞭を打つくらいなら殺すべきだった。それができないというのであれば、鞭を打ってはならなかった」


 犖は怪力の持ち主であり、馬車の傘屋根を魯の稷門の上までそれを投げることができるほどであったのである。犖はこの一件から子般を恨むようになった。


 この年、荘公が病に倒れた。彼は哀姜あいきょうを斉から娶って正夫人に立てていたが、彼女との間に子はできなかった。しかし、哀姜の妹・叔姜しゅくきょうけいという子を産んだ。だが、壮公自身は孟任を愛していた。そのため子般を後継者に立てたいと考えていた。


 荘公には慶父けいほ共仲きょうちゅうともいう)、叔牙しゅくが僖叔きしゅくともいう)、季友きゆう成季せいきともいう)の三人の兄弟がいる。


 荘公は後継者を誰にするべきか、まず叔牙に問うた。すると彼はこう答えた。


「父が死んだらその子が継ぎ、兄が死ねば弟が継ぐ、これが魯の伝統です。兄、慶父は優秀な人物です。彼が後嗣になれば心配いらないでしょう」


 叔牙が退出してから彼は季友を招き、彼に問うた。すると彼は拝礼し、答える。


「私は身命を賭して、子般様を奉じます」


 荘公は彼の言葉に頷きながらも憂いの表情を浮かべ、言った。


「先ほど、牙は『慶父が人材である』と言った。どうすればいいだろうか」


「左様ですか。私にお任せ下さい」


 七月、季友は国君の命として叔牙を大夫・鍼巫しょうふ鍼季しょうき巫は恐らく官名)の家に行くよう言って、彼に会った。


 彼は鍼季にある瓶を持ってこさせ、叔牙に渡した。この瓶にはちんという鳥から作った毒が入っている。


「これを飲めば君の子孫はこの国で、安泰である。しかし拒否すれば、君が死ぬだけでなく、子孫もまた途絶えることになるだろう」


「それは主公の意思であるか」


「左様」


 叔牙は納得するとそれを飲んで家に帰り、その途中の逵泉という場所で死んだ。叔牙の子は家系を継ぐことを許され、彼の子孫は叔孫氏と言われるようになる。


 八月、荘公が路寝で死んだ。


 寝は寝室を意味し、国君は通常、燕寝(小寝)で起居する。しかし、斎戒や疾病の時は路寝で過ごす。路寝で死んだのは、病死したという意味である。


 荘公という人は母が原因で父を亡くし、母の愛を受けるどころか自分が父の子ではないと疑われ、斉の横暴に振り回されることも多く、我慢の連続であった。そんな我慢に耐え続けた人である。


 斉との関係が安定した後の晩年は礼を外れた行為も多かったが、臣下の言葉を良く聞き、政治を行い。農民であった曹沫そうかいを登用し、斉との戦に勝つこともあった。魯の累代の君を見ても、農民から人材を登用したのは彼だけである。


 魯において、名君の一人であることは確かであろう。また、彼に登用された曹沫もまた、彼の後を追うように世を去った。


 季友は荘公との約束通り子般を即位させた。子般は党氏の家に住み、喪に服す。


 その頃、慶父はある人物に会おうと公宮を歩き、後宮に近くに行くと近くに人がいないことを確認して、後宮に向かった。


 本来、後宮は国君意外の男は入ってはいけない。しかし、彼はこのように後宮に入ることを何度も行っていた。そして、彼はある部屋に入った。


「よくいらっしゃいましたわ」


 彼が部屋に入ると部屋の主が言った。その部屋の主は哀姜あいきょうである。以前から慶父と哀姜は私通していた。


「愛も変わらず、美しい」


「あら、うれしい」


 彼女は彼の言葉に嬉しそうにしながら、彼の首に手を回し、抱きついた。


「君が亡くなり、よりにもよってあの女の子が即位してしまいましたわ」


 彼女は以前から孟任のことを嫌っていた。彼女が現れてから寵愛を受けなくなったためである。彼女は正夫人であるから、彼女の子が後継者第一位になるのだが、彼女には子がいない。


「私に子がいれば、あの女の子を即位させなかったものを」


 彼女は歯を噛み締めながら言った。だが、慶父はそんな彼女を宥めながら、言った。


「だが、あなたには妹の子がいるではないか」


「ええ、いますわ。貴方様はあの子を即位させてくれるの」


「ああ、もちろんだとも私に任せてくれ」


 彼は彼女に口付けした。


 十月、慶父は圉人・らくを唆し、彼を使って党氏の家にいる子般を殺させた。


 季友は恐れて、陳に奔った。陳は以前使者として出向いた際、仲良くなった者が多いためである。そんな彼に付き従った女性がいる。その女性の名を成風せいふうという。彼女は荘公の妾である。また彼女に手を引かれるのは荘公との子、公子・しんである。


 こうして啓が即位した。閔公びんこうという。まだ、十代にも満たない幼い子供である。そのため実権を握ったのは慶父である。


 

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