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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第三章 天下の主宰者
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冷酷な人

 紀元前680年


 春、宋が北杏の会盟に背いた。具体的にどのように背いたというのは不明ではある。もしかしたら櫟にいる厲公れいこうを支援しようとしなかったためかもしれない。斉、陳、曹が宋を攻めた。


 斉の桓公かんこうは以前ならば直ぐに攻めたが管仲にこの度の戦を行うべきか聞いた。


「会盟に背いた以上宋には非が有ります。それにも関わらず、攻めないのは盟主とは言えません」


 そのため桓公は軍を動かした。


 斉は周にもこのことを伝えた。すると周は夏、大夫・単伯ぜんはくが援軍としてやってきた。


 諸侯に攻められた宋は諸侯と和睦した。


 宋は諸侯と和睦した以上は厲公を援助しなくてはいけない。



 六月、援助を受けた厲公は鄭に侵攻を始めた。鄭に祭仲さいちゅうがいないことも鄭に侵攻した大きな理由であろう。


 鄭を攻める上で大陵を攻めた。そこで厲公は大夫・傅瑕ふかを捕らえた。彼は厲公に囚われ、このままでは殺されると考え、彼は厲公に言った。


「もし、私を開放させていただければ君を国にお入れいたします」


 策謀家と言って良い厲公は彼を利用して国を得る方が得と判断し、彼と盟を結び釈放した。彼には兵をほとんど与えてない。彼としては成功してもしなくても良いのだ。厲公はそういう人である。


 釈放された傅瑕は鄭の首都に戻ると鄭君である子儀しぎと彼の二人の子を殺し、厲公を招き復位させた。



 実はこの六年前。鄭の南門内で、城内の蛇と城外の蛇とが闘い、城内の蛇が死んだことがあった。そして、六年後、厲公が鄭に入った。このことから魯の荘公そうこう申繻しんじゅに聞いた。


「こんな妖変が起こるものだろうか」


 荘公はこのことで厲公が国に帰れたのではないかと疑問に思ったのである。つまり、妖変とは未来を予知しているものではないかと思ったのだろう。


「このような妖変は人の嫌うところですがこのようなことは己の気から生じるもの。妖は人から生じます。人に隙が無ければ妖は生じませんが人が常道を失うことで生じます。それしか妖変はありません」


 彼は厲公が帰国できたことはこのこととは関係は無く、人の将来とはこのようなもので決まるものではないと荘公をたしなめたのである。妖変のようなことを起きないようにする。それが国君の仕事である。



 厲公は鄭に入ることができたが、彼が最初に行ったことは血なまぐさく、そして、冷酷である。


 彼は自分を国に入れてくれた傅瑕に言った。


「汝は国君に仕える身でありながら二心があった」


 彼は厲公が復位できた功労者であるにも関わらず、こうして彼は処刑された。彼は死に臨んで呟いた。


「大きな徳を受けながらもそれに背いた。こうなっても仕方ない」


 彼を殺したのは彼が功労者であるためこれに褒美を与えなくてはいけなくなる。しかし、彼は国君を殺しているのだある。そんな彼に賞を与えるのは法のことを考えると彼を処刑しなくてはならない。しかし、それでも厲公は功労者である彼を殺した。冷酷な人である。


 傅瑕の後に彼がその牙を向けたのは原繁げんはんである。彼は彼の父・荘公そうこうの代から仕え、祭仲に近かった人である。


「傅瑕は二心を持っていた。そのため周の規定に従い、罪に伏させた。今後、私を受け入れて、二心を持たない者なら、上大夫にしよう。私は伯父(原繁のこと)と国事を図ろうと思うものの、私が櫟にいる間は貴方は国のことを知らせず、私に配慮もしてくれなかった。残念なことだ」


 原繁は答えた。


「先君・桓公かんこうは私の祖先に宗廟の守臣足るよう命じました。社稷を守る方がいるにも関わらず、心が外にある、これ以上に二心があることはないでしょう。社稷を守る者がいたら、国民は全てその臣足るのです。臣に二心があってはならない、これは天の定めです。子儀は即位されてから十四年になります。それにも関わらず、君を国に招こうとするのは二心を持っているということではないと言えましょうか。先君・荘公の御子息はまだ八人います。もしそれぞれが官爵を餌にして裏切りを誘ったとしたら、あなたはどうするつもりでしょうか。私は君の仰せに従います」


 彼はそう言ってから首を吊り、死んだ。


 しかし、彼の言葉は厲公に届いたかどうか。


 厲公のような冷酷さをもった人はもうひとりいる。楚の文王ぶんおうである。


 だが、そんな彼はある一人の女性に対し、悩んでいた。息嬀そくぎである。


 息侯そくこうの妻である彼女は文王の妻となっていた。


 何故彼女が文王の元にいるのか。それは以前の莘の戦で捕虜となった蔡の恵侯けいこうが関わっている。


 彼は捕虜となったことで息侯を恨んだ。そのため文王に息侯の妻である息嬀の美貌を語った。


 それを聞くうちに文王は彼女を欲しいと思った。彼は欲しいと思ったものを何としても得たいと考え実行する人である。ここでも彼は実行に移した。


 文王は息に入り、息侯が彼をもてなしたところを襲い、殺し、息を滅ぼしてしまい息嬀を手に入れた。


 それから時が過ぎ、文王との間に息嬀は二人の子を産んだ。しかし、彼女は文王と一言も喋ろうとしなかった。そのため彼は彼女にその理由を聞いた。すると彼女はこう答えた。


「私は一婦人に過ぎないのにも関わらず、二人の夫につかえることになりました。死ぬこともできなかったのに、何を話すことがありますか」


 楚の文王は彼女の言葉から恵侯に騙されたことを悟り、激怒した。恵侯は捕虜の身分から開放されており、国に戻っていた。


 七月、楚は蔡に侵攻した。

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