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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第十一章 崩壊する秩序
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皇瑗

 紀元前486年


 春、斉の悼公とうこうが公孟綽を呉に送り、魯への出兵の必要がなくなったことを伝えた。


 しかし呉王・夫差ふさはこう言った。


「昨年、私は貴国の命を聞いたが、今また改められた。どれに従えばいいのか分からない。直接、貴国に行って斉君の命を聞くとしよう」


 つまり、お前の国に行くぞということであるため、戦争を吹っ掛けるということである。


 鄭の罕達かんたつ(子姚)の寵臣・許瑕が邑を求めたが、与えられる土地がなかったため、許瑕は国外の地を求めた。


 罕達は同意し、許瑕は宋の雍丘を包囲した。


 しかし宋の皇瑗こうえんが逆に鄭軍を包囲し、毎日、軍を移動させて、鄭軍の周りに堡塁を築き上げ、濠を造った。


 やけに規模の大きい戦をする人である。


 鄭軍は前方の雍丘を落とせず、後方を宋軍に包囲されたため、食糧も援軍も得られなくなり、将兵が大哭した。


 罕達は慌てて、許瑕を援けに行ったが、鄭軍が大敗し、宋軍は雍丘で鄭軍を全滅させた。但し有能な者は殺さず、郟張と鄭羅を連れて帰還した。


 秋、宋の景公けいこうが仕返しとばかりに鄭を攻撃した。


 晋の趙鞅ちょうおうが鄭を援けようとして卜った。


「水が火に向かう」


 と、出たため、趙鞅は史趙、史墨、史亀(三人とも晋の史官)に問うと、まず史亀が答えた。


「『沈陽(陽気が沈むこと)です。兵を起こしてもよい。姜を討てば利があり、子商を討てば不利となる』という意味です。斉(姜姓)を攻撃しても問題はありませんが、宋(子姓で商王朝の後裔)を敵とするのは不吉です」


 次に史墨が言った。


「盈は水の名であり、子は水の位です。名(盈)と位(子)が相当しておりますので趙氏は宋を犯すべきではありません。炎帝は火師(火を掌る官)であり(または「炎帝は火を名称に使った百官を設け」)、姜姓(斉)はその後代です。水は火に勝つので、姜を討つのは問題ありません」


 盈は嬴に通じており、趙氏は嬴姓である。恐らくここでいう「盈」とは、「水が満ちた状態」を指す。よって、趙氏は水に関係することになる。


 子は宋の姓であり、十二支の「子」は北を指し、五行の水に属すため、子姓の宋も水に通じることになる。


 史趙が言った。


「これは川の水が満ちており(盈)、遊泳ができない状態と同じです。鄭に罪がありますので、鄭を援けるべきではありません。鄭を援ければ、不吉となります。それ以外は分かりません」


 つまり水に勢いがあり、その勢いは止められないということで。水は宋のことを指し、宋には敵わないという意味である。


 陽虎ようこも『周易』によって筮占をした。「泰」が「需」に変わるという卦が出た。これは「帝乙が妹(少女。娘)を嫁がせ、祉(福)を受けて大吉にならん」と解釈される。


 陽虎が言った。


「宋に吉があるため、敵対してはなりません。微子啓びしけい(宋の祖)は帝乙(商王朝後期の王)の元子(長子)でございました。宋と鄭は甥舅(婚姻関係。宋女が鄭に嫁いでいたようである)です。祉とは禄(福気。福運。「祉禄」で福という意味になる)です。帝乙の元子が妹を嫁がせ(宋女が鄭に嫁ぎ)、吉禄(福)もあるのですから、我々に吉はありません」


 趙鞅は出兵を中止した。


 冬、呉王・夫差が魯に使者を送り、斉攻撃を通知した。魯にも出兵が要求された。


 この頃、越王・勾践こうせんが帰国して四年が経った。


 彼は范蠡はんれいを招き問うた。


「先人(允常いんじょう)が世を去って私が即位したが、私はまだ若かく、恒常(安定した心。落ち着き)がなく、外出すれば狩猟に明け暮れ、宮内では酒に浸り、百姓の事を考えず、舟や車に乗って遊ぶばかりであった。その結果、上天が越に禍を下し、呉の制御を受けることになったが、呉人の私に対する圧迫は大きすぎるくらいである。よって私は汝と報復を謀りたいと思うが、如何だろうか?」


 范蠡は首を振って答えた。


「まだその時ではありません。上帝が事を成そうとしていない間は、時が変わるのを待つものだと申します。無理に求めるのは不祥です。しかし時を得ても成さなければ、逆に殃(禍)を受けます。天の時を待たなかったら徳を失い名を滅ぼし、流亡して死を招くことになるのです。上天は奪うこともあれば与えることもあり、与えないこともあります。王、焦ってはなりません。呉はいずれ王の呉となります。王が焦って行動したら、事の成否を予測できなくなります」


 彼は呉を滅ぼすならば、完膚なきまで完全な形で滅ぼすべきだと思っている。


 勾践は、


「わかった」


 と頷いた。



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