表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春秋遥かに  作者: 大田牛二
第二章 覇者の時代へ
51/557

運命を分ける一矢

「魯君にご進言致します」


 管仲かんちゅうは魯の荘公そうこうの陣幕に入り、言った。


「貴様、君に対し、無礼であるぞ」


「無礼は承知しております。されど急を要することでございます」


 魯の大夫たちの言葉に管仲は一歩も引かない。


「良い、皆の者。してその前に貴方の名前を伺っても良いかな」


 荘公は大夫たちを抑えると管仲の名を聞いた。


「斉の公子・きゅうの臣、管仲でございます」


「糾殿の傍らに控えていた者であったな」


 荘公はそのように言うに対し、慶父けいほは鼻で笑う。


「ふん、陪臣風情がここに何しに来たのやら」


「よさんか慶父」


 荘公はそんな彼を嗜めるが管仲の目には荘公にも同じような感情があるのが見えた。


(魯は好きになりそうな国ではないな)


 そう思いながらも魯の力が必要である。


「報告します。この先に既に公子・小白しょうはくが先行しているとのことです」


「なんだと」


 魯の大夫たちは一応に驚いた。


「そのようなことある訳無いだろ」


 慶父が怒鳴るが管仲は彼に向かってしっかりと言う。


「私の手の者が知らせてくれたことでございます。公子・小白は既に我らよりも先を行っております」


「公子・小白がいたのは莒であろう。であるのに我らよりも先に行っているのはどういうことか」


「それはわかりませんが確かでございます」


「兵数はどのくらいだ」


「正確な数はわかりませんが少数であると思われます」


 荘公の質問に彼は淡々と答える。今は時が惜しいのである。こうしている間に小白が先に斉に入れば彼が国君として高傒こうけいらは立てるだろう。


「しかし、この者の言葉でどれほど信用なるかわかりませんぞ。先ずは我らの手の者を派遣し真実かどうかを確認するべきです」


「もうそのような時はございません。直ぐ様、兵を派遣し、小白らの道を塞ぐべきです」


「どうだがお前は管仲といったな。そういえば公孫無知を担ぎ上げた者の中に『管』の姓の者が居ったな。お前はその親戚ではないか」


「私とあの者は血縁関係ではありません。それ以上に今は公子・小白の斉入国を防ぐことが必要であるはずです」


 慶父と管仲は言い争う中、陣幕に公子・糾と召忽しょうこつが入ってきた。


「管仲」


 糾は管仲の傍にやってくる。


「どういうことだ」


「小白様が既に我らより、先行しております」


「まさかそのようなことが」


「そうだ。そのようなはず無かろう」


 糾も召忽も驚きを表わにするも管仲はそれに対して、糾の目を見ながら彼は言う。


「確かです」


「そうか、わかった」


 糾は荘公の方を見て言った。


「管仲の言は信用なります。どうか信じていただきたい」


 荘公は彼の言葉に顎を撫でながら、一時悩むと管仲に命じた。


「良かろう。ならば兵の一部を管仲。貴公に率いて公子・小白の進む先に先回りせよ」


「感謝致します」


 糾は荘公の言葉に喜ぶが管仲は喜びは現にせず。


「兵の数は如何程でしょうか」


「二百だ」


(少なすぎる)


 もっと数があれば複数の道を塞ぎ、公子・小白が通れば連携して捕らえるなどができるがこの数ではそういったことができず、ある程度道を特定する必要もある。道を間違えれば公子・小白の斉入国を許すことになる。


(完全に私を信じたわけではないということか)


 荘公というは目の前の管仲という臣に対して、所詮、公子・小白とは違い、国内にいながら己の主を出奔させた男という印象で管仲の能力に関しては低く見ている。


「わかりました。感謝致します」


 管仲は礼を述べてから陣幕を出た。


(相手の正確の数がわからない以上この少数の兵では確実に公子・小白を捕らえるのは難しいか)


 当初の予定とは違う以上、計画を変えなくてはならない。


 彼は配下のものたちを集め、小白の情報を集めた。


「お前が見た時にはこの地点にいたのだな」


「はい」


 配下は彼の言葉に答える形で地図で小白一行がいた地点を指す。


「ならば公子・小白はこの道を通るだろう。そして、ここには丘がある」


 彼は小白一行が通るだろう道をある程度予想し、配下たちにその道を示す。


「ここから公子・小白を射る。そこで君たちに先行してもらい。公子・小白の動きを知らせてもらいたい」


 彼は数名を先行させ、残りの兵と共にその地点に急いで向かった。


 やがて先行していた兵と彼は合流した。


「どうだ」


「公子・小白はもう直ぐこの道を通ります」


「そうか」


 彼は丘の先の道を睨むと小白を射る準備を始めた。


 それから暫くして、兵に守られながら駆ける馬車が見えた。


「公子・小白です」


 配下の一人が叫ぶ。


「よし」


 管仲は小白に向かって弓を構えた。


(あれが公子・小白か)


 初めて小白を見て、そして、その傍らで馬を操っている友である鮑叔ほうしゅくを見た。


(鮑叔……)


 余計な考えを振り払うように頭を振ると彼は小白に向かって矢を放った。



 馬は道なき道をまるで踊るように走るため小白は馬車から落ちそうになりながらも必死に馬車につかまっていた。


「もう少し、何とかならないのか」


 彼は悲鳴を上げるが鮑叔は言う。


「もう少しの辛抱です」


 そんな鮑叔に彼は仕方ないという風に横を向いた。すると丘が見えた。その丘の上に黒い影があるのが見えた。


 何者かと彼は目を細めるとその黒い影から矢が放たれ、その矢は小白の腹部に刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ