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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第二章 覇者の時代へ
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疾駆

 斉を出奔した公子・きゅうらを魯の荘公そうこうは彼らを迎え入れた。


「この度迎え入れていただきありがとうございます」


 糾は荘公に対し、頭を下げ、謝辞を申し上げた。


「よいよい、貴方は私にとって叔父に当たる方だ。ごゆっくりなされよ」


「感謝致します」


 糾と共に召忽しょうこつ管仲かんちゅうも頭を下げる。


 荘公は傍の者に命じ、彼らを部屋に案内させた。


「魯君は主を斉君に直ぐに立たせようとはなさらないようだな」


「そうだな」


 召忽は少し苛立ちを表わにする中、管仲は冷静である。


公孫無知こうそんむちは乱で倒れる。その時になれば魯君は糾様を斉君に立てることに協力するだろう)


 しかし、魯は決して素晴らしい協力者ではない。


(斉の国政に魯の介入を許すことになるかもしれない。だが今は魯の力を借りるしかない)



 糾らが去った後、荘公は大夫たちを集め話し合っていた。


「公子・糾を立てることに異議は無いな」


「えぇ公子・糾の母は魯の者。これを立てればこちらの利益となりましょう」


 申繻しんじゅがそう言うと慶父けいほが苛立ちながら言う。


「ならば何故直ぐに斉を攻めないのだ」


 これに臧孫達ぞうそんたつが反論する。


「斉で乱を起こした公孫無知は必ずこの報いを受けるだろう。それから動けば良い」


「それに斉に上卿である高傒こうけいの動きが不明であるし、公子・小白しょうはくも莒に居る。油断はなりません」


 荘公は申繻の言葉を聞くと顎を撫でながら言った。


「ともかく。今は来たるべき時に備えるしかない」



 紀元前685年


 念願の地位を得た公孫無知は浮かれていた。


 宮中でどんちゃん騒ぎを毎日のように行い。国政を顧みなかった。そんな調子の彼はこの年の春、自分が虐げていた大夫・雍廩ようりんにより殺された。呆気ない死である。


 公孫無知の死で素早く動いたのは高傒である。彼は公孫無知を担ぎ上げた連称れんしょう管至父かんしほら一派を粛清し、配下に命じた。


「公子・小白を向かい入れる。使者を出せ」


 使者は莒に向かった。



 夏、公孫無知の死は魯にも伝わった。


「良し、軍を出す」


 荘公が自ら、軍を率いて糾らと共に斉に進軍を始めたが、その軍の速度は大軍故にゆっくりなものであった。


「遅過ぎはしませんか」


 管仲はこの軍の進軍の速度に不安を覚えた。


「公子・小白のことを心配しているのであれば心配はいらない。小白の居る莒はここよりも遠い。斉に先に入ることのできるのは私たちだ」


 召忽はそう言うが管仲の不安は消えない。


(確かにそうだがそのことは莒に逃れている鮑叔ほうしゅくとて考えているはずだ)


「もう少し軍の速度を早めるべきだ」


「何故そこまで警戒する。小白が公孫無知の死を知り、斉に向かうにはその死を知る前に動かなければならない」


 管仲の意見に彼は反対する。


「だが……それでも早めるべきだ」


 管仲はそう言った後、糾を見た。だが彼は召忽の方を向き、召忽が管仲の意見に賛同しないのを見て何も言わなかった。そんな糾にため息を吐いた管仲は両手を握り締めながら。


(何も行動できない。そのことがこれほど口惜しいこととは思わなかった)


 管仲は悔しさを滲ませながら天を仰いだ。その時、一羽の鳥が飛んでいるのを見た。


 管仲は配下の者を集め先行させることにした。



 高傒の使者は莒に向かって馬を駆ける。すると前方より馬車がやって来た。その馬車に乗っているのはなんと公子・小白ではないか。


「小白様」


「おぉ私が小白だが何用か」


 使者は馬から降り、書簡を小白に渡した。


「公孫無知が殺させたため至急来たれりか」


 彼は書簡を傍らにいる鮑叔に渡した。


「確かに高傒殿の書簡でございますね。小白様の予感が当たりましたな」


 小白と鮑叔らがこうして馬車を走らせて斉に向かっているのは彼が突然、斉に行くと行ったためである。

 最初、鮑叔は高傒からの知らせを待ってからで構わないと思っていたが小白はそれでは遅いと言い、こうして馬車を走らせていた。


「既に魯が公子・糾を伴い動いているという話でございました」


「何とそうか」


(危なかった。魯が思ったより速く動いたな。もし、小白様の言葉に従っていなかったら)


 ほんの少しの差が運命を分けることになる。


「ならば急ごう糾が先に入れば高傒と国氏は糾を立てるだろう」


 高傒も国氏も決してこちらの味方ではない。状況によってはこちらに牙を向けることも平気に行うだろう。


「そうですね。急ぎましょう。魯は軍を率いているでしょうから速さではこちらの方が上でしょう」


「ならば行くぞ。急げ、急げ」


 小白は馬車を大急ぎに走らせる。それを枝の上に止まっている黄色い鳥が見つめていた。



「何だと」


 魯の軍にいる管仲は配下の者の報告を聞いて驚きを表わにしていた。


「はっ既に公子・小白は我らよりも先行しております」


(速い、流石に速すぎる)


 小白たちの動きの速さに管仲は驚いていた。本来であれば高傒からの報告があったとしても莒から来て自分たちよりも先にいるのは不可能なはずだ。


(空を飛んで来たというのか。それとも天が公子・小白を導いていると言うのか)


 しかし、こうなった以上、これを阻まなくてはならない。


「魯君に直接進言しに行く」


 管仲は荘公の元に向かった。

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