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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第十章 権力下降

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撤退

すいません遅れました

 夫槩ふがいが楚、秦連合に敗れたという報告が呉王・闔閭こうりょに持たされると彼は書簡を床に投げつけた。


「何をやっていたのかあやつは」


「王、落ち着きください。使者よ。范蠡はんれいはどうした?」


 伍子胥ごししょが問いかけると、使者は、


「范蠡様も行方が分かっておりません」


(范蠡も夫槩の敗北に巻き込まれたというのか)


 彼は大いに悔しがりつつも、今の状況を打開するを考えることが先決であった。


「王、直ぐ様、軍備を整え楚、秦に備えるべきです」


「うむ、そのとおりだ」


 呉軍は、楚、秦に備えるために雍澨へ進軍した。


「呉軍がまたもや来たか。では、楚軍の皆様方、お願いいたしますぞ」


 秦の子蒲しほ子虎しこは楚軍にそう言って、楚軍だけに先ず呉軍と戦わせた。


 呉軍は楚軍とぶつかるとこれを破った。


「良し、このまま追撃だ」


 破れて、退却していく楚軍に呉軍は追撃をかける。


「呉軍とやらは、進歩がないようだ」


 子蒲率いる秦は夫槩を破った時と同じように呉軍の後方に回り込み、そのまま呉軍に襲いかかった。それを見ると楚軍は反転し、呉軍に襲いかかった。


 呉軍はボロボロになりながら麇にまで退くと楚の子期しきが火攻めを行おうとすると、子西しせいが止めた。


「父兄親戚の骨が晒され、収めることもできていない。焼いてはならん」

 

 しかし、子期は、


「国が亡んでしまえば、死者に知覚があったとしてもどうして旧祀(今までの祭祀)を享受できるというのか。国が滅べば、死者が祭祀を受けたいと思っても受けられなくなるのだぞ。なぜ焼かれることを畏れるというのか」

 

 楚軍は火攻めを行い、総攻撃して呉軍を破った。更に公壻の谿(地名)でも呉軍は楚軍に敗れた。


「報告します。楚、秦連合に挑んだ我が軍は大破されました」


 またしても呉軍の敗北が呉王・闔閭に持たされた。


「このままでは……」


 そこに慌てて、兵士が駆け込んできた。


「ほ、報告します」


 兵士の顔は青ざめていた。


「ふ、夫槩様が謀反を起こされました」


「謀反だと、どういうことか」


 思わず、呉王・闔閭を始め、呉の臣下たちは立ち上がった。


「夫槩様は勝手に帰国し、王を差し置いて王を名乗っております」


 兵士は更に唾を飲み込む。


「夫槩様のほかに范蠡様も参加なさっているとのことです」


「范蠡がだと」


 伍子胥は誰よりも動揺した。何故、彼が謀反を起こしたのかと疑問に思いながらも今、現実に彼が夫槩と謀反を起こしたという事実のみがあるだけである。ならば現状を打破することを考えなければならない。


「王、直ぐ様ご帰国するべきです」


「ここまで来て、楚都を放棄せよというのか」


「ここまで来てしまったからこそ、帰国するのです。今、呉の都さえも危機にあるのです。直ぐ様、夫槩を始末できなければ、呉の基盤が揺らぐ可能性があります」


 ここまで言われても、呉王・闔閭は決断しようとしなかったが、伍子胥は説得を行う。


「今、帰国しなければ、我々は変える場所を失ってしまいます。どうかご決断くだされ」


「わかった。我らは楚都を放棄し、呉に帰還する」


 呉王・闔閭はついに楚都からの帰還を決めた。








「あっははは、こうも簡単に都を取ることができたぞ」


 夫槩は呉都を陥落させ、玉座について夫槩王と名乗っていた。


「しかしながらまだ、闔閭の軍も孫武そんぶも軍を健在です。楚、秦連合と越と連携を取りましょう」


「連中と力を合わせぬとも、闔閭も孫武など敵ではない」


(どこからそのような自信が出るのか)


「しかしながらどちらも相手できるほど、我々も兵がいるわけではありません」


 ただでさえ、季礼きさつや太子・終纍しゅうるいは捕らえることができず、逃走を許してしまっている。


「ふん、先ずは闔閭の軍を破るとしよう」


「私は反対です」


「なぜだ」


 范蠡は答えた。


「相手の軍の孤立具合です。孫武の軍よりも闔閭の軍の方が敵地にあって孤立しており、時間さえ稼げば、相手を飢えさせ、勝利することができましょう。なので軍を必要以上、裂かずに孫武を数で押し込むできではないでしょうか」


 孫武の攻略は難しいだろうが、数の差での勝負に持ち込めば、勝てると思えた。また、もし孫武の軍をほっとくと、怖い軍でもあった。


「いや、闔閭を討ち、私の王位を安定させることこそが急務だ」


 と言って、夫槩は聞く耳を持とうとせず、そのまま闔閭と戦うことになった。


「全く、孫武のことをほっておくべきではなかろうに」


 范蠡は後方の孫武が越を破って、後方を襲われた時のため、呉句卑を共闘の使者として越に派遣した。









 呉句卑は范蠡の命を受け、越の元に向かった。越は現在、孫武の軍と対峙していた。范蠡の予想では越が孫武を破ることはないと考えている。


「何者か」


 越兵が彼を見つけ、矛を向けた。


「私は夫槩王の臣、呉句卑と申します」


「夫槩王だと」


「越王に使者として参った」


 越兵は怪しみながらも、越王・允常いんじょうの元に案内した。


「何用かな使者殿」


「我が王よりのお言葉を伝えます。孫武との戦いにおいては、時間稼ぎを行っていただきたく、お礼は必ずや行いましょう」


「はっははは」


 突然、越王・允常は笑いだした。


「汝は見ておらぬのか」


「何をでしょうか?」


「まあ、良い付いて参れ」


 そう言って、允常は孫武が布陣している場所を指さした。


「あそこに見えるのは、孫武の陣だ」


「はい」


 そこには呉の旗が立っている。だが、どこか違和感があった。


「もう少し近づけばわかるだろう」


 彼を連れて允常は孫武の陣に近づいた。


「こ、これは」


「そうだ。もうここには孫武はいないのだ」


 そこにはもぬけのからとなっていた陣があった。


(范蠡様)


 呉句卑は范蠡に危機が近づいていることを悟った。










 范蠡は夫槩に従い、闔閭の軍と対峙していた。


「ふん、必ずや闔閭を討ち真の呉王になってやる」


 そう言って夫槩は早速、進軍し始めたその時、突然、後方が慌ただしくなった。


「なんだ。何が起きている」


(これは、まさか……)


「報告します。後方に突然、孫武の軍が現れました」


「やつは越と戦っていたわけのではなかったのか」


 孫武は越の呉への侵攻を受け、呉に帰国していた。彼は越の侵攻に防御陣をひき、越に対処しようとしたが、そこに夫槩の謀反について知った

 。

 そこで彼は防御陣のうち相手の真正面の防御を少し緩くし、通し旗を並べ、相手に少数と思わず、時間稼ぎをさせ、自分の軍を一気に呉へと戻り、夫槩の後方から襲いかかったのであった。


 突然、現れた孫武を前に范蠡が必死に指揮を執るが、兵法の差で敗れてしまった。


 夫槩はこの事態に大いに動揺し、ボロボロになりながら楚へと逃れた。


 楚に帰順した夫槩は堂谿に封じられたため、後に堂谿氏を名乗るようになる。


 孫武の登場によって、夫槩は破れ、呉国内での混乱を治めることができたものの、呉は楚都を陥落させるという偉業を成し遂げながらも楚への油断もあり、楚攻略に失敗し、撤退していった。


 孫武と合流を果たした伍子胥が孫武に訪ねた。


「范蠡はどうなされた」


「わかりません。少なくとも、遺体は発見されていない」


「そうか……」


 范蠡は敗北した後、影のように姿を消していた。




 

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