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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第十章 権力下降

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祁氏と羊舌氏の滅亡

 晋の祁勝きしょうと鄔臧(二人とも祁盈きえいの家臣。祁盈は祁傒きけいの孫で祁午きごの子)が通室した。


「通室」というのは、妻を換えて姦通すること、または同室で淫行を行うことである。どちらにしても世間的に好まれる行為ではないことは確かである。

 

 それを知った祁盈が二人を捕えようとした。事前に司馬叔游しばしゅくゆう司馬叔侯しばしゅくこうの子)に相談する。すると司馬叔游はこう言った。


「『鄭書(鄭の古書)』にこうあります『実直な者を嫉妬し、嫌う者は実に多いものだ』無道の者が位におりますので、あなたは禍から逃れられないでしょう。『詩(大雅・板)』にもこうあります『民には邪が多い。私は邪に陥らないようにしよう(邪に関わらないようにしよう)』今は二人を捕えない方が良いのではないでしょうか」

 

 しかし祁盈は、


「祁氏の家臣を討つのだ。国は関係ない」


 と言って二人を捕えた。

 

 逮捕された祁勝が荀躒じゅんれきに賄賂を贈ったため、荀躒は祁勝を助けるように晋の頃公けいこうに進言した。

 

 頃公は祁盈を逮捕した。

 

 それを知って祁盈の臣下たちは、


「いずれにしても我が主は殺されることだろう。それならば我が君(祁盈)に祁勝と鄔臧の死を伝えて喜ばせた方が良いではないか」


 と話し、祁勝と鄔臧を殺した。

 

 六月、晋はこの一連の事件により、祁盈と楊食我ようしょくがを殺した。楊食我は叔向しゅくきょう)の子・伯石はくせきのことで、楊は食邑である。


 羊舌氏であるため、羊舌食我ようぜつしょくがともいう。

 

 楊食我は祁盈と親しくしていたため、祁盈の乱を助けたとみなされたのである。

 

 こうして祁氏と羊舌氏が滅ぼされた。

 

 二族の邑は十県に分けられ、六卿の子が各県の大夫に封じられた。晋公室はますます衰弱し、六卿は益々強大になることになる。

 

 かつて叔向は巫臣ふしん夏姫かきの間にできた娘を娶ろうとした。しかし叔向の母は自分の親族の娘を娶らせたいと思っていた。

 

 叔向が母に言った。


「私は母が多いにも関わらず、庶子は多くありません。私は舅氏(母側の親戚)を懲(戒め。教訓。鑑)としたいです」


 彼の父には妾がたくさんいたが、子があまりできなかった。母の一族は子に恵まれない家系であろうから、母の親族と結婚しても子沢山にならないかということである。

 

 母が言った。


子霊しれい(巫臣)の妻(夏姫)は三夫(二人は子蛮しばん御叔ぎょしゅく。三人目は恐らく巫臣。巫臣は夏姫より先に死んだ可能性もある)、一君(陳の霊公れいこう)、一子(夏徴舒かちょうじょ)を殺し、一国(陳)を滅ぼし、二卿(公寧こうねい儀行父ぎこうほ)を亡命させました。これを懲(戒め)としないのですか。『甚だしい美には甚だしい悪があるものだ』とも申します。彼女は鄭の穆公ぼくこうの少妃・姚子の子で、子貉(鄭の霊公れいこう)の妹でしたが、子貉は早く死に(公子・帰生きせいに殺された)、後嗣が途絶えたため、天はその美を彼女に集めたのです。彼女によって事が敗れるのは当然でしょう。昔、有仍氏が産んだ娘は黰(髪)が黒くて美しく、鑑のように輝いていたため、『玄妻(玄は黒の意味)』と呼ばれ、後に楽正の后夔が彼女を娶って伯封を産むことになりましたが、伯封は豕心(豚のような心)を持ち、貪婪に限りなく、暴虐に底がなく、『封豕(封は大きいという意味)』と呼ばれたのです。しかし有窮氏の后羿がこれを滅ぼしたため、夔は祭祀が継承されなくなったのです。三代(夏・商・西周)の滅亡も共子(晋の献公けんこうの太子・申生しんせい)が廃されたのも、全てこの物(美色)が原因です。汝はそのような者を娶ってどうするというのですか。尤物(優れた物。美女)を得れば、人は変わるものです。徳と義をもたない者がそれを自分のものにしたら、必ず禍が起くことでしょう」

 

 しかしながら晋の平公へいこうが認めたこともあり、結婚してやがて生まれたのが伯石(楊食我)であった。

 

 伯石が産まれた時、子容しようの母(伯華はくかの妻。叔向の嫂)が叔向の母に会いに行ってこう言った。


長叔姒ちょうしゅくじが男児を生みました」

 

 長叔は一番大きい弟を指す。ここでは伯華の弟・叔向のことで、兄弟の妻を姒・娣といい、年長者が姒、年少者が娣となる。


 叔向は伯華の弟であるが、妻(夏姫の娘)は伯華の妻より年上だったことが分かる。叔向の母が見に行って堂まで来た時、赤子の泣き声が聞こえた。母は引き返して言った。


「あの声は豺狼の声のようです。狼のような子には狼のような野心があるものです。羊舌氏の宗族を滅ぼすのは、あの子に違いないでしょう」

 

 さて、叔向の母は主に羊舌姫ようぜつき叔姫しゅくきと呼ばれる。ここで不思議なのは、彼女が姫姓であるということである。


 何故ならば、叔向の父は公族出身であり、公族である晋公室は姫姓なのであるから、叔向の父も叔向自身も姫姓ということである。ということは同姓結婚をしていることになる。


 同姓結婚は礼に反するというのが当時の考え方である。そうすると叔向の父と彼女の結婚は礼に反したものであったということである。


 そのことを彼女に指摘するのは酷ではあろう。しかし、礼に反したものであったという感情は彼女はずっと抱え込んでおり、彼女の息子たちへの態度はそこが原因の可能性があるのかもしれない。



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