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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第九章 名宰相の時代

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蔡滅亡

 紀元前531年


 二月、魯の叔弓しゅくきゅうが宋に行った。前年死んだ宋の平公(へいこうの葬送のためである。

 

 ある日、周の景王けいおうが大夫・萇弘ちょうこうに聞いた。


「今の諸侯の中では、誰が吉で誰が凶であろうか?」

 

「蔡が凶です。蔡公・はん霊公れいこう)がその君(景公けいこう)を殺した年(紀元前543年)には歳星(木星)が豕韋(歳星の軌道の一部)に居り、十三年経った今年、また豕韋に戻りました。よって蔡がこの一年を越えることはできないでしょう。但し、楚が蔡を領有することになりますが、それによって楚は悪徳を積み重ねることになります。歳星が大梁に至る時、蔡が復国して楚で凶が起きます。これは天の道です」


 楚の霊王れいおうが楚王・郟敖を殺した時も、歳星が大梁にいたため、楚で凶が起きると彼は言ったのである。

 

 霊王が申に霊公を招いた。霊公が招きに応じようとすると、蔡の大夫が止めた。


「楚王は貪婪で信が無く、常に蔡を怨んでおります(蔡が楚に近接しているのに服従しないため)。それなのに今回、幣礼が重く言が甘いのは、我々を誘い出したいからでしょう。行くべきではございません」

 

 しかし、霊公は諫言を聞き入れなかった

 

 三月、霊王は甲士を隠して霊公を申の酒宴に招待し、霊公に酒を勧めて、酔ったところを捕えられた。

 

 四月、霊王は霊公と同行していた士七十人を殺した。それと同時に楚の公子・棄疾きしつが蔡を包囲した。

 

 この状況は晋にも伝えられた。晋の韓起かんき叔向しゅくきょうに問うた。


「楚は勝つだろうか?」

 

 叔向は頷きとともに答えた。


「勝ちます。蔡君はその君(景公)の罪を得たうえ、民を治めることができませんでした。だから天は楚の手を借りて蔡君を打倒したのです。勝てないはずがありません。但し、不信による幸(幸運)は二度も起きないと申します。以前、楚王は孫呉(陳の太孫・。かつての陳の太子・偃師えんしの子。)を奉じて陳を討伐し、『汝の国を安定させよう』と約束しました。それを信じた陳人は楚王の命に従いましたが、陳は滅ぼされ、楚の県にされてしまいました。今また蔡を誘ってその君を殺し、その国を包囲しております。幸によって勝てたとしても、必ず咎を受けることになります。楚王は久しくはないでしょう。桀王けつおうは有緡に勝ってその国を失い、紂王は東夷に勝ってその身を滅ぼしました。楚は(夏・商よりも)小さく位も下にも関わらず、二王よりも頻繁に暴虐を繰り返しています。咎が無いはずがありません。天が楚の不善を助けるのは祚(福)を与えるためではなく、わざと凶悪を厚くさせて罰を降そうとしているのです。天は五材(金・木・水・火・土)を生み、人々はそれを使っていますが、五材の力を使い尽くしたら、人々は五材を棄て去ります。同じように天は楚王を利用しており、利用し終えれば、棄てられるので楚王は助かりません」

 

 五月、魯の昭公しょうこうの母・斉帰せいき(胡女。帰姓)が死んだ。しかしながら昭公は母の喪中に比蒲(地名)で大蒐(狩猟。閲兵)を行った。そのため礼から外れたとして非難された。

 

 魯の仲孫貜ちゅうそんかくが両国の友好関係を確認するため、邾の荘公そうこうと会見し、祲祥(または「侵羊」。詳細位置不明。一説では曲阜附近)で盟を結んだ。

 

 会盟の少し前、泉丘にある娘がおり、夢の中で孟氏の廟を帷幕で覆った。目が覚めた娘は仲孫貜に会いに行き、その僚(友人。近所の娘)も後を追った。

 

 二人は清丘の社で、


「私達に子ができても互いに裏切らない」


 と誓った。

 

 仲孫貜はその話しを聞くと二人を妾とし、薳氏(邑名)に住ませて簉(妾)にした(もしくは、薳氏は地名ではなく仲孫貜の正妻の名で、二人を妾にして正妻の薳氏を助けさせることにした)。

 

 祲祥の会から戻った仲孫貜は薳氏に泊まり、泉丘の娘と関係を結んだ。娘は何忌かき仲孫閲ちゅうそんあつ南宮敬叔なんきゅうけいしゅく)を産んだ。


 祲祥の帰りに交わって二子が産まれたため、双子という説もある。僚(友人)には子ができなかったため、仲孫閲を養育させた。

 

 楚軍が蔡を包囲している中、晋の荀呉じゅんごが韓起に進言した。


「陳を救うことができず、また蔡を救うことができなければ、晋に親しくする者がいなくなり、晋の不能を知られることになりましょう。盟主でありながらも亡国を心配しないようであれば、盟主の意味はありません」

 

 秋、蔡救援を図るため晋の韓起、魯の季孫意如きそんいじょ、斉の国弱こくじゃく、宋の華亥かげい、衛の北宮佗ほくきゅうた、鄭の罕虎かんこ子皮しひ)および曹人、杞人が厥憖(または「屈銀」。詳細位置不明。一説では衛地)で会した。

 

 子皮が出発する時、子産しさんが言った。


「遠くで開かれている会に参加している間に、蔡は滅ぼされることになりましょう。蔡は小国にも関わらず、服従せず、楚は大国にも関わらず、徳がありません。天は蔡を棄てて楚の悪を重ねさせ、それが満ちたら罰しようとしているのです。今回、蔡は必ず亡びます。そもそも、自分の主君を殺したのに、国を維持できる者はわずかしかおりません。そして三年後には、楚君も咎を受けることになりましょう。美も悪も歳星の周期によって繰り返されます。王の悪はもうすぐ一周します(歳星は十二年で一周)」

 

 子産としては会を開くのは遅すぎるのと、会を開く場所も遠すぎる。よって晋は楚に対して、目立ったことはしないだろうと考えている。


 だが、諸国の中には変に蔡を助けるべきと主張するものがいるかもしれないため、それに同調することがないよう子皮に言ったのである。

 

 晋が大夫・狐父こほを楚に送って蔡の包囲を解くように請うたが、楚は拒否した。

 

 周の単の成公せいこうが戚で晋の韓起と会した。景王の命を伝える立場にいる彼だが、その視線は下を向き、言葉もはっきりしなかった。

 

 後に叔向が言った。


「彼はもうすぐ死ぬだろう。朝見には著定(決められた席)があり、会見には特定の表(席次が書かれた標識)があり、衣服には禬(襟が交わる場所)があり、帯には結(結ぶ場所)がある。会朝(会見・朝見)の言は必ず表・著の位(標札が立てられた所定の場所。ここではその場にいる全員の意味)に聞こえるようでなければならない。そうであるから事序(事の道理)を明らかにできる。視線は結・禬より上でなければならない。これは容貌を正すためだ。言によって命が発せられ、容貌によって態度が明らかにされるものであるが、逆にそれらを失えば、誤りを招くことになる。今、彼は王官の伯(長)であり、諸侯の会に王命を伝えに来たにも関わらず、視線は帯より上がらず、言も一歩離れたら聞こえなかった。貌(外貌)は容(威儀。儀容)を正すことなく、言は明らかではない。不道(儀容を正さないこと)なら不恭になり、不昭(明らかではないこと)なら不従(人が従わないこと)になる。彼は既に身体を守る気を失っているのだろう」

 

 九月、魯が小君・斉帰を埋葬した。しかし昭公には悲しむ様子が見られなかった。

 

 この時、晋の士(名不明)も葬送に参加していた。礼では、諸侯の夫人が死んだら士が弔問し、大夫が葬送することになっていたが、晋は盟主であるため葬送にも士を参加させたようである。あるいは、大夫も葬送に参加しており、士はその介(副使)を勤めたのかもしれない。

 

 帰国した士が魯の状況を史趙しちょうに話すと、史趙はこう言った。


「魯君は魯郊になるだろう」

 

 この言葉には二つの解釈ができる。


 一つは昭公が出奔して魯の郊外(または隣国)に住むことになる、という意味。もう一つは昭公の死後、魯の郊祭に配されるという意味である。


 国君が死んでから跡を継ぐ者がいない場合、その国君は郊祭で祀られる。つまり郊祭に配されるというのは子孫が途絶えるという意味になる。


 昭公は晩年に出奔し、死後は弟が継いだので、後嗣が途絶えることになる。

 

 史趙の侍者が、


「なぜですか」


 と問うと、史趙はこう言った。


「魯君は帰姓(斉帰)の子にも関わらず、親を想わない。それでは祖先に守られることがないではないか」

 

 叔向もまた、こう言っている。


「魯の公室は衰退するだろう。国君に大喪があったにも関わらず、国は蒐を中止せず、三年の喪がありながらも、一日も悲しまなかった。国が喪を悲しみとしないのは主君を畏れないためである。国君が喪を悲しまないのは親を顧みないからである。国が主君を畏れず、国君が親を顧みないのでは、衰退しないはずがない。いずれ国を失うだろう」

 

 十一月、楚軍が蔡を滅ぼした。元々公子・棄疾が蔡を包囲していたが、その後、霊王の軍も合流したようである。

 

 霊王は蔡の世子・ゆう(または「友」。霊公の子で、隠太子と呼ばれている。隠は諡号)を捕えて兵を還した。

 

 その後、霊王は隠太子を殺して岡山を祀った。

 

 申無宇しんむうが言った。


「不祥なことである。五牲(五種類の犠牲。牛・羊・豚・犬・鶏)でも同時に用いてはならないにも関わらず、諸侯を犠牲に使うとは。王は必ず後悔することになるだろう」



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