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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第九章 名宰相の時代

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国を亡ぼす音

蛇足も更新してます。


後、『ウルトラQ』を初めて見ました。まだ四話しか見てませんけど、中々良かったです。



 紀元前534年


 春、晋の魏楡で石が話をしたという奇妙なことが起きた。

 

 晋の平公(へいこう)師曠(しこう)に、


「石がなぜ話をしたのだ?」


 と問うと、師曠はこう答えた。


「石は話ができません。何かが憑依したか、そうでなければ民が聞き間違えたのでしょう。私はこう聞いたことがあります『国事が農事に影響を与えれば、怨恨誹謗が民の中に生まれ、話すことができない物も話しをするものだ』今、宮室が高大奢侈となり、民力が使い尽くされておりますので、民の中には怨みと非難が生まれ、生活を保つのも難しくなっているのです。石が話をしてもおかしくはないでしょう」

 

 当時、平公は虒祁の宮を建造していたため、師曠はそれを非難したのである。

 

 叔向(しゅくきょう)はこのことを聞くと、こう言った。


子野(しや)(師曠の字)の言は君子のものと言える。君子の言とは信があり、徴(証明)があるものだ。だから怨恨は君子の身を避けて行くのである。逆に小人の言とは僭(不信)であり徴がない。だから怨みと咎がその身に及ぶのだ。『詩(小雅・雨無正)』にはこうある『話ができないとは哀しいことである。舌から言葉が出なければ、己を疲れさせるだけだ。話ができるとは素晴らしいことである。流れるように巧みに話し、自分を安んじることができる』まさに子野の言がこれである。宮殿が完成すれば、諸侯は必ず叛し、主公はその咎を受けることになる。彼はそれを知っている」


 師曠が質問に答えながらもうまく諫言したため、言葉が巧であると評価し、彼の見識を称えた。








 ある時、衛の霊公(れいこう)が晋に行くことがあった。その途中、濮水の辺の上舍(高級な館舎)で宿泊すると夜半に鼓琴の音が聞こえてきた。


 しかし、霊公が左右の者に、


「聞こえるか?」


 と聞いても皆は、


「聞こえません」


 と答えた。そこで霊公は師涓(しけん)(楽師。涓が名)を招き、こう言った。


「私は鼓琴の音を聞いたのだが、左右の者は聞こえなかったと言うのだ。まるで鬼神の行いのようである。私が汝に聞かせるから、その曲を記録せよ」

 

 師涓は、


「分かりました(諾)」


 と言うと、琴を準備して霊公の傍に正座し、霊公の声を聞きながら曲を記録した。

 

 翌日、霊公が曲をまとめたか確認すると、師涓が言った。


「全てまとめたのですが、まだ習得するまでに至っておりません。もう一泊して練習させてくださいませ」

 

 霊公は同意し、更に翌日、師涓が


「習得しました」


 と言ったため、霊公一行は出発し、晋に入って平公に謁見した。

 

 平公は施恵の台(虒祁の宮)で宴を開いて霊公をもてなした。酒が回ると霊公は、


「今回、来る途中で新声(新しい音楽)を聞きましたので、演奏をお聞きき下さい」

 

 音楽が好きな平公は喜んで、許可したため、霊公は師涓を師曠の傍に座らせて、琴を弾かせた。

 

 音楽が奏でられると師曠は眉を顰め、弾き終わる前に師曠が手で師涓を制した。そして、平公に向かって言った。


「これは亡国の声(音楽)でございます。最後まで演奏させてはなりません」

 

「何が根拠であるか?」

 

 師曠は、眉をひそめたまま、


「これは師延(しえん)が作った曲でございます。彼は紂王(ちゅうおう)のために靡靡の楽(頽廃した音楽)を作ったと言われています。武王(ぶおう)が紂王を討伐した際、師延は東方に逃走して濮水に身を投げたため、この声(音楽)は濮水の辺で聞こえるのです。これを聞いた者は国が削られると言われております」

 

 ところが平公はこう言った。


「私の好きな音である。最後まで聞かせよ」

 

 師涓は最後まで演奏した。

 

 新声を気に入ったような平公の表情を見て、師曠は呟いた。


「公室は衰えるだろう。国君に衰退の兆が見えている。本来、楽(音楽)とは山川(国)の風(教化)を各地に通じさせ、徳を広遠な地に拡めさせるためにある。楽は徳を拡め、山川を遠くし、国の教えを遠くに拡げさせ、万物を感化させる。詩を作って歌い、礼を定めてから節を守るために、徳が広遠に行きわたり、時(農業等の労動をするべき時期・秩序)と節(行動の規範・礼節)が生まれ、遠方の者が帰服して近い者も離れないのである。このような大切な音楽を疎かにしたのだから、公室は衰えることになる」

 

 師涓の演奏を聞き終わった平公が言った。


「これほど心を動かす音(音楽)があるだろうか?」

 

 師曠が言った。


「あります」

 

「それを聞くことができるか?」


 と問うと、師曠は難しい顔をしながら、


「主公の徳義が薄いため、聞くことができないでしょう」

 

「私が愛する娯楽は音(音楽)しかないのだ。ぜひ聞かせてほしい」

 

 師曠はやむなく琴をとって演奏を始めた。

 

 一度、演奏すると十数羽の玄鶴(黒い老いた鶴)が廊門に集まり、再び演奏すると玄鶴が首を伸ばして鳴き、翼を伸ばして舞った。

 

 平公は大喜びし、立ち上がって師曠に祝いの酒を勧めた。席に戻った平公が言った。


「これ以上に心を動かす音はないのだろうか?」

 

「あります。かつて、黄帝(こうてい)が鬼神を集めた音でございます。しかしながら主公は徳義が薄いため、聞くことができないでしょう。聞いたら敗亡することになります」

 

「私も老いた。愛する娯楽は音だけなのだ。ぜひ聞いてみたい」

 

 師曠はやむなく琴をとって演奏した。

 

 一度、演奏すると白雲が西北に現れ、再び演奏すると大風が吹いて雨が降った。そのため廊屋(主室の左右の部屋)の瓦が吹き飛ばされ、左右に仕える近臣は恐怖のあまり逃げ出した。


 平公も驚き恐れて廊屋に伏せた。

 

 この後、晋に大旱が襲い、三年間、草木が生えない赤地になったという。



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