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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第八章 暗き時代

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向戌

 以前、宋の大夫・芮司徒(ぜいしと(芮は氏)に女児が産まれたが、色が赤く毛が生えていたため、堤の下に棄てた。


 それを共姫きょうき宋伯姫そうはくき。宋の共公きょうこう夫人)の妾が拾って育て、と名付けた。


 棄は成長すると美女になった。


 ある日の夕方、宋の平公へいこうが母・共姫を訪ねて一緒に食事をしたことがあった。そこで平公は美女・棄を見つけ、気に入ったため、共姫は棄を平公の御妾にした。


 棄は平公の寵愛を受けて公子・を産んだ。佐は母に似ず、容姿は決して優れていないものの、性格は心優しい人物であった。


 逆に平公の太子・(または「座」)は美男子であったが、その性格は悪劣であった。向戌しょうじゅつはそんな太子を恐れ、嫌っていた。


 寺人(宦官)・恵牆伊戻けいしょういるい(恵牆が氏。伊戻が名)は太子内師(太子宮の宦官の長)になったが、太子から嫌われていた。そのため太子への不満を抱いていた。


 秋、楚の客が晋を聘問し、その後、宋を通ったことがあった。太子・痤は楚の使者と知り合いだったため、野外で宴を開く許しを請い、平公は同意した。


 すると伊戻が太子に同行すると言い出した。平公は問うた。


「太子は汝を嫌っているのではないのか?」


 どうやら伊戻が太子に嫌われていることは周知の事実であったようである。


 彼は答えた。


「小人が君子に仕える時は、嫌われようとも遠くに離れず、好かれようとも敢えて近付こうとせず、謹んで命を待ち、二心を抱かないものです。太子には外に従う者がいても、内で補佐する者がおりません(恐らく、身の世話をする宦官が必要という意味)。私に行かせてくださいませ」


 平公は伊戻を派遣した。


 野外に出た伊戻は、地面に穴を掘り、犠牲を殺し、盟書を偽造してから、急いで平公に報告した。


「太子は乱を起こすつもりです。すでに楚の客と盟を結んでおります」


 平公は驚きながら言った。


「あれは嗣子であるのに、何を求めて謀反するのか?」


「速く即位したいのでしょう」


 平公が人を送って確認させると、盟を結んだ跡があった。伊戻が偽造したものであるが、平公は太子・痤を疑い、公子・佐の母・棄と向戌に意見を求めた。


 二人とも示し合わせたように、


「太子の謀反は確かに聞いたことがございます」


 と答えた。二人を信じている平公は太子を逮捕した。


 捕えられた太子・痤は、


「佐だけが私を禍から逃れさせることができるだろう」


 以外なことに太子・痤と公子・佐は仲が良い方であった。


 彼は使者を送って公子・佐を招くため、言った。


「日中(正午)までに来なければ、私は死ぬことになる」


 太子・痤の不幸はこの伝言を向戌が知ったことである。


 彼はわざと公子・佐に会って長話しをした。話しがなかなか終わらないため、公子・佐は太子に会いに行く前に正午になり、太子・痤は首を吊って死んだ。


 公子・佐が太子になった。


 暫くして平公が徐々に太子・痤の無罪を知るようになり、伊戻は処刑された。こう思うと史書に太子・痤が良い風に書かれていないのは、向戌の偽装であり、実際はそれほど問題の無い人物であったかもしれない。


 後日、向戌が夫人(太子・佐の母。棄)の歩馬の者(馬を散歩させる官)に会った。彼が誰に仕えているか問うと、


「君夫人(国君夫人)です」


 と答えた。すると向叔はこう言った。


「君夫人とは誰であろうか。なぜ私は君夫人を知らないのだろう?」


 棄は身分が低い出身だったため、向戌は棄を軽視しており、公子・佐が太子になったおかげで、棄は夫人になれた。そこで夫人に自分を尊重させるため、わざと夫人を侮辱する発言をしたのである。


 圉人(歩馬の者)が帰って夫人に報告すると、夫人は錦、馬と玉を向戌に贈り、


「国君の妾・棄が使者を使わしてこれらを献上致します」


 と伝えた。向戌はこの後、「君夫人」と呼ぶようになり、再拝稽首して財物を受け取った。


 この辺から彼は天狗になり始めていたと言えよう。だが、後に叩き折られることになる。






 鄭の簡公かんこうが晋から帰国するとすぐに子西しせいを晋に送って聘問した。


 子西が晋の平公へいこうに言った。


「我が君が来て執事(晋の執政官。晋侯)を煩わせられましたが、非礼を働いたのではないかと恐れ、改めて夏(子西の名)を派遣して不明を謝罪致します」


 これを聞いた君子(知識人)は、


「鄭は善く大国に仕えることができる」


 と評価した。



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