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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第八章 暗き時代

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晋の平公

 晋の欒黶らんけん士匄しかいの娘の欒祁らんきを娶って欒盈らんえいを産んだ。


 しかし士鞅しおう(士匄の子)は欒黶のために秦に出奔したことがあったため、欒氏を怨んでおり、欒盈らんえいと共に公族大夫になっても和すことはなかった。


 欒黶が死ぬと、妻の欒祁が室老(大夫家臣の長)・州賓しゅうひんと私通するようになり、欒氏の財産を独占しようとした。


 欒盈はこれを警戒するようになると欒祁は息子である欒盈の討伐を恐れた。


 そこで父の士匄に言った。


「息子の盈は乱を起こすつもりです。彼は士氏が桓主(欒黶)を殺して専権していると思っており(この時、士匄は中軍の将)、こう言っておりました。『私の父は士鞅を放逐したものの、士鞅が帰国しても怒りを表すことなく、寵によって接し、私と同じ官(公族大夫)に任命して権力を与えた。その後、私の父が死ぬと士氏はますます豊かになった。士氏が私の父を殺して国政を専断している。私は死んでも彼等に従うことはないだろう』彼はこのように考えており、主(父)が害されることを恐れたましたので、敢えてお話しました」


 士鞅はここが恨みを晴らす良い機会と考え、欒祁の報告が真実だと主張した。


 もともと欒盈は施しを好んだため、多くの士が帰心していた。士匄はそんな欒盈の勢力を恐れていた。


 そこで欒祁の言葉を信じ、欒盈に命じて著(地名)に築城させ、その後、曲沃に幽閉した。


 欒盈のことを慕っていた党人たちはこのことに怒り、叛乱を計画するようになった。


 そこで士匄は先手を打って、晋の平公へいこうに彼らが謀反を起こそうとしているため、駆逐するよう進言した。


 平公は難しい顔をしながら大夫・陽畢ようひつに図った。


穆公ぼくこうから今まで乱兵が止まず、民志(民心)は満足できず、禍敗も終わが見えない。民は離れ、寇(敵)を招き、禍が私の身に起きるのではないかと心配である」


 陽畢が答えた。


「本根(禍の根本)が存在しておりますと、枝葉はますます生長し、本根はますます茂り、制御が難しくなるものです。斧の柄を大きくして枝葉を除き、本根を絶てば、少しは休むことができましょう」


 平公が具体的な策を聞くと、陽畢はこう答えた。


「計画で大切なのは明訓(明確な教令)でございます。明訓で大切なのは威権です。教えが明らかにし、威権によって実行させるものだからです。威権は国君にございます。国君は賢人の子孫の中から代々国に対して功績がある者を選んで抜擢し、己の欲に従って国君を損ない、国を乱した者を調べて除くべきです。こうように行うことで、威を明らかにして権を遠くし、後世に伝えることができるのです」


 国を治める上でしっかりとした権威を維持することによって、民は国の命令を聞くことができるのである。そのためにも処罰を緩めてはならないのである。


 つまり、欒盈を追放しろと言いたいのだ。


「民が威を恐れ、徳に懐柔致せば、逆らう者はいなくなります。人々が皆従えば、民心を教導することができます。民心を教導すれば、民の欲求や好悪を知ることができ、人々が偸生(義務・職責を果たさず、とりあえずの安寧に満足しながら生きること)することがなくなります。偸生がなくなれば、乱を起こそうとする者もいなくなります。欒氏は久しく国の人々を騙してきました。欒書らんしょはその大宗でございます。厲公れいこうを殺したにも関わらず、自分の家を厚くしました。欒氏を滅ぼすことができれば民は国君の威を恐れることでしょう。瑕(瑕嘉かか)、原(原軫げんしん先軫せんしん))、韓(韓万かんまん)、魏(畢万ひつまん)の後代を改めて起用し、賞を与えば、民は国君の徳に懐くことでしょう。威と懐があるべき姿であれば、国は安定するのです。主公が国を治めて安定させることができれば、乱をなそうとする者がいても誰も協力しないでしょう」


 平公が言った。


「欒書はかつて先君(悼公とうこう)を立てた功績があり、欒盈も国の罪を得たわけではない滅ぼす理由がないではないか」


 欒盈は母に讒言されただけで、実際の罪があるとは言えず、欒書がいなければ、父が即位し、自分が国君になることもなかった。


 陽畢がこれに反論した。


「国を正す者は、目前の権だけを見ていてはならず、権を行う時は(国を治める時は)、私情で罪を隠してはならないのです。目先の権しか見ていない者には、民を導くことができません。権を行う時に私情で罪を隠せば、政(正しい政治)が行われなくなるでしょう。政が行われないにも関わらず、どうして民を導くことができますか。民を導くことができないのでは、国君がいないのと同じことではありませんか。目先の権だけを考え、私情によって罪を隠せば、国を害して国君自身を労苦させることになります。主公はよくお考えになるべきです。もしも欒盈を愛するなら、群賊(欒盈の一党)の駆逐を明らかにし、国倫(国を治める道理)によってその罪を説明し、慎重に警告して謀反に備えるべきなのです。もし彼が自分の志を満足するために国君に報復しようとすれば、それほど大きな罪はなく、族滅に処しても足りないくらいではありませんか。逆に謀反の意志はなく、遠くに亡命するようであれば、彼を受け入れた国に厚く礼物を贈り、彼の保護を頼むべきです。こうすることで彼の恩徳に報いることができましょう」


 平公はこの意見に同意し、士匄に欒盈の一党を駆逐させた。


 欒盈の党である箕遺きい黄淵こうえん嘉父かほ司空靖しくうせい邴豫へいよ董叔とうしゅく邴師へいし申書しんしょ羊舌虎ようぜつこ叔虎しゅくこ叔向しゅくきょうの弟)、叔羆しゅくひを殺した。


 それを逃れた智起ちき中行喜ちゅうこうき州綽しゅうしゃく邢蒯けいかい等は斉に奔った。


 また、党人の親族であった伯華はくか)叔向しゅくきょう籍偃せきえんを捕えた。


 最後に祁午きごと陽畢を曲沃に送って欒盈を国から追放を命じた。


 欒盈は楚に出奔した。


 平公が国人に宣言した。


「文公以来、先君に対して功績があるにも関わらず、子孫が官位についていない者には、今後、官爵を与える。功臣の子孫を探した者には、賞を与えるだろう」


 欒盈が楚に出奔した後、士匄は欒氏の臣が彼に従うことを禁止し、欒氏に従えば、処刑して死体を晒すと宣言した。


 しかし欒氏の臣・辛兪しんゆが欒盈に従ったため、官吏が捕えて平公の前に連れてきた。


 平公が言った。


「国に大令があるにも関わらず、なぜ犯したのだ?」


 辛兪が答えた。


「私は大令に順じたのです。執政は『欒氏に従わず、主君に従え』と命じました。必ず君に従えという明確な命令でございます。『三代、一つの家に仕えれば、それを君とし、二代以下なら主とする』と申します。君に対しては命をかけて仕え、主に対しては勤労に仕えるものだからです。私は祖父の代から国に頼る者がなく、代々欒氏に仕えてきました。既に三世になりますので、欒氏を君としないわけにはいきません。執政は『君に従わない者は大戮(死刑)に処す』と宣言されました。死刑を忘れて君命に叛し、司寇(法官)を煩わせるわけにはいきません」


 平公はこの辛兪の義心を称え、側に置こうとしたが、辛兪は断った。


 そこで厚い礼物を平公が贈ろうとすると、辛兪はこう言った。


「私が欒氏に従う理由は既に説明しました。心とは志を守るためにあり、言葉として発した事は実行しなければなりません。それでこそ君に仕えることができるのです。もしも国君の賞賜を受け取れば、前言を棄てることになります。国君の問いに対して既に答えたにも関わらず、退席する前にそれに逆らうようでは、どうして主君に仕えることができましょうか」


 平公は辛兪を自由にさせた。








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