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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第七章 大国と小国

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莱攻略へ

 紀元前571年


 正月、周の簡王かんおうが埋葬された。


 天子は死後七カ月経ってから埋葬するのが礼とされており、簡王は前年九月に死んだため、速すぎる埋葬と言える。


 鄭が宋を侵攻した。楚の命令によるものである。


「出兵が多すぎる……」


 子駟しし(公子・)は楚から命令されては出兵を繰り返している現状に不満を抱いていた。


「これでは国庫に負担が掛かり過ぎている」


 内政の責任者としてどうにかしたいものの、鄭の成公せいこうは楚に好意的で、晋には反感を抱いている。そのため晋に乗り換えようとは考えていない。


(大国に挟まれていなければ、このような苦労をせぬとも良いものを……)


 彼は小国に生まれたことを嘆いた。












 斉の霊公れいこうが萊に侵攻した。萊は斉から東方に位置する国で、昔から斉とは仲が悪く。粛清されて国佐こくさの一派が逃げ込んだ国である。


 そのためこの国を滅ぼしたいと息巻いていたが、


「撤退……」


 晏弱あんじゃくは撤退の命令が下されたことを聞き、驚いた。


「どういうことであろうか……」


 そう悩んでいるとそこに崔杼さいちょが近づいた。


「崔杼殿、撤退の命令が出たと聞いた。主公に何かが会ったのだろうか?」


 晏弱が尋ねると彼は答えた。


「馬が送られた」


(なるほど、賄賂か……)


 萊は大夫・正輿子せいよしを斉に派遣し、洗練された馬牛各百頭を賄賂として霊公の寵臣・夙沙衛しゃくさえいに贈り、もらった夙沙衛が撤兵を勧めたため、霊公は兵を還すことにしたのだ。


「寵臣とはいえ、簡単に撤退を決めるとは……」


 崔杼が苦々しく言うと、晏弱が言った。


「確かにそうかもしれませぬが、もしかすれば主公は簡単に我らの位置を把握されたことを恐れたのかもしれません」


「どういうことか?」


「我らが萊に入ってからの行動としては早すぎます。主公はこちらの位置を把握されていると考え、不利とお考えになったのではないでしょうか」


「だが、そう簡単に我らが負けるだろうか?」


「萊には王湫がおります。我らのやり方は筒抜けと思うべきでしょう。警戒はするべきです」


「なるほど……」


 晏弱の言葉を聞きながら、霊公が撤退を決めた理由を理解したものの、


(それでも気弱過ぎないだろうか?)


 崔杼としては、だからといってこちらが負けるとは思えなかった。


「主公に一つ、こうお伝えください。萊にはお礼の書簡をお渡しください。さすれば、萊は取れますと」


「どういう意味だ」


「本気で一国を落とすということです」


 晏弱の言葉の意味はよくはわからなかったが、


(もしかすれば、切れ者かもしれん)


 崔杼は彼の言葉に頷いた。














 五月、魯の成公せいこう)夫人・姜氏(斉姜せいきょう)。斉は諡号)が死んだ。


 かつて穆姜ぼくきょう(成公の母)が美しい檟木を選んで自分の櫬(棺)と頌琴(副葬のための楽器)を作らせたことがあった。


 されど穆姜は季孫氏と孟孫氏を除こうとして失敗し、姦通していた叔孫僑如しゅくそんきょうじょも追放されたため、権威を失ってしまいた。


 そこで季孫行父きそんこうほが穆姜の櫬や頌琴を使って斉姜を納棺した。


 君子たちはこれを「非礼」として非難した。


 本来、妻(斉姜)は夫(成公)の母(穆姜)を敬うべきであるにも関わらず、妻の葬儀に義母が用意した棺や副葬品を使ったからである。


 これは季孫行父がどれだけ、穆姜に悪感情を持っていたかということであろう。


 斉の霊公が諸姜(姜姓で斉の大夫に嫁いだ女性)、宗婦(姜姓の大夫の妻)を魯に送り、斉姜の葬儀に参加させた。


 霊公は萊君にも参加を要求した。


 莱君に参加を要求した理由は、莱君が姜姓だったためという説と(実際の姓ははっきりしてない)、莱君を諸姜や宗婦と同列にすることで侮辱しようとしたという説がある。


 どちらにせよ、斉に従っているわけではないため、萊君は霊公の要求を拒否した。また、彼は霊公を舐めていた部分がある。何せ、相手は賄賂を少し、送った程度で撤退するような相手などである。自然と警戒心が薄らいでいた。


「なるほど、晏弱が言っていたのはこういうことか……」


 ここに来て、崔杼は晏弱の言葉の意味がわかった。霊公の行動は莱を油断させるための行動だったのだ。


(だが、それを理解できていた者がどれだけいたのか……)


 斉の諸大夫の中にはそのことを理解していた者はいない。晏弱だけである。


「主公よ。ご進言致します。莱を攻める将軍は晏弱を推薦します」


「晏弱か……確か、賄賂の礼を伝えよと進言したものだな」


「左様でございます」


「良し、晏弱を呼べ」


 晏弱が来ると霊公は正式に莱攻略においての将軍に任命した。


「謹んでお受けします。ですが、一つ進言してもよろしいでしょうか?」


「なんだ」


「莱を落とすには時が必要です、落とすまでの間、莱の攻略は私に一任してはいただけませんか?」


「どれだけ掛かる?」


「数年かと」


 霊公は不満そうな表情をする。


「そんなに掛かるのか?」


「掛かります。国を落とすにはそれだけの苦労が必要なのです」


「ふむ」


「主公は先君たちが成し遂げなることのできなかった偉業を成し遂げたくはないのですか?」


「良し、良かろう。存分にやれい」


「御意」


 晏弱が任命を受け、霊公の前から離れると崔杼に近づいた。


「主公の言葉は軽いところがあります。主公のご意志が変わらないようお願いします」


「わかった」


 晏弱は出発すると東陽まで進むとここで築城を行い、莱に圧力をかけた。


 晏弱による莱攻略が始まった。



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