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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第七章 大国と小国

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西鉏吾

大変遅れました。

 晋の悼公とうこうが即位すると早速、魯の成公が晋に行き、朝見した。外交感覚においては魯は中々のものがある。


 六月、鄭の成公せいこうが宋を侵し、曹門(宋城西北の門。宋から曹に行く時、必ず通ったため、曹門と命名された)の外に至った。


 成公の軍は楚の共王きょうおうと合流して宋を攻め、朝郟を占領した。


 これとは別に、楚の子辛ししん(公子・壬夫じんふ)と鄭の皇辰こうしんも城郜に進攻して幽丘を取った。


 その後、共王と成公の軍と、子辛と皇辰の軍が合流し、彭城を攻めて宋の魚石ぎょせき向為人しょういじん鱗朱りんしゅ向帯しょうたい魚府ぎょふら五人をを彭城に入れた。


 彼らは宋での権力闘争に負けて、楚に亡命してきた者たちである。楚は彼らを宋に入れることで、宋で乱を起こさせようとしたのだ。


 更に三百乗の兵車を戍(守備兵)として駐留させ、楚・鄭連合軍は兵を還した。


 宋の人々は彼ら五人の帰還を憂いていると西鉏吾せいしょごが言った。


「心配はない。楚が我々と同じ者を憎むというのであれば、それは我々に徳を施すことであり、我々は楚に仕えて二心を持ってはならない。されど大国は満足することを知らず、我が国が彼等の辺邑になったとしても、まだ足りないと思うであろう」


 楚が宋と共に五人を憎めば、宋は楚に服従しなければならないが、それでも楚は満足せず、宋から搾取することになる。だから楚が五人を憎むことこそ、憂いなければならないということである。


 彼はこの状況はまだマシと考えたのだ。


「また、もし我々が憎む者を楚が受け入れて、楚の政事を助けさせ、我々に隙ができるのを待っているのであれば、それも我が国にとって患憂となるだろう。しかし今、楚は諸侯の姦臣を援けて土地(彭城)を与え、各国との交通を妨げている」


 彭城は各国を繋ぐ要地にある。楚はそこに魚石等を入れ、兵を置いた。この行為は宋だけでなく、他の国にとっても問題のある行為なのである。


「姦悪を助長すれば、楚に服している国も離心させ、諸侯を害せば、呉・晋の警戒を招くことになる。これは我々にとって利益が大きく、憂いを必要とするものではない。そもそも、我々は常に晋に仕えているのだ。晋が必ず援けに来るだろう」


 楚は宋を対象として作戦を取っているようで、その実はその他の国までも敵に回している。


 楚には対局を見る人材に大いに欠けていたと言って良いだろう。
















 魯の成公が晋から帰国すると晋の士匄しかいが魯に来聘し、成公の朝見に答礼した。


 成公はこの晋にあり方に好印象をもった。


 秋、杞の桓公かんこうが魯に来朝し、成公を慰労して晋の政治についてうかがった。成公は晋に好意的なため、晋の悼公の善政を語った。すると杞の桓公はすぐ晋に入朝し、婚姻を求めた。


 七月、宋の司馬・老佐ろうさ華喜かきが彭城を包囲した。


 しかし、彭城の五人の抵抗が激しく、その戦いの中、老佐が死んだ。


「老佐が死んだか……ふうむ。あの時、殺しておくべきだったかな」


 華元かげんはそう思いながら、戦闘記録を読む。


「過ぎたことは仕方ないか。取り敢えず、晋に助けを求めねばならない」


 華元は晋に使者を出した。















 魯の成公が路寝(正寝)で死んだ。正常な死である。


 彼の死によって、魯は困ったことになった。成公の子・が太子なのだが、この時僅か三歳という若さであったのだ。


 太子なのだが、即位させるべきだという意見と若すぎるという意見が出る中、魯の政治の中枢を担っている三桓の季孫行父きそんこうほ仲孫蔑ちゅうそんべつ叔孫豹しゅくそんひょうが集まって、話し合った。


「どうするべきであろうか。太子は流石に若すぎる。即位させるのは問題にはならないか?」


 仲孫蔑が問うと季孫行父が答えた。


「太子の即位を見送るとして、誰を即位させるのだ?」


 今度は季孫行父が仲孫蔑に尋ねた。


「公子・しょはどうだ」


 仲孫蔑がそう言うと、叔孫豹が反対した。


「私は反対です。彼は穆姜ぼくきょうに近づきます」


 穆姜は三桓を廃そうとした人物である。


「ならば、太子を即位させるということで宜しいか?」


「諸国に問題にされないだろうか?」


「大丈夫でしょう」


 仲孫蔑が心配する中、叔孫豹は言った。


「このことを問題などにする国などございません。例え、追求されようとも我が国のことを左右するような行動に出れば、逆に非難されます。そもそもそんな国など、どこにありましょう。晋は公平さがなく、楚は決断力が甘く、斉は口先だけ、秦などは辺境の国に過ぎず、鄭は恥というものを知らず、衛などは上はどうしようもなく、宋は頑固なだけ、大した国々ではございません。そんな国々に何を言われようとも問題はないでしょう」


「では、二人共太子の即位に賛成ということで宜しいか?」


 季孫行父がそう言うと、仲孫蔑と叔孫豹は頷き、同意した。


「では、太子を即位させることにする」


 こうして即位した太子・午は魯の襄公じょうこうという。



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