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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第七章 大国と小国

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呉登場

 前年、鄭と許の間で諍いが起き、許の霊公れいこうが鄭を訴えるために楚に行った。


 六月、楚は許の訴えを受け、鄭の悼公とうこうを呼び出した。


「呼ばれたからには行かねばならぬな」


 鄭の悼公は皇戌こうじゅつ子国しこく(公子・はつ)を連れ、楚に入り、許を訴えた。しかし、先に霊公が楚に入り、楚の群臣に賄賂を出していたため、許に有利な判決を行った。


 その結果、鄭が負けて皇戌と子国が楚に捕えられた。


「鄭君はどこだ」


 二人が囚われたが、楚は悼公がいつの間にかいないことに気づいた。


 この隙に帰国した悼公は、判決に納得がいかず、公子・えんを晋に送って講和を請うことにした。


 これを受け、八月、悼公と晋の趙同ちょうどうが垂棘(晋地)で盟を結んだ。


 裁判で不公平をもたらしたことで鄭を離れさせた楚だが、この国から逃げ出した者がいた宋の公子・囲亀いき(字は子霊しれい)である。


 楚には以前、華元が人質として楚にいたが、彼と交代して人質となっていた。


 彼が勝手に帰国したことに華元は眉をひそめつつ囲亀をもてなした。だが、実は囲亀は華元を怨んでいた。


 何故、自分が華元の代わりに人質にならねばならないのだという思いがあったからである。


 そのため彼は華元の屋敷の門を出入りする時、太鼓を敲き、臣下に喚声を上げさせて、


「華氏を攻める練習しているのだ」


 と言った。


 宋の共公きょうこうは囲亀の度を越えた行動に反感を抱き、彼を殺した。共公としては、華元は宋の重鎮である。その彼無くして、政治は成り立たないと考えていたのである。


 十一月、周の定王ていおうが死に、子の簡王かんおうが立った翌月、十二月、晋の景公けいこう、魯の成公せいこう、斉の頃公けいこう、宋の共公、衛の定公ていこう、鄭の悼公、曹の宣公せんこう、邾君、杞の桓公かんこうが蟲牢(鄭地)で盟を結んだ。


 鄭が晋に帰順したために行われたのだが、諸侯が次の会盟について相談した時、宋の共公は向為人しょういじん(向が氏)を派遣し、子霊の難(囲亀が華元殺害を企んで処刑した事件)を理由に次の会の参加を辞退した。


 だが、盟主の晋は宋のこれに反感を抱いた。


 











 さて、楚を鄭が見切りを付け、宋の人質が勝手に帰国するなど、かつての楚の驚異というものが薄れ始めている頃、後に楚を大いに苦しめる存在が歴史の表舞台に立とうとしていた。


 楚の東にある呉という国である。


 呉という国には伝説がある。周王朝建国前、周の太王・亶父たんぽ太伯たいはく仲雍ちゅうよう季歴きれきという子がいた。


 中でも季歴は賢人で、その子・しょう(周の文王ぶんおう))も優秀だったため、太王は季歴と昌に位を譲ろうと考えた。


 それを知った太伯と仲雍は弟に継がせたいという父の願いを叶えるために弟の季歴に位を譲り、荊蛮の地に移住した。


 太伯は荊蛮の地で


句呉(こうご」と号した。荊蛮の人々は太伯の義心を称賛し、千余家が帰順したと言われている。


 太伯の死後、子がいなかったため弟の仲雍が継いだ。これを呉仲雍という。


 やがて仲雍も亡くなると子の季簡きかんが立ち、季簡が死んで子の叔達しゅくたつが立ち、叔達が死んで子の周章しゅうしょうの頃になると周の武王ぶおう)が商を滅ぼした。


 武王は太伯と仲雍の子孫を探し、周章を知ると周章が既に呉を治めていたこともあり、武王は周章を呉に封じた。


 また、周章の弟・虞仲ぐちゅうを周の北の夏墟(夏王朝の故地)に封じたと言われており、この国を虞という。


「その後、長きに渡り、脈々と子孫が国を収めていきました」


 この年、即位した呉の寿夢じゅぼうが語り部のように話した伝説を話し終えた。


「まあ、ここまでが伝説でございます」


 寿夢の前に男が一人座っている。その男が問いかけた。


「何か続きがありそうな口振りですな」


「申し上げたはずでございます。これは伝説と」


「つまり、嘘だと言われるので?」


「さあ、今となってはわかりませぬ。ただ、太伯、仲雍は本当に呉のこの地までたどり着き、国が生まれたのか。もしかすれば、虞をここと誤ってしまったということもあるかもしれませぬな」


 寿夢は笑う。


「それはどちらでも良いのです。嘘を百年語れば、物語となり、伝説となるものです」


「で、それを私に教えてどうなると?」


 もし、それが本当ならば、呉は楚と同じ、蛮族でしかないと言ったようなものでしかなく、何ら利益があると思えないからである。


「いやはや、嘘かどうかは関係無いということです。あくまでも建前であり、今後の諸国との関係をおもってのこと……」


 寿夢は男の前に顔を向け、いった。


「利用されてやるから。あんたらの持っているものを貰いたい。ねえ、巫臣ふしん殿」


「良かろう。晋としては同意しない理由はございません。協力しましょう」


「それでは、今後とも宜しくとお伝えを……」


 寿夢と巫臣は大いに笑った。


 楚にとって大きな脅威が生まれようとしていた。







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