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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第六章 覇権争い

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嫌われ者の葬儀

 前年、魯の公孫敖こうそんごうが斉で死んだ。孟氏(公孫敖の家族)は彼を魯に埋葬したいと希望しましたが、魯はこれを拒否した。


 公孫敖は勝手に出国し、挙句の果てに金銭を持ち逃げした男である。そんな男が他国で死んだのをわざわざ引き取って、埋葬してやろうという気にはならない。


 斉の人々からも公孫敖は嫌われており、彼の遺体を引き取ってもらいたかった。そのため彼らは孟氏に言った。


「魯はあなた方の親族です。飾棺(装飾された棺)を堂阜(斉の西境)に置けば、魯は必ず受け入れるでしょう」


 孟氏はこれに従いました。


 それを知った魯の卞人(卞邑大夫)が朝廷に報告した。その後、孟孫難もうそんなん(公孫敖の子)が悲哀で痩せ衰えた姿をして棺の受け入れを請願し、朝廷に立ち続けた。


 魯の文公ぶんこうは彼の姿に同情し、公孫敖の遺体を受け取ることを最も反対していた公子・すいを説得してついに公孫敖の棺の受け入れを許可した。


 孟孫難は棺を取りに行き、斉も人を出して護送する。


 葬礼は慶父けいほの葬礼(国卿であったが罪によって葬儀の格が落とされた)に則って葬儀が行われた。


 声己せいき(孟孫難の母、公孫敖の妻)は棺を見ず、帷堂(帳に覆われた部屋)に入って泣いた。棺に近づかなかったのは公孫敖が莒女に従って出奔したことを怨んでいたためである。夫の不義を許せなかったのである。


 葬儀に出席した公子・遂は泣こうとはしなかった。彼と公孫敖は従父兄弟の関係にあり、本来は哭礼をしなければならない。しかしながら公子・遂は莒女を奪った公孫敖を赦しておらず、彼への怒りが大きかった。


 孟孫難が彼に言った。


「葬儀とは最後に親しい人に会う場所です。善い始まりではなかったとしても(生前に対立したとしても)、善い終わりを迎えることができれば充分ではありませんか。史佚しいつ(周の史官)はこう言いました『兄弟の間は美しくなければならない。貧困を助け、好事を祝賀し、災禍を弔い、恭敬に祭りを行い、喪を哀しむべきである。この五者に対してたとえ感情が同じではなくとも、その愛を絶つべきではない。これが親族の道である』と、あなたは道を失うべきではありません。他者を怨んで何になるのでしょう」


 納得した公子・遂は兄弟を連れて哭礼を行った。








 その後年、公孫敖が莒にいる時にできた二人の子が魯に来た。仲孫蔑ちゅうそんべつ孟孫穀もうそんこく)の子)は二人を愛し、国中の人がそれを知るようになった。


 しかしある人が二人を仲孫蔑に讒言した。


「二子があなたを殺そうとしています」


 仲孫蔑は信じはしなかったが、このような話しが広がると困るため、これを季孫行父きそんこうほにこのことを話した。


「どうすれば、良いだろうか?」


「あなたは二子があなたを殺そうとしているとは思っていないのだろう」


「ああ」


 彼が季孫行父の言葉に頷くと、季孫行父は首を振る。


「ならば、あなたはここに来るべきではなかった。ここに来てしまえば、一気に噂が広がることになる」


 真偽はどうあれ、彼がここに来たことは多くの者に知られるだろう。それは結果的に二人を追い詰めることになる。


 仲孫蔑は慌てて屋敷に戻り、二子に讒言を信用せずに愛情を注ぎ続けたが、讒言されたことを知った二子は仲孫蔑に黙って密かに会って話した。


「夫子(仲孫蔑)が我々を愛していることは誰もが知っている。されど我々は彼を殺そうとしているという噂で名を知られるようになってしまった。これは礼から遠く離れたことではないか。礼から遠く離れてしまったら死んだ方がましではないか」


 やがて、一人は句鼆(魯邑)の門を守り、もう一人は戻丘(魯邑)の門を守り、敵に襲われた時、命をかけて戦って討死した。


 愛された恩を命を持って返した彼らの名は史書に書かれてはいない。









 六月、日食があった。


 魯は社(土地神の社)で鼓を叩き、犠牲を捧げてこれを祭った。


 古代の礼において、日食があった場合、天子は食事を減らし音楽を禁止して社で鼓を叩き、諸侯は幣(玉帛)を社に納めて朝廷で鼓を叩くことで、神を敬い、民を導き、君に仕えることを示した。


 魯が朝廷ではなく社で鼓を打ち、幣ではなく犠牲を捧げたのは、非礼とされた。


 斉が単伯の請い(子叔姫を魯に帰らせること)に同意し、単伯を魯に送った。しかしながら、子叔姫を直ぐには返さず、それどころか、軍を出す準備を始めていた。


「魯め我が国を舐めた報いは受けてもらうぞ」


 斉の懿公いこうは笑った。





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