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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第六章 覇権争い

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諸国の不安

 赤狄(潞氏)が魯の西境を侵した。


 魯の文公ぶんこうは盟主である晋にそのことを報告をした。晋が軍を出してくれることを期待してのことであった。


 趙盾ちょうとん狐射姑こえきこが狄にいるため、彼に酆舒ぼうじょ(狄の相)を訪ねさせ、狄を譴責させた。


 狐射姑は元々、趙盾は政敵である。そんな彼を通じて回りくどく譴責させるという行動が理解することが難しく。当然、狐射姑にやる気は無い。


 酆舒がやって来た狐射姑に趙衰ちょうしと趙盾はどちらが賢いか聞いた。狄としては晋の実権を握る男のことを知りたかったのである。


 狐射姑はこう答えた


「趙衰は冬日の日(冬の太陽)です。趙盾は夏日の日(夏の太陽)です」


 彼らしく無い表現だが、つまり、趙衰は冬の太陽のように穏やかで、趙盾は夏の太陽に苛烈で厳しいと言ったのである。


 酆舒はなるほどと頷いた。


 八月、斉の昭公しょうこう、魯の文公、宋の昭公しょうこう、衛の成公せいこう、鄭の穆公ぼくこう、許の昭公しょうこう、曹の共公きょうこうと晋の趙盾が扈(鄭地)で会盟した。晋で新君が即位したことを伝えるためである。


 魯はこの会盟に遅れた。普通に遅れたと見ることもできるが、赤狄へ譴責のみに留めた晋の態度に怒った部分もあったかもしれない。


 また、この会盟に出席した諸侯たちは晋の霊公れいこうの若さを見て、驚いたと同時に互いに横目で見た。


 この若い晋君に天下を任せられるのかと疑問に思ったのである。それは同時に晋の宰相と言って良い趙盾の若さにも驚いた。


 この状況の晋が果たして、自分たちをまとめられるのかそのような不安が彼らの中に漂った。


 魯の公孫敖こうそんごうは莒の戴己たいきを娶って孟孫穀もうそんこくが産まれ、その妹・声己せいき孟孫難もうそんなんを産んだ。


 戴己が死んで悲しんだ公孫敖は再び莒に夫人を求めた。しかし莒は声己が既に公孫敖に嫁いでいるため要求を拒否した。そこで公孫敖は友人である襄仲じょうちゅうこと公子・すいのために夫人を求めることにした。


 冬、徐が莒を攻撃した。莒はこれに対抗するために魯へ盟を求めた。


 公孫敖が莒に入って盟を結ぶことになった。公子・遂の妻を迎えるという目的もある。


 彼が鄢陵(莒邑)に至り、城壁に登って外を眺めた時、偶然、公子・遂のために迎え入れるはずの女性を見た。


(なんと美しい女か)


 その女性は大層な美しさを持っていた。公孫敖は堪らず、その女を自分の妻にしてしまった。


 人の妻になろうとする女を奪えば大抵、問題が起きる。起きないということが無いと言っていい。


 更にこの婚姻を持ちかけたのは公孫敖である。当然の如く怒った公子・遂は文公に公孫敖討伐を請うた。


 いくらなんでもこれは私情の範囲を逸脱しているのだが、文公は許可しようとした。文公は公孫敖を始め、三桓の権力が大きくなっていることに対し、危機感をもっており、これを削ごうと思ったのかもしれない。


 しかしこれを叔仲恵伯しょくちゅうけいはくこと叔仲彭しょくちゅうほう(叔牙の孫)が諫めて言った。


「国内の戦いは乱と申し、国外の戦いは寇と申します。寇は他者との戦いですが、乱は自分を傷つけることになります。臣下が乱を成そうとしているのにその主君が止めないようでは、寇讎(敵国)に道を開くことになります」


 この言葉に道理があると感じた文公は彼に調停を命じた。公子・遂には莒女をあきらめさせ、公孫敖にも莒女を帰国させ、二人を再び以前の仲に戻した。だが、公孫敖は彼女の美貌を忘れることはできなかった。


 


 一方、晋の郤缺げきけつが趙盾に言った。


「かつて衛が不睦だったので、その地を取りました。されど衛とはすでに和しているため、その地を返すべきです。叛しても討たなければ威信がなく、服しても懐柔しなければ懐(恩恵)を示すことができません。威も懐もなければ徳を示すことができず、徳がなければ盟主にはなれません。あなたは晋の正卿であり、諸侯の主の立場なのです。徳に務める必要があります。『夏書(尚書・大禹謨)』にはこう書かれています『美によって戒め、威によって督し、『九歌』によって勧めれば、悪くなることはない』と、九功の徳は全て歌うことができ、これを九歌といいます。九功とは六府三事を指します。水・火・金・木・土・穀を六府といい、正徳・利用・厚生を三事といいます。義によって九功を行うことを徳といい礼といいます。礼(徳)がなければ楽(音楽。九歌)がなくなり、叛する者が生まれます。あなたの徳を歌う者がいなくなったら誰が心服しますか。あなたに和す者(衛・鄭等、服従した国)にその徳を歌わせるべきです」


 あなたは歌を歌ってもらえるほどの善政をしていないとここまでのことを言えるのは郤缺とはいえ、中々できることではない。しかしながら言わなければならない。


 今、諸侯の間には晋への不安が燻っている。この不安を早めに晴らさなければならないのだ。


 趙盾の良さはこのような手厳しい意見を言われても言った者を処罰しようとしないところである。彼は郤缺の言葉に頷いた。


 

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