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春秋遥かに  作者: 大田牛二
第四章 天命を受けし者

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呂甥

中々時間が取れず、遅くなりました。


今後ともお付き合いいただければ嬉しいです。

 郤乞げきこつが秦が晋の恵公けいこうを解放する意思があることを呂甥りょせいに知らせた。


「左様か君を解放なさるか……」


(帰国してからのことを考えなければならない)


 恵公が捕らわれたことに関して、自業自得であると考え、悲しみよりも喜びをもっている者は晋国内において少なくない。


 そんな者たちが重耳ちょうじを招く真似をする者も出てくるかも知れない。


(そのようなことが起きては私たちはどうなるか……)


 それを恐れた彼は郤乞に言った。


「郤乞よ。国民を集め、こう君のお言葉として宣言致せ、『余は秦の恩情により帰国することになったが、余は既に社稷を辱めた者である。故に卜をして太子・ぎょに位を譲ることを考えている。汝等は圉を国君に立てて仕えよ』と……」


 呂甥は恵公が如何に民を思いやる名君であるかを示そうとしたのである。そうすることで恵公に対し同情を誘い、重耳を招くような状況を作らないようにしようと考えたのである。


「承知しました」


 郤乞は彼の言われた通り、国民に伝えると国民の多くは涙を流し、恵公に同情した。


 民たちの同情を得られた呂甥は次に国民の信望を集める一手として、民に公室が保有する土地を分け与えることにした。


 しかしながら、民に土地を配れば公室の土地が小さくなるため、遠方の領土の開墾を進め民に開墾できた土地を分け与えた。


 更に彼は群臣を集め、言った。


「主君は戦に敗れ、国外に囚われておられながらも自らのことを憂慮することはなく、群臣を憂いておられている。これは慈恵の極みである。どのように国君に報いるべきか」


 郤芮げきぜいが立ち上がり、言った。


「韓の戦いで我が国の武器のほとんどを失った。まずは税を集め、武器を整え、孺子(ここでは後継者という意味)を補佐しようと私は考えている。国君を失っても新君がおり、群臣が和睦して甲兵も増やし、このことを隣国が聞けば、我々を好む者は支持し、憎む者は恐れるだろう。これこそ国益となる策というものである」


「郤芮殿の意見を採用する」


 群臣は喜んでこれに同意し、州兵を作った。州兵とは地方兵で編成された兵のことである。


 これにより、晋の群臣らはまとまり、重耳を招こうとする者は出てこなかった。


 しかしながら、これは郤芮と呂甥が示し合わせて行ったことである。














 恵公が帰国する前に群臣を取り敢えずはまとめることができた呂甥は秦の穆公ぼくこうと秦の王城おうじょうの地で盟を結んだ。


 穆公は彼に言った。


「晋は和しているだろうか?」


「恥ずかしながら和しているとは言えません。小人は国君が犯した罪を考えず、国君を失ったことを恥じいり、自分の親族を哀悼しています。進んで税を納めて軍備を整え、太子・圉を立てようとし、こう申しております。『必ず報復しようではないか。そのためには斉・楚や戎狄に服従しようとも』と、しかしながら君子は国君を愛していますが、その罪も知っています。進んで税を納めて軍備を整え、秦の命を待ってこう言っています『必ず徳に報いようではないか。例え死のうとも徳に裏切ることはない』このように小人と君子の考えが分かれているので和しているとは残念ながら申せません。国内の意見がまとまらないためにこうして盟を結びに来るのが遅くなったのです」


 これは遠まわしに恵公を返さなければ、晋は斉か楚に従うようになると脅している。このような脅しを成立させるために州兵を作った。


 だが、そのようなやり方を見て穆公は内心、笑ったであろう。


(私を脅すか……愚かだな)


 斉と楚と結ぼうとも晋など怖くない。それはあの戦で理解している。


(だが、まあ返すということで決定しておるからな)


「汝が来なくても、余が晋君を送り返そうと思っていた。晋の臣民は国君についてどう考えているか?」


「小人は国君が難から逃れず、帰って来ないと考えております。君子は心が大きく、国君が帰ってくると信じています。小人はこう言っています『我々が秦を害した。それなのに秦が我が君を返すはずがないだろう』そして小人は国君の罪を考えることなく、秦を憎み、新君に仕えて報復することだけを考えています。これに対して君子はこう言っています『我々が罪を知ったのだから、秦は我が君を返すはずだろう。秦は主君を国に入れることができ、主君を捕えることもできたのだから、主君を釈放することもできるはずだ。これほど大きな恩恵はないではないか。裏切ったら捕え、服すれば赦す。これ以上厚い徳はなく、これ以上厳かな刑はないのである。服した者は徳を懐かしみ、裏切った者は刑を恐れる。この一戦で秦は霸を称えることができるだろう。国に入れたのにその地位を安定させることなく、廃して国君に立てず、以前の仁徳を怨みに換えるようなことを秦君がなさるはずない』」


(秦が覇を唱えるか……良い響きだ)


 彼は覇者になりたいと考えている。そのため呂甥の言葉が気に入った。


「余の心と同じである」


 そう言って、彼に七牢(牛・羊・豚各一頭で一牢。七牢は諸侯の礼に当たる)を贈り、恵公が住んでいる邸宅を改装した。


 その後、恵公を帰国させた。彼の帰国に最大限に努力した呂甥は恵公に益々寵愛されるようになる。










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