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剣と魔法と時々ロボ  作者: るべるかな
1/1

第1話 重徳、異世界に立つ

一万文字目安に投稿する予定です。

次回更新日、来週月曜日。

間違っている箇所があれば御指摘お願い致します。

ロボットは好きです。但し仕組み等は執筆中に学んでいきます。


ロボット。

それは小さな子供から大きな子供まで、夢や希望を与える存在。

白い悪魔と呼ばれるロボット、天も次元も突破するロボット、とりあえず暴走しとけば勝てるロボット、無限にパンチが出来るロボット等々。挙げたらキリがない程多種多様な種類のロボット達がアニメや漫画、実写映画やゲーム等で描かれている。

ロボット好きであれば誰しもが思うだろう。


あれが本当にあったらいいなぁ、と。


しかし現実は厳しい。近年、色々なロボットが開発されテレビや新聞で報道されつつも、夢に描いたロボットは未だに開発はされていないのだ。所詮はフィクションの存在であり妄想の中の存在でしかない。ハリボテやコックピットだけ忠実に再現されたとしても、嬉しい事には嬉しいのだが、いまいち物足りない。やはりあの大きさを持つロボットが実際に動き戦う姿が見たいのだ。


そんなことを日々思い未だにロボットが大好きな人物、"有沢ありさわ 重徳しげのり"31歳独身男性がいる。

彼は父の影響により小学生の頃からアニメを見ていた。その中でも圧倒的に見たアニメがロボットアニメだ。最初は話の内容がさっぱり解らなかったり、ロボットの種類が豊富で覚えるのは難しかった。よっぽど美男美女が学園生活でラブ&コメディを繰り広げている所を見ていたほうが楽しかった。

だが次第に見るにつれ、ロボットの良さに気付いたのである。いつしかロボット大好きな父を越え、彼のほうが詳しくなり好きになっていた。

 

 そんな彼も気付けば31歳独身。そろそろ結婚してもいいかな、と思い始めるお年頃。自分から相手を見つけにいくのではなく、相手が来るまで待つ、その姿勢を続けていた。そんな姿勢では待てど暮らせど見つかるわけではないと解っているものの、重い尻が持ち上がらないのである。

 それはさて置き。今日も今日とて仕事を終え帰宅し、汗にまみれたYシャツとズボンを脱ぎ、ゆったりとした部屋着に着替え、家庭用ゲーム機に電源を入れ、だらっとした姿勢でテレビと向き合う。彼が毎日やっているゲームはほとんどがロボットが出てくるゲーム。最近のゲームはとてもリアルで、本当にロボットを操縦してるかのような錯覚をする。

 今日は何のゲームをしようかな、と思いながらフレンドから送られてきた招待メールや世間話メールをチェックしていると奇妙なメールが来ていた。


 ”この度、新開発ロボットゲームのオープンテスターに貴方は選ばれました!ご承諾頂ける場合、当メールに対しただ一言。任務を遂行する。とご返信下さい!”


 なんとも不可思議なメールであった。本文もさながらまるで、ワンクリック詐欺のメール。新開発のゲームというのも気がかりだ。この家庭用ゲーム機は既に後継機が世に出回っており、ゲーム会社は後継機用のゲーム開発に着手している。故に今更従来機のゲームは開発されていないはずである。

 しかし、新開発のロボットゲームが先行して出来るのは大変興味深い。果たしてどのようなゲームなのだろうか?細かなカスタマイズが出来るのか?とてもリアルなのだろうか?

 彼は眉間に皺を寄せに寄せ、考えついた末、メールに返信することにした。何、もしゲーム機が壊れても後継機を買ってしまえばいいだけの話と思っていた。

 メールを送りしばらくゲームをしていると、メールの着信音がした。今度は一体何だろうと思い開いてみると。


 ”ご承諾頂き誠に有難う御座います!ゲームが始まりますのでしばらくお待ちください!”


 何?ゲームが始まります?どういうこと・・・。彼が脳を回転させ考えようとした次の瞬間。脳が思考を中断し意識を手放した。


 部屋に静寂が訪れ”死体”が転がっている状況下の中、ゲーム機から着信音。メールは自動的に開かれ内容を表示する。


 ”ようこそ異世界へ”


          ◆          


 「・・・ん?」


 目が覚めると見た事もない森の中にいた。先程まで手に持っていたコントローラーは無く、代わりにロボットのような腕がある。不思議に思い下半身を見ると、これまたロボットの脚。上半身もロボット。顔の感触を確かめる為触れてみると、これまたゴツゴツとしたロボットの頭。


 「えぇ・・・?」


 辺りを見渡してみても何処なのかさっぱりな状態。まるでRPGの森の中のようだ。ただ一言、言えることは、ここは元いた世界ではない、と言えること。でなければ、彼・・・重徳はこんなロボットの身体では無く、生身の人間の身体をしているはずだ。こんな・・・こんな・・・!


 「うっひょー!念願のロボットだ!いやーまさかロボットに乗るんじゃなくて、俺自信がロボットになるなんて夢にも思わなかった!本当は操縦席に乗りたかったけど、これはこれで素晴らしい・・・!嗚呼、伝わるぞ・・・!身体を動かす度に伝わる金属が擦れ合う音・・・!」


 人間、思わぬ所でポジティブな性格が前面に押し出し、現在起きている状況に適応する事もある。ましてや重徳自信が夢に夢見たロボット。形は違えど夢を叶えることが出来た。喜ばしい事だろう。

 思い思いに身体を動かし今の状況を堪能していると、ふと冷静になり考え始めた。


 「待てよ?最近ヘッドマウント式のバーチャルゲームが開発されているのを聞いてたけど、ここまでリアルじゃなかったはず・・・?」


 だがここでまたもやポジティブな性格が最前線に特攻し、考える事を止めさせる。


 「・・・とりあえずこの森を抜けよう。何かあるはずだと思いたい」


 そこで一歩踏み出そうと、新人パイロットがぎこちない操縦で一歩踏み出す様子を忠実に再現しようとした時。


 「誰か・・・!!誰かおらぬか・・・!!助け」


 悲痛にも似た叫び声が聞こえたと思ったら、何かに口を遮られたように声が聞こえなくなった。だが一つだけ解る、これは何者かに追われ捕まり、あんなことやそんなことをされてしまうイベント。重徳自信RPGや恋愛シュミレーションゲームをプレイしてきた事だけあり、このような出来事には見覚えがあった。


 「待ってな今助けに行く!」


 ロボットゲームで鍛え上げたゲーム脳を生かし、。頭の中に今の自分の状態が解るモニターを起動。背中や足にスラスターがある事を確認し起動。


 「有沢重徳、出る!」


 今正に重徳の異世界大冒険が作動したのである。


          ◆         



 「やっ・・・!やめぬかっ・・・!」


 「へっへっへ。姫様よ~?今どんな気持ちだ~?身体も洗わず糞汚い俺等にこれから慰み者になる気持ちはよ~?」


 「このっ・・・!俗物がっ・・・!」


 「口だけは達者だなぁ?おい?これから奥歯ガタガタ言わせるぐらいヒィヒィ言わせてやるからよ~!ヒャハハハ!!」


 「リーダー俺等にも後で回してくださいよー?使い物にならなくなる前にですからね?」


 「そうですぜ!楽しみでしょうがないんでさあ!」


 「おう!待ってなお前ら!俺がまず一番乗りだからな!」


 「だ・・・誰か助け・・・!」


 「こんな森の奥で誰も助けに来るわけないだろう・・・が・・・?」


 この時、盗賊達は聞いたことも無い音を聞いていた。まるで炎が激しく噴射しているかのような轟音。


 「リーダー!な、何か向かってきます!」


 「何ィ!?そんなはずあるわけないだろ!ありえな、ガッ!!!?」


 「リ、リーダー!?」


 少女の上に跨っていた盗賊リーダーの男は、突如側面から急接近してきた鋼鉄の拳を頭に殴り付けられ、大の大人が吹き飛び、木にぶつかり停止した。無論、鋼鉄の拳を速度と重さで上乗せされた状態で殴られたのだから命の保障はなかった。


 「おもっきし吹き飛んだけど、大丈夫かな」


 「て、てめぇ!何者・・・?何ゴーレムだ!?」


 「ゴーレム・・・?はて、土で出来てはいないはずだからゴーレムでは無いと思うのだが?」


 「ゴーレムの癖に言葉を!?ありえない!?」


 「だからゴーレムじゃ」


 「くたばれやぁぁぁぁぁ!!」


 盗賊の一人が剣で突っ込み重徳の身体に傷を負わせようと、剣を振り下ろしたのだが。


 「け、剣が・・・!?」


 盗賊のご自慢の(騎士を殺害し奪った)剣があっさりと折れてしまったのである。それもそのはず。重徳の身体は言わば金属の塊。鉄を延ばし刃先を付けただけの剣では到底敵わない。


 「折れたみたいだけど?」


 「なん、ゴッ!?!?」


 わなわなと身体を震わせている所にアッパーカットを叩き込む。肘から出たロケットを噴かせながらのパンチだ。名の知らない盗賊は空高く舞い上がっていった。


 「ば、化物めぇ!!」


 「化物でもないん・・・いや化物か?」


 「燃え尽きろ!!《ファイア》!!」


 最後の盗賊の手から火が飛び出し重徳に襲いかかる。全身を覆う程の火。

 だが、これも無駄な策であった。


 「そもそもゴーレムって土で出来ているのが一般的だから火が効くの?」


 「そんな馬、バッ!?!」


 最後は肩、ショルダータックルで盗賊の人生に留めをさした。先程飛んでいったリーダーと同じように木にぶつかり停止し、そのまま命を引き取っていった。


 「ふむ。やっぱりショルダータックルはロボによく栄える。そうは思わないかい?お嬢さん・・・?」


 助けたと思った少女はあまりの現実味の無さに脳の処理が追いつかず、意識をシャットダウンしていた。


          ◆         

「ん、んむ…?」


少女は無事脳の再起動を果たし現実世界へと帰ってきた。先程見たものは全て夢と思いたい。本当はお城の中であま〜いお菓子をたらふく平らげ、お気に入りの召使いに子守唄を歌われながらお昼寝をしている。が、現実は無情にも非日常の存在を証明するかの如く、少女の目の前に現れる。


「目が覚めたか?」


「っ!」


一瞬で目が覚めた。何せ襲ってきた盗賊をものの数秒足らずで屠る存在が目の前にいるのだから。

まずは外見。ゴツゴツとした頭に光る点が複数、人であれば目の当たりにあるそれは時折左右に揺らいでいる。体もゴツゴツとしており、倒れたままでもわかる身体の大きさ、まるでゴーレムだ。しかし、本来ゴーレムは術者の土の魔法により作られ操られる。では、目の前にいるこれは何なのか。周りに術者らしき者もいない。何より違和感を生じているのが声である。ゴーレムは喋らない。なのに目の前のこれは喋っている。ゴーレムではなかったら一体…?


「お主は一体何者なのじゃ…?」


「ロボッ…鎧を着た人間だよ。特別な鎧でね、お嬢さんは見たことないと思う」


重徳はここで誤魔化す事にした。変に素性を晒してしまっては今後何が起こるか知れたものじゃない。ここは少女の好感度を上げつつ、不信感を与えないようにする。そう考えていた。


「そうか…騎士なのじゃな。ふぅ。して、一体どこの国の騎士じゃ?お礼をしたいのじゃが?」


「お嬢さんが知らない国から来たんだよ。丁度遠征中に悲鳴を聞いて助けに来た」


「そうか…。では、城まで案内しそこで報酬を渡すのはどうだろうか?」


「そうして貰えると助かる」


この助かるには3つの意味合いを持つ。

まず1つが、この世界の国という存在がどれだけあるのか。思うに少女の住んでいる国と、他に複数国が存在しているのでは、という推測が立てられる。

2つ。どのような暮らしをしているのか。少女の様子を見るに、元いた世界より何百年前の服装。文明もそこそこ進んでいないと思われる。

3つ。自らの素性をそう簡単に教えることが難しいというもの。どこの国?と言われ即答出来れば良いのだが、重徳はつい先程この世界に来たばかり。別の世界から来ました、はいそうですか、で終わりではないだろう。その場で拘束。尋問。最悪解剖される恐れがあるということ。


「では今から国に帰るのじゃ。妾付いてこい」


「はい」


少女はまだ幼く見える。精々十代前半だろう。そんな少女がつい先程まで盗賊に襲われ泣きじゃくっていた。しかし今はどうだ。尊厳を保とうとしているのか大手を振って森の中をずんずんと歩いて行く。微笑ましい光景だ。


「ぶべっ」


ぽてっ、と少女は木のみきに足を引っ掛けて転んでしまった。しかも頭から地面に突っ込んでしまったのである。


「だ、大丈夫?」


「…痛くないもん」


のじゃ言葉を使えなくなるぐらい少女の心は既にボロボロだった。無理も無い。盗賊に襲われたと思ったら、ゴーレムみたいなのが嵐の如く現れ、撃破してしまったのだから混乱してしまうだろう。


「転んだ拍子で怪我してるみたいだし、お嬢さんの国に着くまでおぶって行こうか?」


「…うん」


「なんていう国なのかな?」


「"アトラリヤ王国"…」


「了解」


重徳はアトラリヤ王国という国を頭の中にあるマップ…この世界専用のマップがある事に疑問を抱いたが事を争う為、直ぐさま検索。

ぽつん、と赤いフラグがある地点に立った。ここがアトラリヤ王国なのだろう。道標となるガイドビーコンを表示し準備を整える。


「準備完了。お嬢さん、少しばかり特殊な抱え方をするけど許してね」


「何を…ひゃ!?」


重徳が少女を最も安全に抱え込む方法。それはお姫様抱っこだった。予想外な抱っこの仕方に少女は目を白黒、顔真っ赤っか。


「飛ばすから掴まっててね」


「え!?そもそも掴まるとこがないのじゃがぁぁぁ!?」


少女の言葉を最後まで聞かず重徳はスラスターを起動し、森の中をすいすいとすり抜けていく。とても普通の人では到底出来ない事をやっている。左右にゆらゆらと揺れる為、少女は瞬く間にグロッキー状態になり、またもや気を失ったのである。



「何!?"ランリエ"が連れ去られただと!?」


「申し訳ございません!!森の中で姫の護衛として歩いていたら盗賊が現れ、連れ去られてしまいました!!」


「貴様等の腕はその程度なのか!?いっそ腕を切り落としてやろうか!?」


「申し訳ございませんんん!!」


「くっ…。どうすれば…どうすればよいのだ…」


今苦悩で頭を抱えているのは、アトラリヤ王国を統べる"ズールガ王"、元冒険者だった。青年時代に鍛え上げた体は逞しく、そろそろ50歳になろうとしているが、衰えを一切見せない。最愛の娘ランリエが連れ去られた事を聞き今はげっそりとした表情である。


「既に汚され殺されてしまったのかもしれぬ…。ああどうしたら…どうしたら…!」


すると、廊下の方でなにやら慌てた様子の兵士達がドタドタと走り回っている。何事かと頭を上げると、扉を勢い良く開けた汗だくの兵士が近寄って来る。


「陛下!!国の門の前に姫を抱えた者が現れました!!」


「な!?それは本当か!?」


「はっ!姫の様子を見るに五体満足かと!」


「よし!余も門までこう!案内を頼む!」


「へ、陛下も来られるのですか?」


「無論だ!余の最愛の娘が帰ってきてるのだぞ!迎えに行くに決まっておる!」


ズールガ王は親バカだった。


「し、しかし抱えてきた者が見慣れない姿で不審極まりないのですが…」


「ええい!ごちゃごちゃと五月蝿いわ!例え仕掛けてきたとしても帰り打ちにしてやる!!」


「か、畏まりました!ご案内します!」


ズールガ王は既に娘の心配で頭がパンク寸前。玉座の隣に突き立てられた宝剣"ナリュマ"を引き抜くと、案内する兵士の後を追いかけて行った。



「それ以上動くな!!」


現在重徳は10人以上の兵士に囲まれている。剣や槍を構えながらであり、とても友好的に話は進められそうに無い状況だ。それもそのはず。重徳の体は鎧を着た人間なのか新種の魔物なのかゴーレムなのか、アトラリヤ王国の兵士達から見たら、見たことの無い存在で敵か味方か不明である。


「でもこのお嬢さん怪我してるし、早く消毒してあげたほうがいいんじゃ」


「な!気安くお嬢さん等と!お嬢さんではなく、アトラリヤ王国ズールガ国王陛下の一人娘、ランリエ姫様だぞ!」


重徳はたった今、少女の存在を初めて知った。ここに至るまで随分と不手際をしていた。左右に揺れたり、急旋回、急スピード、急ブレーキ、準備運動のように自分自信の性能を確かめていたのである。ランリエが気を失っているのをいい事に色々やっちゃってた。起きたら謝ろう、そう心に誓った。


「でもなぁ…」


「道を開けよ!陛下の御通りだ!!」


門の中から兵士より格上の騎士達が陣を組みながら走ってくる。囲んでいた兵士達は道の妨げとならないよう左右に分かれた。


「陛下!此方です!」


「うむ、案内ご苦労!」


「有難きお言葉っ!」


案内役としていた兵士は深々と頭を下げると陣営から外れた。

国のトップが来ちゃった、とか思っている重徳の前に、ズールガ王は足を止めた。


「先ずは娘を返して貰おう」


「はい」


抱えていたランリエをズールガ王に引き渡す重徳。この瞬間何が起きようと対処すべく、騎士や兵士達は己の武器に手を掛け身構えていた。

何かしようだなんて、これっぽっちも思っていない重徳は、のほほんとしていた。


「ランリエよ、よくぞ戻ってきてくれた…。うぅ…」


感動的な再会を果たし、ズールガ王は目元に涙を貯める。その光景を見ていた兵士達、騎士達もつられて目元に涙を貯めた。ただ1人、何だこれ状態で立っている重徳は置いてけぼりだった。


「ランリエ……ん?」


そこで何かに気付いたズールガ王。


「何故ランリエは気を失っておるのだ?」


ぎくぎく。思い当たる節しかない重徳はどきどきした。


「まさか…貴様の仕業か…?」


「いえ!これには事情が」


「問答無用!!此奴を切り捨てよ!!」


「うぉぉぉぉ!!」


重徳の必死の言葉を聞かず、ズールガ王は親バカを真に発揮し、重徳を敵と認識していた。擦り傷に加え、気絶。最愛の娘を大事に大事に育ててきたズールガ王からしてみれば、擦り傷を負わせた目の前にいる不届き者は敵にしか見えない。


重徳はどうしようか迷った。盗賊の剣を正面から食らおうと、魔法の火で全身を焼かれようと、痛みも感じず傷1つ付かなかったこの体。武力行使でねじ伏せる事が出来る可能性がある。だが、ねじ伏せた後は完全に悪者。この世界に降り立ちまだ1日も経たずに、国中が敵に回るなんて考えたくもない。

重徳は心の中で決心すると行動に移した。


「後でちゃんと事情説明しに来ますので!さよなら!」


スラスターを起動し別れを告げて空へと飛んでいく重徳。その場にいた者達は何が起こったかわからないまま呆然と見送った。


「んぅ…」


「お、おぉ。ランリエ目が覚めたか?」


「うん…。あれ、ゴーレムみたいな者はどこに行ったのじゃ?」


「彼奴か…。ランリエに傷を負わせた者だと思い、追い払…自分から何処かに行ってしまった」


「え!?父上!彼奴は妾を盗賊から救ってくれたのじゃぞ!?それを敵として見て追い払う等と!」


「あ、彼奴がか!?なんということだ…!」


「父上も見たじゃろ!?見た事もない外装!内装!最初はゴーレムかと思いきや、他国の騎士と自分で言っておった!」


「他国の騎士…!どこの国だ!?今すぐ謝罪を述べに行かねば!」


「無駄じゃよ父上。あの者は自分の所属国を言わなかった。何もかも不明じゃ…」


「最悪戦争になる可能性があるのか…?」


「こんな小さな事で戦争にはならんじゃろ…。父上、ここは一先ず様子を見るのじゃ」


「そ、そうだな…」


「父上!妾疲れたからお菓子が食べたいのじゃ!」


「あ、あぁ」


心ここにあらずというズールガ王。そんな父の気も知れずお菓子を要求するランリエ。アトラリヤ王国に災難が訪れない事を祈る騎士や兵士達。一連の騒動は一先ず終わりを告げたのだった。


♦︎


「結局何もわからず仕舞か…とほほ」


現在、重徳は遥か上空にいた。下手に中途半端な高さで飛ぶと地上から誰かに見られる恐れがあるからだ。もし見られた場合、悪い方向には進まないと思いたいが、どうなるか知れたものじゃなかった。この世界で指名手配犯並の扱いになる可能性も考えられる。捕まえたら1000万円。こぞって捕まえに来るに決まってる。


「この専用マップは行った所しか詳しく映らないみたいだし、ほとんど白紙に近い物だな。便利なのかわからん…」


実際に自分でその場所に行かないと地図に詳しく反映されない仕組みだ。表示されてしまえば後はやりたい放題。該当の場所を立体的に表示しても良し。人口、性別、年齢、ありとあらゆる情報を手に入れる事が可能になる。ただし、先程アトラリヤ王国に行きはしたものの、中には入れていない為、詳細情報は開示できない。


「この世界について情報を得たいのに…この姿じゃ怪しまれるのも当然だしなぁ…変形して何か別の物に…ん?変形?」


そこで重徳は今まで見てきたロボットアニメの中で、特に変形シーンが多かったアニメを思い出す。そのアニメは車や、動物、恐竜に姿を変えることが出来るアニメだ。実写映画も中々の物だった作品。


「動物が居るのかわからないけど、とりあえず犬になろう。ペット全般なら誰でも親しめるでしょ。変形!とか言ってみたりしてぇぇ!?」


言うが否が変形というキーワードと共に、重徳の体は大きく変化していく。物理的に無理な変形だ。腕と足が犬と同規格の足へ。体はこれでもか、これでもか、というぐらい縮んでいく。顔の形は犬の顔へと変形したのである。


「お、おぉ?犬になれたのかな?鏡でも見ないとわかんないぃぃぃ!?」


変形し安心かと思いきや、人型に備わっていた飛行機能を失ってしまった為、空を飛ぶことが出来なくなった。重力に逆らえず、超重量の金属の塊が、どれだけの速度で落下するのか察しが付く。



「こんなスカイダイビングは嫌だぁぁぁ!!流石にオシャカになるでしょぉぉぉ!?死にたくなぁぁいぃぃぃ!!」


♦︎


「今日もお散歩気持ち良いなぁ〜♪」


草原を散歩している一人の動物の耳が生えた少女がいる。彼女の名前は"ルメリダ=バナン"今年で15歳になる。同年代の女の子と比べると、活発的な子で、女の子より男の子と遊んでいる方が楽しいと思っている。髪は赤、つり目で瞳の色は青。体は引き締まり無駄な肉が無い。かといって女性の象徴とも言われる胸はちゃんと出ていたりする。


「はぁ〜あ、毎日毎日訓練だなんて本当に疲れるよ〜。別に戦争なんて直ぐ来るものじゃないのにさ、何をそんな必死になってんだろうね。もっと別の楽しさを見つけたらいいのに」


ルメリダの国はやや特殊で、強さこそ全て!と考えている国だ。日々戦争に向けての訓練を10歳からやらされる。もっと他の事に目を向けて欲しい、ルメリダは常日頃そう思っていた。


「なーんか、楽しい事がこう落ちてきたら嬉しいのになー」


ふと、ルメリダの耳が反応する。本当に何か落ちてくる音。どこだ、どこだ、空を見つめるが見当たらない。気のせいか、なんて思って自分の影を見ると、段々と大きくなっていた。まさか、真上を見上げると謎の物体が落下してくる。直ぐさまルメリダはその場から移動し、近くの岩から様子を伺った。


謎の物体はそのまま地面に落下し、クレーターを作ったのだった。

スラスター:推進力、上下左右に動く、浮くのをアシストする装置。宇宙船を飛ばすときに使われます。

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