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恋紬のフィラメント  作者: 如月雨水
恋紬の糸
41/42

切って繋いで

誤字脱字を見つけ次第、直します。

好きだから縁を切りたいと告げた私に、柏木は何を思っただろう。

呆れたか、はたまた西城冬歌に愛想をつかしたか。後者だとしたら、私がどんなに頑張っても柏木は想いを戻さないだろう。――――確実に。

そんな予感と言うより、確信を持っているから柏木を見るのが怖い。

のだけれど、それじゃあ話は続かない。息を吐きだして、覚悟を決めた。

「あのね、柏・・・・・・木?」

口元を隠すように右手で覆い、そっぽをむく柏木に首を傾げた。

「何、照れてるの?」

「いや、だって」

両耳が赤いからそうだと思って聞けば、肯定されて逆に驚いた。

照れる要素って・・・あれか? 私の告白か? え、柏木がその程度で照れるの!? 思わず凝視すれば、普段見ることがない貴重な柏木の赤面が拝めた。・・・わ、珍しい。

写真を撮りたいほどに珍しい。

「悪い、話の続きだけど別に言わなくていい」

視線を合わせないまま、柏木が告げる。

「てか、冬歌が俺に告白したことが幸せで・・・・・・死ねる」

「安い幸せだね」

「今までが今までだからな。・・・ほんと、報われた」

しみじみと告げる柏木に、何だか申し訳ない。――――が。

「私、縁を切りたいって言ったのに・・・怒らないの?」

「何で?」

「え? や、何でって・・・」

「幼馴染の縁を切るってことだろ? で、新しく恋人の縁を繋げる――ってことだろ?」

流石は柏木。

あんな言葉足らずでよく解った。

思わず拍手をすれば、呆れられた。赤かった顔も通常に戻り・・・いや、不敵な笑みを浮かべて私へと手を伸ばす。なんだ、嫌な予感がする。

――――その予感通り、ぐっと腕を掴まれて身体を抱きしめられた。

予想できた展開に溜息をつけばいいのか、赤面すればいいのか。慣れたせいでどちらも出来ず、何とも複雑だ。

「幼馴染との縁を切ったら、俺達は晴れて恋人ってことだよな」

「まぁ、そう・・・だね」

「付き合うんだし、キスしてもいいよな」

「へ?」

「いいよな」

有無を言わせぬ声音に、けれど頷くことも拒否も出来ずに唖然とした。

とりあえず――――口をガードしておいた。

「・・・駄目か」

しょんぼりと項垂れる柏木の頭に、犬の耳が見えたのは錯覚だ。幻覚だ。気のせいだ!

と言うよりも、しょげる姿すら珍しい。可愛いと思えて頭を撫でて、はっとする。相手は柏木だ。可愛いと思うこと事態間違えている。

だと言うのに、気持ちよさそうに眼を細める姿が・・・その、何と言うか。普段見慣れている柏木と違って・・・違いすぎて、可愛い。可愛すぎて、心臓がおかしい。顔が絶対に赤くなっているのが解る。

ああ、相手は柏木なのにっ。

溜まらず柏木から視線をそらし、深呼吸をする。

落ちつけ。

落ちつくんだ、私。

相手は柏木。

柏木相手に可愛いと思うのは間違っているっ!

「なんだ、もう終わりか」

名残惜しげな声すら可愛いと思えるのは、絶対に間違いだっ。

「冬歌に頭を撫でられるなんて、随分と久しぶりだからもう少し撫でて欲しかったんだが」

「そう・・・だっけ?」

「小学になった途端、頭を撫でることをしなくなったよな」

「そうなの?」

「そうだよ。小学高学年になったら手を繋ぐのも嫌がって、中学になったら名前呼びから名字呼びに変わったし」

「・・・なんか、ごめん」

不貞腐れる柏木に謝れば、するりと頬に擦り寄られた。動物みたいだなとぼんやりと考え、背中に回された腕をどうにか解こうと躍起になる。・・・無理だった。

諦めてされるがままになれば、抱きしめる腕の力が僅かに強くなる。

まるで縋るようだなと思いつつ、柏木を見た。

「いいよ、謝らなくて。冬歌がそうなった理由も俺だから、責められないし謝る必要もない」

まぁ、柏木に恋する乙女が原因だからね。

「けど、だ」

私を抱く腕を弱め、額を合わせて顔を近づけた柏木がにこりと笑う。

そう、にこりと。やけに綺麗で、けれどまったく笑っていない瞳で。にこりと笑う柏木は空恐ろしい。

ぞっと背筋が寒くなった。

「俺達はようやく両想い。恋人になった訳だから、俺のこと前みたいに呼ぶだろ」

疑問形でもないそれは、もはや強制だ。

「嫌だよ今更、恥ずかしいっ」

「呼ばないなら、もっと恥ずかしいことをするだけだ」

「何それ!?」

何をするつもりだこの野郎っ。

怪しく動く手を叩き、柏木を睨みつければなんら堪えていない。むしろ楽しげに笑っている。・・・おのれ。

「照れ隠しで耳を引っ張るな。地味に痛い」

「煩い馬鹿」

「てか、冬歌が大人しく俺の名前を呼べば済む話だろ? 何で嫌がるんだよ」

「さっきも言ったけど、恥ずかしいの。今更・・・・・・名前なんて」

「俺は呼んで欲しい」

「ぅぅ・・・」

懇願した声を出すな。そんな捨てられた子犬みたいな眼をするなっ。

柏木のくせに可愛いなぁ、もうっ!

「呼べばいいんでしょ、呼べば・・・。でも、その前に私のお願い叶えてくれる?」

「冬歌の願いなら、別れるとかそう言うやつじゃないなら叶えるよ。俺に出来る範囲なら」

柏木なら何でも出来るよ、絶対。

「難しいことじゃないし、どちらかと言えば簡単だと思うけど・・・柏木なら」

「名前」

「・・・・・・・・・後でね」

これは名字呼びの度に修正がはいるのか。

面倒くさい。

「それで、お願いって?」

「・・・・・・言って欲しい」

「何を?」

「・・・」

「冬歌、言わないと解らないぞ」

そうだけど、いざ、言葉にすると恥ずかしいんだよ。

「・・・って」

「ん?」

「好きって、言って欲しい」

告げた言葉が恥ずかしくて顔を俯かせた。ああ、何てことを口走ったんだ私。ガラじゃない。こんなの西城冬歌じゃないっ! 誰だお前、偽物だ! いや、本人だから偽物でも何でもないんだけどっ。

・・・・・・で、あの、柏木。

何か反応してくれない? 無言って一番、堪えるんだけど。

ちらりと視線だけ動かし、柏木を見れば何だか酷く驚いた顔をしている。

かと思えば、破顔した。

「可愛いな、冬歌は」

どこがだ。

柏木の眼は腐ってる。

「――――好きって言葉じゃ足りないほどに、愛してる」

耳元で囁かれた声は、酷く艶っぽくて甘い。

「恋しくて、恋しくて、焦がれるほどに求めて」

するりと柏木の右手が私の頬を撫でた。

「報われない想いに狂いそうなほどに、冬歌が好きだ」

瞼に口付けられ、首筋に顔を埋める。

「愛してる、愛してるんだ。冬歌だけを。冬歌しか、俺は愛せない」

そっと背中に腕を回し、抱きしめる柏木が小さく息を吐きだした。

「女は冬歌以外はいらない。冬歌しか俺は求めない。焦がれない。恋しくならない」

・・・そこまで行くと、ちょっと重い。

「冬歌だけがいればいい。――――そう思うほどに、俺は冬歌を愛してる」

これは・・・なんて言えばいいんだろう?

確かに好きと言って欲しかったが、この言葉が欲しかった訳じゃない。てか、こんな台詞を望んでいない。何がどうしてこうなる。

柏木の思考回路が解らない。

いや、解りたくない。

「冬歌は、俺のこと好き?」

「・・・好き、だよ」

「焦がれるほどに愛してる?」

「・・・それは、解んない」

いや、真面目に。

「柏木が私に向ける想いと同等じゃないとは思うけど、私は柏木が好きだよ」

自分で言って、照れる。

・・・本当、ガラじゃない。

「名前。――名字じゃなくて、名前で呼べって」

拗ねたように柏木が言う。

「俺は冬歌の願いを叶えただろ? なら、今度は冬歌が叶える番だ」

「・・・」

「なぁ、冬歌」

甘くねだるような声に、身体が痺れる。

なんでこんな声が出せるんだ、こいつは・・・っ。

「・・・ま」

「ん?」

「まつ、・・・ま、まつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとまって」

駄目だ、何か凄く恥ずかしい。

久しぶりに名前を呼ぶのが、こんなに度胸がいるとは思わなかった。動悸が激しい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・祀」

「もう一回」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・祀」

「もう一回」

「・・・・・・まつ、り」

「もう一回」

「ま・・・つり」

名を口にする度に柏木・・・祀は嬉しそうに微笑み、もう一度と懇願する。何度も何度も繰り返せば、恥ずかしさはなくなるけど何と言うか・・・呆れた。何が楽しいのか解らなくて、溜息をつく。

するりと、頬ずりされた。

「冬歌・・・やっと、俺のモノだ」

泣きそうな震えた声で告げる祀に、私は何も言えない。

「ようやく・・・手に入れた」

子供みたいに私に縋って、きつく抱きしめる祀の背に腕を回す。祀が嬉しそうに笑った気配がした。

首元にあたる祀の髪がくすぐったく、けれど離れたくなくて我慢する。・・・ああ、私はこんな人間だっただろうか? 少なくとも、前までなら恥ずかしくて逃げてたな。あれって、よくよく考えれば好きだから逃げてた――ってことだよね。

うわ、馬鹿だ。

そんなことにすら気づかないなんて、本当に馬鹿だ。

苦笑すれば、祀が不思議そうに私を見る。だから誤魔化すように祀の頭を撫でた。

「それにしても・・・どうしよう」

「何が?」

「柏・・・祀のことが好きな恋する乙女を敵に回すのは面倒だなーって。あと、悠乃達に報告するのも。からかわれそうだし」

「ああ・・・後者はともかく、前者なら何とかなるぞ」

祀が言うと、本当にそうなりそうだ。

「と言うか、そんな心配する必要はない」

「何で?」

「何でも」

妖艶に笑って、祀は私を抱きしめたまま後ろに倒れた。え、ちょっと?!

祀を見下ろす・・・よりは押し倒す体勢に、どうしていいのか解らず身体が硬直した。何でこうなる!?

「解らないのか、冬歌?」

出来の悪い子供を見る眼で私を見るな。

「俺達、関係が変わっただけで後は何も変わらないんだぞ?」

深く考えず、言葉通りに受け取れば・・・つまり、そう言うことですか。何と言うか、嬉しいような悲しいような。心中複雑だ。

「と、言う訳で」

祀が良い笑顔をして、私の髪を撫でる。

「恋人らしくいちゃいちゃしようか」

「しない!」

言い終わる前に祀を殴った私は、悪くない。


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