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恋紬のフィラメント  作者: 如月雨水
恋紬の糸
40/42

紡ぐ想い

誤字脱字を見つけ次第、直します。時期は不明。

後少し、お付き合いください。

結局――――雨が降った。

買い物を終えていざ、帰ろう。と言う場面で小ぶりの雨が降り、柏木の家まで後少しという所で大ぶりへ変わった。当然ながら、身体は雨に濡れて冷たい。

二人で駆けだし、玄関先で服を絞れば出て来る出て来る・・・水の量の多さ。うわ、こんなに吸ったのかと一瞬、遠い眼をしたくなった。

乱暴に靴を脱ぎ、慌てたように靴下を脱いだ柏木がくるりと私を振り返った。

「タオル取ってくるから、ちょっとまってろ」

まってろって、玄関で? いや、別にいいけど。

お隣とは言え他人様の家だし、廊下を濡らすのは忍びない。住人の柏木は別に問題はないだろうけど。それにしても・・・寒い。

身体が小刻みに震え、手がかじかむ――程ではないが、熱を奪って身体を芯から冷やしていく。あ・・・くしゃみでそう。

「ほら、タオル」

「・・・ありがとう。柏木も身体、拭きなよ」

「その前に、冬歌を風呂に連れて行くのが先」

「あ、ちょっと・・・押さないでよ」

「はいはい、歩く」

背中を押され、連れて行かれたのは当然ながら風呂場。

タオルを持ってくるついでに持ってきたのか、柏木の手に無地の黒いシャツがある。それを私に手渡した・・・って、誰のこれ? 首を傾げた。

「母さんの服を借りようかとも思ったけど、冬歌とサイズが合わないから俺ので我慢しろ。ついでに下は・・・・・・・・・でかくてもいいか?」

「小母さんとサイズを比べるな、あの人が細すぎるんだよっ。ズボン、ないよりある方がいいからお願い」

言えば、柏木が何故か息を飲んだ。なんで?

「わかった。冬歌が風呂に入ってる間に持ってくるから、さっさと身体温めて来い」

言って、柏木が出て行った。

足音が遠ざかるのを確認してから、服を脱ぐ。うわ、ぐっちゃりと濡れてるよ。絞ったら水、出てくるかな? ・・・あ、ちょっと出た。

適当に服をたたみ、浴室の扉をあける。蛇口をひねって、お湯を出したら妙にほっとした。

「熱いぃぃぃ・・・」

冷えた身体にはちょっと熱いほどだけど、シャワーから出るお湯は心地よい。ああ、落ち着く。

湯船にお湯がはられてないのが残念だが、仕方がない。

諦めてシャワーで温まろう。

「・・・柏木が風邪をひく前に、上がろ」

柏木もシャワーを浴びるべきだろう。風邪をひかないために。

「冬歌。服、ここに置いておくからな」

と、思えば扉越しに柏木の声が聞こえてきた。

そう言えば服を持ってくるって言ってたから、それかな? それしかないよね。うん。

「ありがとう。早く上がるから、柏木も次、シャワー浴びて」

「いや、俺はいいよ」

「は? 駄目でしょ。風邪ひくよ」

何を言い出すんだ、この男は。

「タオルであらかた拭いたし、服も着替えたから問題ない」

「問題あるでしょう。身体、冷えたんだから」

「暖かい飲み物飲むから平気。冬歌も珈琲飲むだろ?」

「飲む! ・・・じゃなくてっ」

「ちゃんと温まってから上がれよ」

「あ、ちょっと・・・・・・・・・まったくもう」

逃げるように去って行った柏木に溜息しか出ない。

あーもう、風邪引いても知らないよ。

「ばぁか」

蛇口をひねって、お湯を止めた。







昔に来た時と模様がだいぶ違うリビングは、それでも懐かしい感じがした。

「随分早いけど、温まったのか?」

大小様々で、カラフルな色のクッションが置かれた三人掛けようの黒革のソファに腰を下ろす柏木は、私に眼を向けずにそう聞いてきた。

硝子張りのテーブルには、湯気のたつコップが二つ。

珈琲の匂いがするのは、私の分だろう。

ぺたり、と足音を鳴らして一歩だけ進む。

「煩いよ、馬鹿。風呂に入って来い、馬鹿」

「・・・何か、機嫌が悪いな」

「風邪ひいたら、苦しむのは柏木なんだからシャワー浴びてきなよ」

「だから大丈夫だって」

頑なな態度にイラっとして、無言で柏木に近づく。

「冬歌?」

「・・・」

「おい、どうし?!」

「やっぱり冷たい」

触れた柏木の頬は、解りきっていたけど冷たい。暖かい飲み物を飲んでいるはずなのに、肌が冷たすぎる。これは間違いなく、身体の芯も冷えている。

なのにどうしてこいつは――「大丈夫」なんて嘘をつく。

両手で柏木の頬を掴み、視線を合わせれば何故か柏木の眼が泳いだ。おい、ちゃんと私を見ろ。あ、こら。手を放そうとするな。

「こんなに冷たいのに、大丈夫なんてよく言えるね」

「平気だから言えるんだよ。いいから、放せって」

「暴れない! まったく・・・いつもと逆じゃないの、これ」

「・・・ああ、そう言えばそうだな。成程、冬歌もこんな気持ちなのか」

何だ、私の気持ちがようやく解ったのか。

「嬉しいけど恥ずかしいんだな、冬歌も」

「違う」

「照れるな、照れるな。けど・・・こうやって冬歌にされるのもいいな。ちょっと照れるけど」

「顔を赤らめさせて言うな。あと、私は照れてない」

私は恥ずかしさが大部分を占めるのであって、嬉しさなんて・・・・・・まぁ、ちょっとはあるけど羞恥が強くてそっちが勝つんだ! あ、おいちょっと! 擦り寄ってくるな!

両手の自由を柏木に奪われたせいか、柏木から遠ざかれない。

・・・まさかとは思うけど、計算してないよね?

策略や計略じゃないよね? だとしたら頭突きをしよう。――いや、してしまおう。

「いっ?!」

「人の手に、許可もなく勝手にキスするな! 何考えてるのよ!」

「・・・頭突きは、やめろ」

「自業自得」

しかし・・・。

「手、放してよ」

「い・や」

わ、ハートがつきそうなほどの声。

「もう一回、頭突きされたい?」

「じゃあ、その前にキスするか」

「何で?!」

「ん?」

ちょっとまって、本気で意味が解らない。

柏木は今、何と言った? キス? キスをすると? ――――どこに?

「当然、唇」

「心を読むな馬鹿! そしてするな変態!」

だから顔を近づけようとするなっ! 出来るだけ柏木から逃げようと後ろに下がりつつ、自由を求めて掴まれた手を放そうと躍起になる。

頑張ってるのに・・・頑張ってるのに放れないぃぃ。

やばい、地味に泣きそうだ。

「頭突きをするなら俺はキスをするけど、どうする?」

どうするって・・・。

「そ、う言うことは・・・付き合ってからに」

「え?」

ん?

柏木が瞠目し、みるみると顔を赤くさせた。何? 何で動揺したように眼を泳がせるの?!

一人訳も解らず慌てれば、柏木が震える声で言った。

「冬歌、今・・・何て?」

「?」

「なぁ、もう一回言って」

私、変なこと言ったっけ? えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はっ!!?

爆発するんじゃないか、と言うくらい勢いをつけて顔が赤くなったのが解る。頬が熱を持ち、指先まで熱くなった気がした。

「ちがっ! いや、そうじゃなくて!」

「なぁ、冬歌。もう一回」

「~~~~~~っ!!」

首を横にふって拒否を示すも、柏木は諦めてくれない。

「冬歌の口からぽろりと出る言葉は本音だから、もう一度聞きたいな」

え、嘘!? 私、そんな本音こぼしてたっけ?!

嘘だと思って柏木を見るけど、まったく冗談を言っているようにも見えない。むしろ真摯で、偽りなんて何一つない。上に、懇願するような双眸で私を見るものだから堪らない。

やめて。

本当にやめて。

そんな眼で見ないでよ。

「あ・・・の、そう言えば明日って国語の小テストあったよね! どんなの出るのか解る?」

「・・・話を逸らすな、冬歌」

「うぐ・・・っ」

口ごもり、顔を逸らせば溜息をつかれた。

呆れられたか? 恐る恐ると柏木を見れば、ぎゅっと身体を抱きしめられた。何で? と思うより早く首元に顔を埋め、深く息を吐きだされる。え・・・っと?

「柏木・・・?」

名を呼んだけど、無言。

やっぱりこれは呆れられたか。胸が痛んで、どうしようかと内心で困惑したらさらに抱く力を強められた。苦しいほどの抱擁に身じろげば、許さないとばかりにさらに力が加わった。圧迫されて痛いのに、どうしてだか抵抗を忘れた。

そればかりか、不思議と柏木に抱きついていた。

自分の行動に疑問がわいたが、それは柏木も同様だったようだ。

「何? やけに積極的だけど、どうしたんだよ。冬歌」

「わかんない」

いや、本当にどうしてだろう?

「嫌なら・・・止めるけど」

「嫌じゃない」

けれど、腕の力を弱めて私から離れた。

「だけど付き合ってもないから――――止めとく」

するりと私から腕を放して、少し距離を置くように遠ざかる。それが妙に寂しくて、悲しくて、縋るように柏木の右腕を掴んだ。

やんわりと手を外され、それが拒絶に思えた。

・・・ああ、これは今まで私が柏木にやって来た行いか。ならば自業自得なのかもしれない。切ないほどに胸を締め付ける想いに眼を逸らすことが出来ず、口を一文字に硬く結んだ。

「珈琲、冷めるぞ」

「・・・」

「冷めた珈琲、冬歌、好きじゃないだろ? 冷めないうちに飲めよ」

拒絶されたから、告げられる言葉を冷たく感じる。

気のせいだと解っていても、心が痛い。――――重症だ。

息を吐きだして、ゆっくりと口を動かす。・・・私は、何を言うつもりなんだろう?

「ねぇ、柏木」

解らないのに、唇が勝手に言葉を告げる。

「小学卒業した時のこと、覚えてる?」

「・・・唐突だな」

苦笑した柏木は、肯定も否定もしない。

「柏木が将来有望な美少女からの公衆告白の後、私に言った台詞のことだよ。私、つい最近まで忘れてたんだけど・・・」

構わず言葉を続ければ、柏木が私から視線を逸らしてほうじ茶を飲む。本当・・・お茶好きだよね。人のこと言えないけど。

苦笑して、ソファに座る。

柏木との距離は、微妙に開いている。

何だかその距離感が、今の私と柏木を表しているようで複雑だ。

「あの時、柏木言ったよね」

カップに手を伸ばせば、珈琲の匂いが鼻孔をくすぐる。

「『恋するのも愛するのも一人だけで、他にソレを向けることはない』って・・・」

珈琲を一口飲めば、ぬるくてあまり美味しくなかった。

「それを聞いて私、柏木に想いを抱くのは駄目なんだって思った。だから柏木にそう言う想いを抱かないようにして、向けられる感情にあり得ないって否定して、眼を逸らして、耳を塞いで、知らない振りをしてたんだと思う」

何を言っているんだろう。

止めろと思うのに、口が勝手に動く。

「決定的だったのが、校舎裏で柏木の告白を聞いた時。あれを聞いて、柏木から離れた方がいいんだと思った。その方が・・・他人であれば楽なんだって考えて、縁を切れば悩むことも何もないんだって・・・思えて、それで縁切りを頼んだんだって今ならはっきり言える」

言うつもりのなかったのに、ぽんぽんと紡がれていく。

「なのに柏木は嫌だって言うし、違うって否定するし、私のこと好きだって言うし、外堀埋めるし、私のこと好きって言う幾月に意地悪だし、風邪を引いたら付ききりで看病したと思えば、私のこと無視もしたし」

思考が上手くまとまらなくて、段々と何を言っているのか解らない。

なのに口は止まってくれない。

「忘れてたのに、考えないようにしてたのに好きだって自覚しちゃったし」

ぽろりと、涙が勝手に流れる。今、泣く場面でもないのにどうして・・・っ。

「けど、私・・・柏木に縁を切りたいって言ったから、そんな資格ないっ。柏木を好きになることも、柏木に好きでいてもらう資格ないから・・・でも私」

両手をぐっと握りしめ、俯いた。

泣くな。泣くな。泣くな。泣くな! 泣く必要なんてこれっぽちもないっ。

「わ、たし・・・は」

上手く言葉が出なくて、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。

柏木祀あなたが好き。だから――――縁を切りたい」


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