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恋紬のフィラメント  作者: 如月雨水
断絃望めず
33/42

拉致られて、理事長室

誤字脱字を見つけ次第、直します。

何故、こうなったんだろう――――?

押し倒された状況で、私は場違いにもこの状況になった経緯を追憶した。

その際、私に向かって何かを言う人物の存在は思考の片隅に捨てておく。いや、何かしら手を出してきたら即座に思い出して、反撃しよう。そのためにも相手によって一つにまとめられた両手を解放せねば。

・・・いや、別に足でもいっか。

男の急所を攻撃すれば楽だし。

――――と、結論が出たので過去を思い出してみる。

風邪で休んで二日。

熱も下がって、これは完治した! と言うことで久しぶりに登校しようとしたんだけど、何故か柏木は迎えに来ず、通学路で合うこともなかった。珍しくて驚いたけど、傍に当たり前にいる存在がいないので違和感が半端なかった。寂しいとすら思えて、そんな自分に「いや、これこそ縁を切るきっかけ! 自覚した想いを綺麗に消すチャンス!」と内心で考えて、凹んだ。そんな簡単に割り切れるか。しかし・・・好きだと自覚した途端に、柏木から愛想を尽かされたか。

今までの対応がアレだから仕方ないんだろうけど・・・。

だとすると、前に聞いた台詞は何だったんだろう? 

てか、愛想をつくならもっと前についているはず。何で今?

疑問を浮かべ、解を得ようと思考しようとしたのだが、何かに襲われたように制服がはだけている悠乃とすれ違って思考が真っ白になった。立ち止まり、後ろを見れば、妙に良い笑顔の井上先輩の姿。・・・そこで悟って、身体ごと眼を逸らした。

何事か叫んでいるが、聞こえない。聞こえない。

私は何も聞こえない。耳が仕事を放棄中だから、聞こえていないんだい!

喧騒と絶叫が混じり合ったような音が消えて、再び視線を前に向ければ・・・秦と一緒に登校している暦を発見した。二人とも、私に気づいた様子はない。

ちょっと寂しい。

しかも何やら真面目な話をしているので、声をかけ辛い。

一人で登校なんて、いつ以来かな? ちょっとした寂しさを抱きつつ、学校へ向かえば校門前で夏目と幾月が何やら怪しい雰囲気を醸し出していた。周りの人間が距離を置き、遠巻きに眺めていることにすら気付かず、熱心に話しこんでいる姿はある意味異様だ。

――とは言ったが、何てことはない。

幾月があくどい顔で猫の写真を夏目に売り、夏目が締りのない顔でそれを買い取っているだけの話。その際、二人の発する空気がちょっとアレなだけであって。まったくもって健全過ぎるものだ。・・・たぶん。

(・・・何で皆、私に気づかないんだろう?)

いや、語弊だ。

気づいているけど、あえて無視している。そんな状況だ。――何で?

何かしただろうかと首を傾げるけど、思い当たる節はない。まさかとは思うけど、柏木関係だろうか? 柏木が何かした? それにしては、何だか憐れみの眼を向けられるんだけど・・・どう言うことだろう? てか、合掌するなよ夏目!

この後に何かあるのかって、不安になるから止めて!

問いただそうとするけど、そそくさと逃げられて聞けずじまい。何とも複雑な感情を抱きつつ、昇降口に向かえば・・・・・・。ああ、ここで現状に繋がる出来事が起こったんだ。

「冬歌、少しいいか?」

私の下駄箱前にいたのは、朝から姿を見なかった柏木で

――――だけど。

「俺について来て」

「は? ちょっと、何をいきなり・・・腕、引っ張らないでよ!」

「いいから、こっち」

「だからっ」

強引で無理矢理に私を引っ張り、どこかへ連れて行く姿は横暴でしかない。何がしたいんだ、コイツは。

掴まれた手を振り払おうとするけど、コイツ、どれだけ力を込めているのかまったくびくともしない。逆に抵抗したのが気に喰わないのか、力を強めてきた。痛いんだってば!

呻いた声や、痛みに顔をしかめた私に気づくことなく歩き続けて・・・・・・。

で――――辿り着いたのが理事長室って、どう言うことかな?

開かれた扉の前で考えるも、まったくもって解らない。何がしたいんだ? ・・・いや、何がって、入れってことだよね? 無言だけど、瞳がそう言っている。

「ねぇ、あのさ」

「入って」

「だから」

「ほら、早く」

乱暴に背中を押され、たたらを踏んだ。危うく倒れそうだったよ!

睨みつければ無表情が私を見ている。その瞳に感情らしきモノは一切なく、ぞっとするほど冷たい。

一体全体、コイツに何があった?

「っ?!」

怪訝に思った一瞬、世界が回った。

正確に言えば、私の身体が後ろに倒れた結果、視界が動いただけなんだけども。突然のことで受け身もとれず、来るであろう衝撃を諦めて受け入れようとした。・・・が、訪れたのはポズリ、と言う柔らかい感触。はて、私は何に倒れた?

眼を白黒させる私の前に、覆いかぶさるように影が現れて・・・・・・。

――――うん、それでこうなったんだ。

追憶を終え、私は改めて眼の前の現状と向き合うことにした。

いつの間にか、静寂が場を支配している。どうやら私の意識が向いていないことに気づいたらしい。恨みがましい、と言うよりも憎らしい眼を向けられた。

「この状況もそうだけど」

溜息まじりに呟いて、無防備な腹部に蹴りを見舞いした。

「何で、柏木の格好してるのかな?」

咄嗟のことだろうと、受け身がとれない時点で、いや、それ以前に柏木であるはずがない。

「まさかとは思うけど、私が騙されると思ったの?」

何年、柏木と一緒にいたと思ってるんだ。些細な変化にすら気づくレベルだぞ、私と柏木の関係は。まったくもう・・・幼馴染、舐めんなよ!

馬鹿にしたように息をついて、じと眼で床に座り込む人物を見る。

まったくもって、本当に何を考えているのやら。理解できないと言うか、したくない。

「相手が悪かった、としか言えませんよ。理事長」

「・・・解っていながら、容赦のない蹴りだね。冬歌さん」

痛みに顔をしかめ、蹴られた腹部を押さえる理事長に呆れしか浮かばない。

「悪趣味だったもので、つい」

「ついで足がでるのか」

「正当防衛かな、と思って」

「だとしても・・・いや、うん。普通、あの状況なら悲鳴をあげるとかもっとこう、女らしい行動にでない?」

「私に何を期待してるんですか?」

赤面して、恥ずかしさに叫べばよかったとでも? ――はっ。それは誰だよ。

少なくとも、私じゃない。

「理事長相手にそんな反応、なんでしないと?」

さらりと告げれば、項垂れた。

「つまり、私は男として見られていない――ってことか」

「男でしょう、理事長は」

例え、女装癖があろうと。

「うん、さも当然のように言われると否定できないし、確かにそうなんだけど。私が言いたいのはそうじゃなくて・・・」

頭を抱える理事長は、けれどそれ以上の言葉を紡がず沈黙した。

そして溜息。

「私がつけいる隙がまったくないってことが、嫌でも解ったよ」

「理事長?」

悲しげに笑って、理事長が立ち上がった。

「乱暴な真似をしてすまなかった。もう、西城さんには関わらないから安心して欲しい」

名前呼びが名字呼びに戻った。

どう言う心境・・・って、理事長の様子を見る限り私のことを諦めた。と言うことだろうか? え? そうすると本気で理事長は私に好意を寄せていたと?

・・・柏木をからかうための冗談だと思ってた。

「関わらない、問うことは藍染さんは転校でもするんですか?」

「そうなるね。これ以上、西城さんに好意を抱いても報われないならきっぱりと諦めるのが一番だし。何より――――柏木くんの嫉妬と独占欲が怖くて、私、殺される」

青白い顔で笑いながら、身体を小刻みに震わせる姿に一切の冗談を感じなかった。なんだ、理事長も柏木が怖いのか。

・・・いつから?

「前は平気な素振り見せてたのに」

「虚勢って大事だから」

か細い声だ。

「ってのもあるけど、西城さんを想えば柏木くんなんておそるるに足らず! 西城さんを手に入れることしか考えてなかったからね。前の私は」

「はぁ」

「心底、興味なさそうな顔だね」

「それはまぁ・・・だって、理事長が私に向ける好意は異性に対するモノじゃなくて、愛玩動物に向けるモノに近かったですから。そんな台詞を言われても」

「・・・・・・なんだ、ばれてたのか。ちなみに、何時から?」

「藍染さん時代から」

さらりと告げたら、絶句された。

そんなに驚くことだろうか? 思わず首を傾げてしまった。

「それってつまり・・・柏木くんにもばれて?」

「そうでしょうね。だから藍染さん時代から対応が冷たいんですよ、柏木は。そう言う輩には最初から容赦ないですし」

昔にもそう言うのあったなー、なんて過去を思い出してすぐに消去した。

思い出さなくていいものは、さっさと記憶から消してしまおう。その方が心の安定に繋がる。うん、経験がそうだと言っている。

「た、確か西城さんに好意を寄せてる後輩がいたよね!」

「あからさまな話題そらし。・・・・・・幾月のことですか?」

「そう、彼! 彼も西城さんのことを異性として本気で好きなのかな?」

「さぁ? どうでしょうね。少なくとも、これから先も幾月に告白されても受け入れるつもりはありませんし、幾月と恋仲になる未来がちっとも想像出来ないので無理です」

「わ、酷い」

引きつった笑顔で言われた。

「まぁ、そうだよね。西城さんは柏木くん一筋。他に靡くこともないし、告白されて受け入れるなら柏木くんだけだよね!」

「はぁ、そうですか」

「なにその適当さ! ちょ、ちょっと西城さんっ。私から見ても君は間違いなく柏木くんを異性として見ている。好意を寄せてる、愛してる! なのに何でそんなことを言うのかな? え? 何? まだ自覚なし? ちょっとイラってするんですけど!」

「はぁ、そうですか」

「ねぇ・・・なんでそう、投げやりなのかな?」

「柏木の言葉が信じられないから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

間抜け面を見せる理事長から眼をそらし、ソファに座り直す。

ああ、何で私。今まで記憶の奥深く、片隅に隠した過去を・・・想いを口にしてるんだろう。それも理事長相手に。

「だって柏木ですよ? 容姿もよくて頭も良い、運動神経抜群のまるで二次元にいるような完璧な存在! 性格はあれですけど、そんな人間に告白されても素直に信じられると? 答えは否! むしろ幼馴染だからこそ信じられないっ」

「え・・・と」

「だけどそれが全部本音で、真実だと認めて受け入れちゃったから困る」

「あ、認めはしたんだ」

「でも今更素直になれないし、なりたくないし。柏木に恋してたなんて認めるのも、それを言葉にするのも嫌!」

「嫌って・・・西城さん」

「だいたい、私は柏木に縁を切ろうって言った人間ですよ?」

視線を理事長に向ければ、困惑した眼が私を見ている。

「今更――――何て言えばいいんですか」

「西城さん」

「それに柏木には私よりも相応しい女がいますよ。絶対、間違いなく」

「それはない」

きっぱりと否定された。

しかも真顔で。

「西城さん・・・ぐだぐだ悩んでるより、言葉にして柏木くんに伝えた方がすっきりすると思うよ」

「だから言葉にしたくないんですって。ねぇ、さっき言いましたよね? もう難聴ですか? 耳鼻科に行くことをお勧めします」

「ひどいっ」

嘘泣きをされたが、心底どうでもいい。

「だいたい、柏木を好きになったきっかけを思い出せないのに想いに答えるのは嫌。負けた気がするし、すっきりしないから断固拒否。てか、私はどうして柏木を好きになったのさ!」

「私に聞かれても・・・」

「そもそも、柏木を好きって言う気持ちをどーして否定して、認めず、隠して、見ない振りしてきたんだろう?」

「いや、だから・・・」

やはり、相手が柏木だからだろうか?

幼馴染同士の恋なんて、そうそう実る筈がないと言う先入観か?

・・・さっぱり解らない。

「もうさ、西城さん」

理事長の疲れた声が聞こえた。

「気持ちそのまま、柏木くんに言って解を得ればいいんじゃないかな?」

「素直になりたくない」

「・・・・・・・・・でも、それじゃあ前に進めないよ?」

その通りなので、沈黙した。

でも――――私は柏木とどうなりたいんだろう?

恋人になりたい、とは思わない。好きと自覚した今、強くそう思う。けど、離れたいとも縁を切りたいとも思えない。自覚したから、尚更に。

息をついて、眼を閉じた。

「繋がった糸は断ぜず、かな?」

眼を開ければ、視界に面倒くさいと顔に書いた理事長の姿が映り込む。

何とも、顔に出やすい人間だ。――年上に対する言葉じゃないな。

「西城さんって・・・面倒くさいんだね」

「煩いですよ、女装好き」

手近に投げるモノがないのが、悔やまれた。


余談だが――この日から一週間、柏木と何もなかった。会話すら、ない。


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