頭痛が痛い状況
誤字脱字を見つけ次第、直します。
暑かったり寒かったりで、体調がおかしいです。特に足。
「まぁ、茶番はともかく」
「茶番ならやらないでよ!」
「はいはい、悪かったよ。――――で、昶はいつまでそこに隠れてるつもりだ」
柏木の冷やかな声音に、茂みに隠れていた霧生がすぐさま姿を現した。
若干、額に汗をかいているようだけど・・・・・・おそらく、冷や汗だろうね。一切、柏木に視線を向けないのがいい証拠だ。
・・・で、何で霧生がそこにいたの? てか、隠れる意味は?
スカートを押さえつつ、首を傾げた私に藍染さんが呟いた。
「新聞部に載せる情報探しですか、御苦労ですね。いや、本当に」
「西城と藍染のことは載せない」
「ん? 私のことも・・・?」
笑いながら小首を傾げた藍染さんの声は、いつも通りに戻っている。素を知ってしまった今、違和感でしかない。いや、正直言えば――――気色悪い。
藍染さん本人から、性別のことを聞いてないけど確実に男でしょ? なのにどーして、わざわざ女の声に戻す。柏木がいた時はそんなことしかなったのに・・・。怪訝な眼を向けてしまうのも仕方がない。
「藍染が・・・実は女装男子だってことは、記事にしない。てか、したところで誰も信じないし、デマだって叩かれるのがオチだからな」
「・・・ふぅん。そこは聞いたのか」
「その代わり、西城を呼びだした人間の情報をくれ。それを記事にする」
「いいけど、情報って言っても犯罪歴だけどそれでも構わないか?」
「え? ・・・・・・退学者はこんな奴だったって記事に出来るから、くれ! いや、ください」
「別にいいよ。じゃあ、後でUSBに入れて渡すから」
「ああ、ありがとう!」
嬉々とした表情の霧生に、私は尋ねた。
「何で隠れてたの?」
「野次馬根性? 巻き込まれたくないから」
「・・・・・・・・・あ、そう」
最初の疑問形は何。とは思ったが、口にしないで変わりに溜息をついた。
あと、今更だけど柏木。当然の如く傍に来ないで。肩を抱くな。離れろ、鬱陶しい! 左肩に乗った柏木の手の甲をつねれば、小さく「痛い」と言われた。痛くしてるんだから当然でしょうーが!
それでも放さない柏木にある種、尊敬はするよ。呆れが勝つけど。
「それじゃあ、俺は今から記事にするから!」
言うや否や、駆けだした霧生の背中を見て柏木が一言。
「授業をさぼる気か、赤点の癖に」
ぽつりと告げた言葉に、私はそっと眼をそらした。
数学赤点常習犯の私にとって、その言葉は痛いです。はい、耳に痛くて思わず塞ぎたくなるほどに。
あ、そう言えば次の授業は数学だ。
さぼらず受けよう。
せめて、授業態度で点数を稼がないとっ。
「なら私達も次の授業、さぼろっか」
「はい?!」
「場所は・・・・・・・・・・・・生徒会室でいいよね、柏木くん?」
「別に問題はないが・・・どうした、冬歌?」
「内申を気にしてるのかな? だとしたら大丈夫、大丈夫。あとでなんとかしてあげるから。だから安心して」
どう何とかするつもりなのさ、藍染さん! 安心なんて出来るはずもないっ。
しかし、私が喚いても二人の中では決定事項なんだろうな。いや、もしかしたら大丈夫かもしれない。億が一の可能性だとしても、駆けてみようじゃないか!
「拒否権は?」
「あると思う?」
「諦めろ」
――――泣いていいかな?
泣く泣く、生徒会室に連れて行かれた私は今、柏木と二人っきりである。慣れぬ場所に落ち着くはずもなく、ソファに縮こまる。手前の席にいる柏木の安楽した姿に、軽くイラっとしたけど表情には出さない。
ちなみに・・・藍染さんは途中でどこかに消えた。
笑顔を浮かべ、語尾にハートマークを付ける勢いで「ちょっとお着替え」と言って曲がり角から姿を消してしまった。・・・性別が男と知られたから、女装をしていられなくなったのかな?
何て考えたけど。よくよく思えばどーでもいいから、思考の端に追いやる。
柏木が淹れてくれた珈琲を飲み、インスタントの味だなとぽつりと呟いたら柏木から頭を叩かれた。何故?
「舌が肥えすぎだろ、冬歌」
「珈琲については妥協しない。むしろ珈琲のために散財してもいい」
「駄目だろ、それは」
胸を張って言えば、呆れられた。本心なのに・・・。
「拗ねるな、拗ねるな」
「ほっぺをつつくな、馬鹿!」
「柔らかいよな、冬歌のほっぺって」
「ひっはふな!」
何がしたいんだこの男!
しかも、無駄に距離が近くなってないか? さっきまで一人分のスペースが空いてたのに! ・・・いや、違う。最初は手前のソファに座ってたよね? それが何で、何時の間に傍に来たんだよ! 気配も音もなく来ないでよ、怖いからっ。
ひぃ、何で肩を掴むの?
そして何で顔を近づけて来るっ。
「か、かかかかかかか柏木?」
「名前」
「・・・な、名前?」
「俺の名前、前みたいに呼んでよ。冬歌」
懇願の色を瞳に宿し、柏木が甘えるように私に告げた。
そう言えば私・・・柏木の名前をいつから呼ばなくなったんだろう? 小さい頃は「祀」と呼んでいたはずなのに。気がつけば名字の「柏木」と呼んでいた。はて、何でだっけ?
・・・いや、別に名前なんて些細なモノじゃないか。
名字であろうが、名前であろうが、伝われば問題はないんじゃないだろうか?
「名前を呼んで」
――――そう、思うのだけど柏木は違うらしい。
むしろ呼ばせたくして仕方がないように見える。何でさ。
困惑に柏木を見ても、猫が甘えるように私の頬に擦り寄ってくるだけ。・・・これは、呼ばないと駄目なんだろうか?
「・・・・・・・・・・・・」
いや、でも今更、柏木のことを名前で呼ぶのはかなり恥ずかしい。
「ねぇ、冬歌」
甘い声を耳元で囁かないで。
「呼んで」
耳を舐めるなぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!
「祀! はい、呼んだ! だから離れろ馬鹿!」
もう、泣きたい。
絶対、顔が赤い。気のせいじゃないくらい、熱が顔に集まってるが分かるから、間違いなく赤い。そして涙眼だ。もう、羞恥で死ねそう・・・。
「・・・もう一回」
「やだよ、恥ずかしい!」
「じゃあ、これから名前で呼べば恥ずかしくないな」
「どう言う理屈っ」
くっ、この野郎。
どんなに力を込めても、一向に遠ざからない。むしろ余計に近づいた気がしてならないんだけど、これって一体どう言う原理?!
畜生。
さっきまで甘えた顔だったのに、今では意地の悪い顔だ。苛めっ子の顔だ!
これ以上、変なことしたら泣くぞ! 子供みたいにおお泣きして、困らせてやろうかっ。
「不純異性交遊中? なら、全力で止めるけどいいかな?」
救いの主が来た!
「学校でやるなんていい度胸だね、柏木君。・・・停学処分にしてやろうか?」
「へぇ・・・職権乱用か。随分と横暴だな」
「あれ? 私の姿を見てもまったく驚かないの?」
「ある程度、予想はついてたからな」
「それはそれは・・・。やっぱり、お前は嫌いだよ、柏木くん」
「奇遇だな。俺も嫌いだ」
なぁ、柏木。私を押し倒したまま会話をするのは止めてくれないか?
そして藍染さん。やけにスーツ姿が似合ってますね。髪が短いのはアレですか? ウィッグ? 短髪も似合いますね、流石は美形。思わず凝視してしまったよ。
「人前に姿を現さず、声と紙だけで指示を出す人間を好きになれる奴なんているか」
「酷いな・・・。これでも教員達には好評なんだよ? それにミステリアスでいいじゃないか、存在不明の人間って」
「俺に知られた時点で、存在不明でもないだろうが」
「そうなんだよね。校長しか知らない存在を、柏木くんと西城さんに知られてしまったからね」
「知られた、じゃなくてばらしただろうが。これが理事長なんて、世も末だな」
互いに穏やかな笑みを浮かべているのに、言葉に棘がある。いや、棘があるのは柏木だけで、藍染さんは何でもないように返しているだけか。
――――じゃ、なくて。
「理、事長・・・・・・?」
某スパイ映画のようにシルエットで始業式、終業式、卒業式、入学式に現れる存在が何故ここに・・・?
いや、ここにって・・・理事長が藍染さんだからいる訳で。え?
「ず、随分と若い・・・理事長ですね」
「ありがとう、西城さん。美容には気をつけてるからね」
「ただの若づくりだろうが。四十路過ぎた親父が、気色悪い」
「失礼な。私はまだ、38歳だよ」
「おじさんには変わりないな」
柏木が冷笑した。
「誰だって年老いて見えるより、若く見られた方がいいだろう?」
正論だ。
「まぁ、私には若者にはない大人の色気もあるからね」
「ああ、加齢臭か」
「違うから!」
「さっきから妙に臭いと思ってたんだが、そうか。加齢臭か。嫌だな、年をとるって」
「香水の匂いだよ、柏木くん! 判っていってるよね君っ?!」
・・・コントか。
とりあえず、私の上から柏木が退いたので、安全圏に逃げよう。そうしよう。
ぎゃーぎゃーと言い合う二人から視線をそらさず、そっと部屋の隅に移動して息をつく。これ、どう言う状況何だろう。
(カオス――――って、こう言うのを言うんだろうか?)
だとしたら誰か、この現状を打破してください。
柏木と藍染・・・じゃ、なくて理事長が小学低学年みたいな喧嘩を始めたのですぐさまに。いや、頭痛が痛いことになってきたので、出来れば早急に。この現場を治めてください。
本当にもう、お願いします。
頭どころか胃まで痛くならないうちに!
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
他力本願じゃ、やっぱり駄目かな?




