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恋紬のフィラメント  作者: 如月雨水
絡まる綾糸
23/42

生徒会室

誤字脱字を見つけ次第、直します。

更新亀並のゆっくりになります。

これは・・・どう言うことだろうか?

私は何で生徒会室にいて、黒革のソファに座って出された珈琲を飲んでいるんだろう。美味しいけど、落ち着かない。手元が震えて、上手く飲めない。・・・こぼしそう。

ちらりと、対面する形で向こうのソファに座る人物を見る。

と言うより、視線が一部に釘付けで動かない。――――胸から、眼が離れない。

(男子が釘付けになる巨乳に、まさか私まで眼を奪われるとは)

恐るべき、巨乳。

貧乳ではないけど、貧相な自分の胸と見比べて悲しくなってきた。泣いていいかな?

・・・いやいや、軽い現実逃避はここまでにしよう。

いい加減――柏木の右腕的存在の生徒会副会長、雪村千里が私を拉致が如く生徒会室に連行してきた理由を考えようじゃないか。

・・・あ、物凄く胃が痛い。

「ねぇ、西城さん」

「は、はいっ」

「柏木くんと付き合っているのよね? そうなのよね? 間違いないのよね?」

「違います、付き合ってません、間違いです!」

「いいえ、貴女は柏木くんと付き合わなければいけないの! むしろ私の恋のために、柏木くんと付き合って頂戴っ。後生だから!!」

「違いま・・・・・・・・・・・・ん?」

何だか今、柏木と付き合うことをお願いされたような・・・。えーと、空耳かな?

「お願い、柏木くんと恋人になって!」

「何か違いませんか、ソレ?」

土下座しそうな勢いで頼み込む雪村先輩に、私はドン引きだ。

「お願いされても柏木とは付き合いません」

「そう、付き合ってくれるのね!」

「あれ? 私の話、聞いてました? 付き合わないって言ったんですよ」

「ありがとう、私の恋のために柏木くんと付き合ってくれて。ああ、いえ。貴女達は元から両想いだったわね。私の恋のため、なんて言うのは失礼だったわ」

「耳鼻科に行け」

駄目だ、この人。

自分の都合のいいようにしか、耳に入ってない。

「すいませんけど、副会長が何を言っているのかさっぱり理解できません。副会長の恋なら、自力でどうにか頑張ってください。副会長なら落とせますから。ファイトー」

「無理だから言ってるのよ!」

「ひっ!」

物凄い力で両肩を掴まれ、般若の形相で睨まれた。

「彼は・・・彼はね」

「は、はい・・・?」

「私の魅力にまったく靡かず、私が積極的にアピールしても知らぬ振りをし、ようやく知り合いの位置づけに来たと思ったら素っ気なく、嫉妬させようとすれば笑顔で祝福し、ううん、それ以前に私の名前すら満足に覚えてくれないっ!」

・・・何で、そんな人を好きになった?

首を傾げたいが現実、副会長にガックンガックンと身体を揺さぶられて出来やしない。うう・・・気持ち悪い。吐きそう。

「なのに西城さん、貴女の名前はフルネームで覚えて且つ、幸せそうに呼ぶのよ!」

「・・・はぁ、そうですか」

うぁ、頭と胃がシャッフルされるぅぅ。

「付き合いは私の方が長いのに、どうしてこの扱いの差! 私の方が西城さんより綺麗で美人で、巨乳なのに!!」

「正直だ」

さらりと事実を言うな、この女。

そしていい加減、放してくれ。気持ち悪くて吐きそうだ。

気づけ、この顔色の悪さに! いや、それよりも先に私が手を払く方が手っ取り早いか。よし、実行だ。

「美人すぎるのが駄目なの? 彼はちょっと可愛い系がいいの? 西城さんみたいに綺麗と可愛いが並な顔がいいのかしら?」

「平凡だと自負しているが、失礼だな」

「ああああああもう、どうして私の想いに気づいてくれないの。応えてくれたっていいじゃないのっ」

悲哀の涙を流す副会長には悪いが、どうでもいい。

掴まれた肩を乱暴に払いのけたけど、眼がまだ回ってる。ああ、気持ち悪い。頭がシャッフルされたような気分だ。

涙ながらに語る副会長の言葉をスルーして、この不快感を何とかしよう。じゃないと本当に、吐きそうだ。・・・このソファに倒れてもいいかな? むしろ倒れよう。うん。

「酷いわ、酷い。でもそんなところも大好きなの、愛してるのよ、遼くんっ!」

「・・・・・・・・・・・・遼・・・くん?」

「私が愛してるのは遼くんだけなのに、どうして信じてくれないのっ。『柏木会長とお幸せに』なんて言われても、私は幸せにはなれないのに! それを言っても『大丈夫ですよ、お似合いですから』って・・・笑顔で止めを刺すなんて酷いわっ」

副会長の言う遼くんとは、もしかしなくても幾月のことだろうか?

そう言えば前に、幾月から副会長のことを聞いたような・・・。駄目だ。とてもじゃないけど、副会長(本人)がいる所で回想することじゃない。

思いだしたらたぶんどころか絶対、同情して憐れんでしまう。

それほどに、幾月が副会長に抱く想いは酷い。と言うより、厳しい。辛い。辛辣だ。

柏木に対する暴言よりは程度が低いが、副会長に吐く言葉も・・・うん、アレだ。女に対して酷いだろ、それは。と言うような台詞がポンポンと出てきてたからなー。一体、幾月と副会長の間で何があったんだろう。

深く聞いたら巻き込まれそうだから、追及はしないけど。今も前も。

「・・・・・・・・・あの、副会長」

「私、恋をするなら小学高学年って思ってたけど、遼くんと出逢ってから変わったの。いくら好きなタイプが年下でも、彼らもいずれ大きくなってしまう。そうなったら抱いた恋心も消えて、別れてしまう――そう思っていたのに、遼くんは違った! 高校生とは思えないあの童顔! 小柄な体型! すべてが私の好みドンピシャ!!」

ショタコ・・・ごほん、年下好きだったとは驚きだ。

開いた口がふさがらない。

「小学校の頃から遼くんを見てきたけど、変わらぬ姿形! 遼くんなら例え成人しても、老人になっても、私の好みでいてくれる!! だから私は遼くんを愛しているのよっ」

「それは・・・・・・・・・」

果たして、本当に愛なんだろうか?

まともに愛やら恋を知らない私が言えた台詞じゃないけど、ツッコミたい。が、藪をつついて蛇が出てくるのはごめんだし、面倒は嫌だから口を閉ざす。

「・・・・・・ごほん、失礼。みっともない姿を見せてしまいましたね」

「はぁ・・・そうですね。副会長の印象が180度変わりました」

「戻して頂戴」

「無理な話ですよ」

阿呆か、この人。

「本題に戻りましょう」

「いえ、戻らなくて結構です」

「柏木くんと付き合って頂戴」

「断ります。いい加減、人の話を聞いて!」

「どうしてなの西城さん!」

そんな悲愴な顔で言うな。むしろどうしては私の台詞だ。いい加減、私の言葉をまともに聞いておくれ! 頼むから、本当っ。

頭が痛くなってきたよ・・・。

「貴女、どうみても柏木くんが好き・・・いえ、愛しているじゃない!」

「ありえない!」

頭痛が吹き飛ぶ衝撃的発言だ。

「どこを見て私が柏木を愛してると? 眼科に行け! いや、精神科に行ってこい!」

「じゃあ聞くけど西城さん。貴女、柏木くん以外の異性から抱き締められたり、頭を撫でられたり、手を繋いで何か思うことはある?」

「思うって・・・いえ、別に」

昨日のチャラ男は気持ち悪いと思ったけど、友人相手にはとくに・・・何も。

「柏木くんだったらどうなのよ!」

「どうって・・・恥ずかしい、だけですけど」

「それよ!」

人を指差すな、副会長。

「他の異性に対して何も思わない、あるいは嫌悪感を抱くのに、柏木くんに対しては羞恥が出て来る! そして恥ずかしいけど、別に嫌ではない。そう言う感情もあるのよ!」

「・・・は?」

「断言して言うわ、西城さん。貴女――――柏木くんを愛しているのよ」

「それはない」

「それがあるのよ!」

突然の声に、副会長と揃って瞠目した。

「誰がどー見ても、冬歌は柏木君を愛してる! 意識してないうえに知らない振りをしてるから、そんなことが言えるのよ!」

乱暴にドアを開けた体勢で叫ぶ悠乃に、頭痛がぶり返してきた。

ついでに胃も痛い。

扉を閉め、ずかずかと足音をたててこちらに近づく悠乃の表情は――解り易く、喜色満面。

この状況を楽しんでいるのが一目瞭然。個人的に、何が楽しいのか理解できないので、さらに頭痛が増した。・・・薬を飲むべきか、否か。

痛む頭を押さえ、息をついた。

「冬歌は鈍いんじゃなくて『ありえない』っ決め付ける所が、悪い所よね!」

「別に決めつけてなんて」

「昨日、柏木君とゲーセンデートしてた奴が否定するんじゃありません!」

「キャラが違うっ! ってか、デートなんてしてないよ!!」

いや、それ以前にどうして知っている。私が昨日、柏木と嫌々ながら出かけたことをっ。

兄さんか?

兄さんのリークか?

「霧生君と買い物中にばったり発見しちゃってね」

星がつきそうな勢いで言うな。

「・・・霧生と買い物?」

「そうそう、霧生君の彼女に贈る誕生日プレゼントをどうしてか、一緒に探しててね」

「何で、悠乃が?」

「霧生君の彼女って、姉貴だから」

姉・・・?

悠乃の姉と言えば、ゆるふわ系のおっとりしていそうだけどその実、行動的で思い立ったが即日。全てを知らないと駄目! と豪語する、ジャーナリズム魂を持った見た眼を裏切る女傑・・・だよね?

その人と霧生が――――恋仲?

「わ、似た者同士」

「ちなみに言えば、姉貴が押して押して押し倒す勢いで、霧生君の心を撃ち抜きました!」

明るく言う台詞だろうか?

「さらに言えば、私が二人の関係を知ったのは二人がラブホに入る所を目撃したから」

「は?」

「その時の姉貴、『昶くんは私とセックスしたくないの? 私はしたいの。昶くんの初めてが欲しいの! 今、私を抱いてくれないなら他のどうでもいい見知らぬ男の元にいって、身体だけの関係を築いてくるわよ! セフレになってやるんだからねっ』って真剣な顔で爆弾発言を言ってたんだよねー。周りにいた人間、吃驚して二人を凝視してたよ。私は他人のふりをしたかったけど、霧生君の『助けて』って視線と身内の恥からその場を収めさせてもらったけどね」

色々と言いたいことはあるけど、とりあえず。

「セフレって何?」

「セフレとはですね」

「冬歌は知らなくていいことよ」

副会長の言葉を遮り、悠乃がにこやかに笑って告げた。

「て言うか、今の言葉は忘れて。忘れなさい。じゃないと私が柏木君に殺されるから」

「じゃあ、後で調べる」

「それも駄目!」

えー、気になるじゃないか。

不満気に頬を膨らませれば、副会長が困ったように笑う姿が視界に飛び込んだ。あ、存在を忘れかけていたよ。ごめん。

「別に良いじゃないですか、セフレの意味ぐらい。西城さんだって知ってもおかしくない年齢なんですよ?」

「駄目なモノは駄目! そう言う変なことを冬歌に教えたら、柏木君の報復が恐ろしいのよ! 実際、冬歌にBLとGLを教えようとしたら・・・・・・・・・ああ、恐ろしいっ」

「ああ、うん。・・・・・・柏木くんですからね」

顔色を青くした悠乃と、視線をそらした副会長。

何だか疎外感だ。

帰って良いかな? よし、帰ろう。

「こらこら、どこに行くつもりよ」

悠乃によって阻止された。ちっ、めざとい。

「話は変わるけど冬歌、変わらず柏木君と縁を切りたいって思ってるの?」

「当然だよ」

「即答・・・。流石に、柏木くんが憐れになってきました。いえ、遼くんが私に対する仕打ちに比べれば些細なことですけど」

「遼くん・・・? え、副会長、好きな人がいるの?!」

「はい」

ぽっと頬を赤らめる姿は、文句なしの美少女だ。

中身を知らなければ、オチない男はいないだろう。――例外はいるけど。

「私が好きな人は幾月遼太郎くんです。彼にベタ惚れどころか魂すら捧げる勢いで愛してます」

「・・・・・・へぇ、そっか。あ、冬歌の縁を切りたいって願いは叶わないと思った方がいいよ?」

「話を変えたね。なんで?」

「魂すら捧げる発言にドン引きしたからね。何でって、理由は至極簡単。――――縁結び神社で二人の仲をお祈りアンド祈祷してきたから」

「っ!?」

いつの間にそんなことをした!

勝手なことをしないでよ!

私は柏木と縁を切りたいんだからね!

――――と、叫びたいことは多々あるのに、あまりのことに混乱して言葉が出てこない。ぱくぱくと意味もなく口を開閉させ、驚愕の瞳で悠乃を見るだけ。

どや顔の悠乃に、どうしようもなく殺意を抱いた。

「し・か・も・・・二人の仲を占ってもらったらもうっ、運・命の二文字よ! 二人は離れられない宿命! 結ばれる定め! 神様からも祝福される仲だって!」

そんな・・・・ありえない。

認めたく、ない!

「絶望したって顔ですね、西城さん」

「こんな現実、誰が認めるモノかっ!」

「だけど真実よ。諦めなさい、冬歌」

「元凶が諭すようなことを言うな!」

精神的な苛めも受けてきたけど、過去のどれよりも一番、心に来たよ。銃撃を浴びたような衝撃だったよ!

畜生っ。本当、何てことをしてくれちゃったのかなーっ!!

泣きそうになって、顔を両手で覆った。うう・・・最悪だよー。

「ごめんね、冬歌」

悪びれのない声で言うな。

「あんまりにもじれったいもんだから、皆でお参りに行ってきたの。『柏木祀と西城冬歌が一刻も早く恋仲になりますように』って。あ、ちなみに私は『結婚して、円満な家庭が築けますように』ともお祈りしておいたから」

「ふざけないでよ、マジで」

「気遣いよ、気遣い」

いらない。

返品して来い。

熨斗付けて返してやる。

「と、言うことは」

嬉々とした副会長の声が聞こえて、そろりと顔を上げれば・・・・・・。うわ、嬉しそうに笑ってる。

「二人が付き合うのも時間の問題と言うことですね! 私も晴れて、遼くんと両想いにっ」

頭が痛い。

「柏木君が本気を出せば、流石の冬歌もオチるでしょ?」

オチて堪るか。

「はぁぁぁ・・・夢のような未来が」

訪れないよ、副会長。

「王道の幼馴染の恋。その果ては結婚。そして――――」

妄想の世界から帰って来い、悠乃。

「絶対に、縁を切ってやるぅぅぅぅ」

皆が望む未来なんて、断固拒否だ。

私は、私が願う未来を掴んでやる! 絶対、柏木と付き合ったりなんてしないんだからねっ!

柏木と縁を切って、平凡で穏やかな日常を得てみせるっ。

「無理なことは止めなさいって、冬歌」

「無理じゃない!」

「相手は柏木くんよ? 冬歌が逃げれば逃げるほど追いかけて、恋心をこじらせた結果――――」

ぽん、と悠乃の両手が肩に置かれた。

真剣な瞳が私を射ぬき、ゆっくりと唇が動く。

「拉致監禁の既成事実、孕ませルートになるわよ」

「それ・・・ゲーム?」

いかん。

頭が悠乃の言葉を拒絶して、まともに理解できない。えっと、誰が拉致監禁で孕ませ? あ、目眩がしてきた。

「・・・いくら柏木くんでも、犯罪は犯さないんじゃないかしら?」

「甘い、甘いわ副会長!」

私から放れ、副会長に熱く語る悠乃から眼をそらし、窓を見た。

ああ、空は今日も青い。雲は白くて、悠然と泳いでいる。私もあの雲のように、この場から逃げ出したい。・・・逃げようか。

痛む頭と胃が限界を訴えてるし。

何より――――衝撃な台詞に未だ、頭が正常に働かなくて困る。

「冬歌相手が望むならどんな無理難題も平然とする柏木君よ? 愛情深く、独占欲も強く、執着心や執念も桁はずれな程、冬歌に抱いている柏木君が逃げる冬歌を追いかけないはずがないでしょ?」

「そうね・・・。私も遼くんから逃げられるとついつい、追いかけちゃうものね」

「絶対に手に入らないとなれば、既成事実を作ってでも自分のモノにしようとするはず! 孕ませて、婚姻届に判を押せば強制的に冬歌は柏木君のモノになるのよ!」

「・・・その手、私も遼くんに使おうかしら」

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

噛み合ってるようで、噛み合ってない会話だな。

幾分か冷静さを取り戻した私は、残った珈琲を飲んだ。

うん、ぬるい。


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