表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋紬のフィラメント  作者: 如月雨水
絡まる綾糸
20/42

誤字脱字を見つけ次第、直します。

翌日の昼休み――。

私は隠れるようにして賑やかな教室を出て、とある場所を目指して歩き出した。・・・格好つけてみたが、目的の場所は資料室である。

柏木の信者が集うと噂――ではなく、霧生が確かめたから事実なんだけど。まぁ、とにかくその場所に向かっています。一人ではなく、何故か転校生と一緒に。解せん。

あ、ちなみに昨日の同級生二人にはちょぉぉぉぉぉぉぉぉっと、精神的なトラウマを植え付けたので暫く学校に来ないでしょう。彼女達が同士に連絡することが出来ないほど、盛大にやったからね。

おかげで、ここ何日か溜まってたストレスが発散できたよ。

「・・・で、藍染さん。どうして私の隣を歩いてるの?」

「西城さんの護衛」

ハートがつきそうなほど、明るい口調ですね。

「一人じゃ心細いでしょ?」

いえ、別に。首を横に振って否定したけど、無視された。

てか会話がかみ合ってない。私で隣を歩くのか聞いただけなのに、何故に護衛? まさか私が何をしに行くのか解っての言動? 実はエスパーなのか、転校生?!

・・・馬鹿なことを考えたけど、昨日のことを思い出せば解明する単純な謎だ。

だって私、同級生二人の前で仕返しするって言ったし。

こそこそと隠れるように動けば、事を知っている転校生が勘づいてもおかしくない。

「それに、ついて来てるのは私だけじゃないよ?」

「・・・・・・ああうん、あれはほっとこう」

「そう?」

ストーカーのように後を追ってくる上野先輩の姿なんて、見えないよ。例えサングラスとマスクをつけた不審者の格好をしていても、私には何も見えないんだ。

例え隠れる気のない大きな声で、「冬歌ちゃんを追跡中なう!」なんて言ってても、私には何も聞こえない。何も知らない。――ツッコンだりしないんだからね!

・・・おっと、興奮してしまった。

深呼吸、深呼吸。

「それにしても昨日の西城さん・・・・・・・・・凄かった」

頼む、思い出さないでください。

しみじみとした口調でありながら、どこか夢見心地の顔をする転校生からすっと視線をそらした。あれを「凄い」の一言で片づけ、且つ、頬を赤らめさせるのか。転校生の感性が解らない。

「ときめいたわ」

「冬歌ちゃんにときめいていいのは友達だけよ!」

隣と背後の声に、沈黙しか出来ない。

意味が解らない。頭が痛い。

行く先を変更して、保健室に行こうかな。

ヤル気とか諸々、削がれたんだけど。・・・いやいや、やるなら即日決行。おもいたったが吉日。善は急げ。がんばれー、私。何とか気力と根性でやり通せー!

自分にエールって、空しいね。

「あ、着いたね」

思考の海で遊んでたら、目的地に到着したらしい。

「わぁお、何だかおどろおどろしい空気を放ってるね。まるでRPGのボスの部屋前みたい」

「ウィンドウに『禍々しい気配がします。入りますか?』って出るの?」

「そうそう。それで『yes』を選択すると、ボスの長ったらしい台詞があってね。それが終わって漸く、ボス戦!」

転校生が生き生きと語っている。

ゲーム、好きなんだね。悠乃と気が合いそうだ。ジャンルは違うけど、同士になれるんじゃないかな? たぶん。

(まぁ、悠乃は転校生を好いてないから無理だろうけど)

苦笑したら、転校生と眼が合った。

え? 何?

「・・・ねぇ、西城さん」

「はい・・・?」

「独り言?」

「は?」

「小さい声でよく聞こえないけど、何か呟いてるよね?」

心の声が言葉になっていたのか!

思わぬ事実に驚愕し、けれど素知らぬ顔で私は首を横に振った。ここで悟らせるな!

「気のせいだよ」

「・・・・・・・・・・・・そう?」

納得してない顔だけど、そうだとしか言えない。むしろ言ってたまるか!

ああもう、迂闊だ。うっかりだ。気づかぬうちにやってしまったよ。今度から、心の声が漏れないように気をつけないと。それはもう、細心の注意を払ってっ!!

・・・ふぅ、落ち着こう。

――と思ったけど無理だ。

だって転校生が、勢いよく資料室の扉を開けちゃった。あ、待って! の言葉もかけられなかった。素早いよ、転校生・・・・・・っ。

思わず、頭を抱えてしまう。

「失礼しまーす!」

無駄に明るい声で言わないで。

「あらあら、凄い人の数。せっまい資料室が鮨詰め状態なんて、暑っ苦しい上にムサイ。息苦しいんで、何人か外に出てくれませんか? 特に脂っこいデブとゾンビ体型の不細工」

さらりと毒を吐いたよ、転校生。

「いきなり来て、随分な言い草だな」

「それは失礼しました。けど、事実なので覆せませんよ。針金体形のメガネ猿」

オブラートで包んで!

ちらりと背後を見れば、消火器に隠れた上野先輩が恐怖に身体を震わせている。・・・もしかして、転校生は昨日もこんな風だったんだろうか? 心にぐっさりと突き刺さる台詞を、躊躇いもなくポンポンと言われたら、そりゃ青ざめる。

けど――――精神攻撃とは、中々にやるな。

感心しつつ様子を見ていれば、資料室にいた一人が私に気づいたようだ。おっそ。

「西城冬歌っ! お前が何故、ここにいる!」

校内に学生がいて何が悪い。

「お前がいなければ柏木様はっ」

「柏木様と幼馴染なんて!」

「柏木様――――」

「お前――――」

・・・・・・あの、さ。

途中でシャットダウンしたけど、似たような台詞を別々で言わないでくれる? 白い眼を柏木の信者達に向け、私は溜息をついた。それはもう、深く長いやつを。

こいつら、ボキャブラリーが貧困すぎて泣けてくる。

転校生も呆れた顔をして、馬鹿にするような眼を向けていることに気づけ。君達。

ぎゃんぎゃんと吼えるだけなら、犬でも出来るんだよ。

「煩い、黙れ」

苛立ちを素直にぶつければ、面白いように口を閉ざした。

たかだかこの程度で、顔色を青くしないでよ。くだらない上につまらないじゃないか。冷笑して、私は柏木の信者達を一瞥した。

ちょっと視線が合った程度で、怯えるなよ。

「私がここに来た理由、本当に解らない――――?」

沈黙は、肯定と言うことなのかな?

「ふぅん」

「一枚岩じゃないんだね、こいつら」

ぽそりと呟いた転校生の言葉に、そりゃそうだと内心で頷いた。

こいつら、柏木の信者はただ単に柏木祀と言う人間に惚れこみ、憧れ、敬い、尊う者たちが集まっただけの烏合の衆。同じ想いを共有した仲間でなければ、行動を一緒にしない。が、思考も思想も別。情報を共有しない。

信者と言う同士だけど、こいつらの中では仲間ではない。と言う認識なんだろう。

まったくもって――――どうでもいい。

「解らないならいいや。完結に言えば、君達の行動に苛立って、排除しにきただけだよ。私の敵」

「・・・・・・・・・は?」

「意味が解らなくて結構。間抜けな顔を見るために嘘をつく趣味はないし、そもそもそんな面倒なことを私がするはずないでしょう? 少なくとも――西城冬歌と言う人間を少しでも知っていれば、だけど」

こいつらが知ってるはずがないから、あえて言えば苦い顔をした。やっぱり、知らないようだ。失笑し、肩を竦める。

「知らないよね。だって君達は、自分の都合のいいことしか知ろうとしない。知りたがらない。それが柏木のことでも、君達は耳にいれない。おかしいね。信者なら、柏木祀と言う人間の全てを知りたいと思わないの? 柏木祀の傍にいる人間のことを、全て知ろうと思わないの?」

嘲笑したら、何人かが顔を赤くした。

蛸みたいだけど、まずそう。喉を鳴らして、何気なく転校生を見た。双眸が楽しげに細められ、口元に笑みが浮かんでいる。・・・悪趣味だね、転校生。

上野先輩が小声で何か叫んでいるようだけど、無視しよう。

視線を元に戻して、私は腰に両手をあてた。

「ああ、仏心で一つだけ」

にっこりと笑って、言葉を続ける。

「柏木の忠告・・・いや、説得を聞いて心を入れ替えた人間は転校生こと、藍染姫花さんと一緒に外に出ていいですよ?」

私も鬼じゃないからね。

敵対心やらを捨てた人間を、排除はしないよ。

「今まですいませんでした、西城さんっ」

頭を下げて、私に謝罪する人間――――15人。

柏木の信者数の方が多いが、それでも半分は減った。見た感じだと残り、25人かな? いやー、それにしても・・・。偉大なり、柏木の言葉。

ちょっとだけ、苦笑した。

「失礼します!」

資料室を出て行く生徒に、ひらひらと手を振っておく。

あ、そうだ。

転校生もここから追い出さないと。視線を向ければ、断固として「出て行かない!」と言う意志を秘めた瞳とかち合った。うーん、困った。

「私も残るからね!」

「ごめんね、藍染さん」

ポケットに隠していた催涙スプレー、使わせてもらうよ。

「ここからは、関係者以外立ち入り禁止。安心して――R指定にはならないから」

転校生が体勢を崩した隙に資料室の外へ突き飛ばし、扉を閉めて鍵をかけた。

外で何か喚く声が聞こえるけど、無視。ああでも、あの声を聞いて誰か来るかもしれない。なら、早く事を片付けないと。

にやりと口角をつりあげて、私は冷やかに残りの信者を見た。

「さて、と」

怯えながらも、数で勝てると踏んだのか強気な彼らに私は――。

「面倒事は、すぐに終わらせようかな」

ただ、冷笑を向けた。







「転校生は黙らせたから、教師は来ないよ」

資料室を出たら、柏木がいた。

「知ってる。途中から声、聞こえなくなったし・・・けど、何したの? ぐったりしてるんだけど?」

「寝てもらっただけ」

首裏を叩く動作をする柏木に、頬が引きつった。・・・や、鳩尾に一発じゃないだけマシか?

乾いた笑みを浮かべ、私は資料室の扉を閉める。

「それより、またやったのか」

「またって、何のことかな?」

「冬歌って、キレると暴力的だよな」

「へぇ、そうなんだ」

からからと笑う柏木を無視して、足を動かした。

ポケットからスマホを取り出し、時間を見る。昼休みが後少しで終わりそうだ。ううむ、お腹が空いたし次の授業はさぼろうかな。カモフラージュ用に、ちゃんと財布も持ってきたし。

うん、そうしよう。

行き先を食堂に変更!

食堂のお姉さん達は別に、授業をさぼっても文句も説教も言わないからね。

全ては自己責任って考え方だし、何よりお姉さん達が嫌なのは成績が下がるより、売り上げがない方だしね。流石、商売人。金の方が大切か。失笑した。

「今回は何をしたんだ」

「何もしてないって、しつこいな」

「報復に来る可能性は?」

・・・だから、しつこいんだってば。

「はぁ・・・、ないよ。と言うか、私に仕返す根性を残すと思う? 面倒なことはぜぇんぶ、片付けてきたよ。もう彼らが私に対して何かをすることはないから」

詳細は省いて、簡単に告げれば柏木が溜息をついた。

何か文句でもあるの? 睨みつければ、何とも複雑な眼を向けられる。

「俺が動いてたの知って、どうして片付けるかな」

「その方が手っ取り早かったし」

「嘘つけ。ただの気まぐれだろう」

断言された。

「面倒が嫌いな冬歌が動くなんて、余程のことかただの気まぐれしかない」

反論出来ない事実だけど、何か・・・むかつく。

「私だって自発的に行動するよ」

今回は気まぐれじゃなくて、そっちだ。

ちょっと拗ねてやる。

「自発的に・・・ね」

「ねぇ、何でニヤニヤ笑ってるの? 気味悪いんだけど」

「いーや。まさかここまでとは思わなくて」

「・・・は?」

ここまでとはって、どう言うこと? 首を傾げれば、柏木が私の右手を掴む。え、何? 困惑すれば、ぐっと身体を引き寄せられて、ぽすんと柏木の胸板に頭がぶつかった。

は? 何、これ?

どういう状況?

や、それよりも何でこうなった? 疑問符を頭に浮かべながら、柏木から放れようともがくけど一ミリも動かない。ああ、ちょっと! 首元に顔を埋めるな! こそばゆいっ。そもそも、何がしたいのさ!

訳が解らなくとも頬を紅潮させた私の耳に、見知らぬ声が聞こえた。

「あー、柏木先輩だ」

「・・・邪魔しちゃ駄目よ。柏木先輩、西城先輩との時間を大切にしたいんだから」

「そうだねー。柏木先輩が西城先輩をどれだけ愛してるか知っちゃったら、邪魔なんて出来ないよねー」

「そうそう。あんな盛大な惚気を知ったら、西城先輩との仲を否定する気もなくなるって」

後輩女子は・・・何を言ってるんだろうか?

眼を白黒させ、後輩女子を凝視する私に気づかない二人がさらに言葉を続けた。

「むしろ――西城先輩しか、柏木先輩を受け止めることは無理だって気づくし」

「そうだよねー。柏木先輩には西城先輩がお似合いだし、それ以外はあり得ないってなるよねー」

何がどうなってそうなった!?

ちょっと、後輩女子。そこら辺、詳しく教えておくれ! 手を伸ばし、声をかけようとしたら首を舐められた。

「か、柏木っ?!」

ちくりとした痛みが首にはしって、慌てて柏木の名を呼んだけど反応なし。何度も首を舐め、唇を首から肩口に動かす。その感覚が生々しく判って、ぞわりとした悪寒が背中に宿った。

顔が赤くて仕方ない。たぶん、いや絶対に、湯気が出るほどに真っ赤だろう。

こんな恥ずかしい場面、人にみられたし。

その目撃した後輩女子はいつの間にかいなくなってたけど・・・っ。

本当にもう、何がしたいんだよ、柏木!

半泣きになりながら柏木の名を呼べば、ようやく柏木が私の首元から顔を放した。唇を舌で舐める姿が艶やかで、色気がありすぎて目眩がする。

こ、こうなったら渾身の力で柏木の足か胴に一撃を見舞って逃走するかっ!

「冬歌のおかげで、外堀が完全に埋まった」

「――――――――――え゛?」

足を踏もうとした矢先に、何やら妙な台詞を聞いたような・・・。

「俺の信者と名乗る連中も、これで冬歌のことを認めるだろうし」

「は、い?」

「いや、な。前からあの連中にどうやって俺の愛する女(西城冬歌)を認識させるか、考えてたんだよ。その内の15人は、俺に畏怖を抱いててな。簡単に俺と冬歌の仲を認めてくれたんだが残りがそうもいかなくて。だから――――」

まって、お願い、待って。

私、頭が痛くなってきた。

「冬歌直々に、相手をしてもらった」

「どこから策略だった!」

「策略とは失礼な」

柏木が私からほんの少し身体を放し、肩を竦めた。

「ただ、そうなるように連中を集めて、冬歌が動きやすいようにしただけ。そしたら、痕は冬歌が勝手に事を起こしてくれる。ほら、冬歌って面倒が嫌いだし、何よりここ最近、ストレスが溜まってたよな? だから、害悪は即刻排除すると思ってたんだよ」

「・・・柏木の掌に踊らされてたとは」

「冬歌が動かなきゃ、俺が動いてただけ。踊らせてなんていない」

「どっちでも変わらないじゃん」

「変わるよ」

柏木が柔らかく笑う。

「だって冬歌が自発的に動いてくれたし」

「動かなきゃよかった・・・っ」

「それはありえない」

きっぱりと、真顔で断言しやがった。

「動くよ、冬歌は。例え俺の計略通りと解っていても、動かざるを得ない」

「その根拠は」

「愛」

無言で柏木を殴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ