俺、バイト始めました
目が覚めたのは、病室だった。
「はぁ...一体なんだったんだ?あれは...」
今思い出してもやはり、心底不気味な光景であった。
「あれは、エレベータ界の上級貴族に位置するものたちですね。
おそらく、暇つぶしにあなたの命を奪おうとしたのでしょう。」
そう秀人に語りかけたのは20代半ばくらいの、若い女性だった。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。
私は、八木優子といいます。
第56番世界を管理しているので、今後ともよろしくお願いしますね♪」
「えっ、ち、ちょっと待ってくださいね?」
秀人は全くもって状況を読み込めていない。
一旦落ち着く時間が必要だった。
「いいですよ〜
誰だって最初はそんな反応をします。
かく言う私も最初はそんな感じでしたしね。」
秀人の心情を全てわかっているかのように、優子は優しい言葉をかけた。
そのおかげで、秀人が落ち着きを取り戻すまでにはあまり時間を要さなかった。
「では、質問したいことがいくつかあります。」
落ち着きを取り戻した秀人が、探りを入れる。
「まずあなたは、俺が受けようとしていた会社の方なんですか?」
「はい、そうですよ〜」
間髪入れずに優子が答える。
「ちなみに、あなたの合格はもう決定しています。」
優子はそう補足説明をつけたした。
「では、肝心の仕事内容はなんなんですか?」
「そうですねぇ。
一言で言うなら、《異世界管理》でしょうか。」
「異世界管理?
もう少し詳しくお願いします。」
秀人は目を丸くしている。
そこへ彼女が補足説明を付け足す。
「詳しく言ったらきりがないんですがねぇ。
まず、異世界についてですが、この世の中の全てのものには、そのもののためだけの世界が、必ず一つずつ与えられています。
本来ならば、こちらの世界と異世界間の出入りというものはできないものなんですが、時空の歪みが発生して、こちらの世界に異世界の住人がやってくることが良くあります。」
良くあったらダメだろ!秀人はそう思ったが言葉には出さず、心に留めておいた。
「そして、時空の歪みからでた住人たちの一時的な避難場所となっている世界が87個も受けられています。
そして、この87個のうちの一つを管理するのが、あなたの仕事です。
どう!簡単でしょ?」
「正直説明を聞いただけじゃ何にも...」
「まあ習うより慣れろですよ。
試しにやって見るのが大切だと思います。」
「それもそうですね...
で、出勤日などは?」
「そうだねえ。基本自由なんだけどなぁ。
まあ、世界に入ってた時間の分だけ給料もらえるから、暇になったら入る、くらいのつもりでいいんじゃないでしょうか。
あとこれ世界のドアと鍵です。」
そう言って優子が渡してきたのは、ボロい南京錠であった。
「いや、なんでこんなに寂れてるんですか?」
「いや、その世界、治安が悪くてね〜、鍵が世界の状態を表しているんだよ。」
「ええっ、そんな世界いやですよ...」
「すみませんが、こればっかりは変えられないんですよ...」
申し訳なさそうに優子が俯く。
「ま、まあ、俺がこの世界を立ち直してあげますよ!」
優子を励ますために、秀人はそんなことを言った。
いや、言ってしまった。
「じゃあ、その世界でいいんですね!
いやぁその世界、人気がなくて困ってたんですよ〜
では、この契約書にサインをお願いします。
書き終わり次第、あなたの自宅にお送りしますので。」
「いやさっき無理って言ってたじゃん。
嵌められたのか...」
もちろん変えられることなら変えたかったが、立て直すと言ってしまった手前、今更変更を言い出せなかった。
秀人がサインを書き終わると、唐突に風景は自宅に切り替わっていた。
「まあ、できるとこまでがんばって見ますか。」
秀人は鍵を手に持ち、その世界の鍵を開けた。
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