俺、妙なバイト見つけました
秀人の一日は新聞配達から始まる。
朝4時という超早起きをし、急いで身支度をして、4時半ににはもう配達をし始めている。
そして、5時ごろに配達が終わると、基本的に二度寝をする。
だいたい6時半まで寝ているが、寝過ごすこともしばしばある。
そして、大学に向かう。
不幸中の幸いとでも言うべきか、彼の家から大学までは一駅分しかない。
いつものように、最寄り駅である宮前駅で小説のを読んでいると、親友である、西脇俊平に話しかけられた。
「よっ。ちょーしはどうよ!」
「ま、まあまあかな。」
小説から目も離さず、秀人はそんなそっけない返事を返す。
「なんだよつれねーなぁ。まっ、そこが秀人のいいところなんだけどなっ。」
イケメン特有のオーラをだしながら、俊平はなんだか楽しそうに言った。
「そっけないところがいいって、新手のMか?それとも誰かに開発されたのか?」
軽い冗談のつもりで返したが、俊平は顔を赤くして黙り込んでいる。
(これは少しまずいかもな...この場の空気は耐えられん)
そんなことを思い、何とかこの膠着状態を打破しようと秀人は俊平に救いの手を差し伸べる。
「まあ、お前に限ってそんなことはないと思うがな。」
「そっ、そうだよな。なははははー」
とってつけたような笑いである。
秀人は、自分の親友の性癖が少し心配になった。
秀人の家から大学までは一駅分と言ったが、田舎なので、駅から駅までは10分くらいかかる。
その間に、睡眠をとるのが秀人の日課になっていた。
急に俊平が
「あっ、物理学のプリント今日までだったのか!
すまん!ちょっと貸してくれ!」
と言うと、秀人のカバンをひったくっるように取っていった。
「あんまり荒らすなよー」
秀人は、自分のカバンよりも、睡眠時間を優先したらしく、少したしなめる程度であった。
「次は〜浅村大学前〜浅村大学前です。お降りの方は〜お忘れ物などなさいませんようにお気をつけください」
「ああ、もうか」
ぐっすりと眠っていた秀人は、少し残念に思いつつも、重い瞼を上げた。
対面には、にこにこ笑顔の俊平が座っていた。
「ありがとう!秀人のおかげで助かったよ!」
「お前、それいつも言ってるからな。」
「ま、毎回感謝してるんだよ!」
「ならいいけど...」
そんなやりとりをかわしつつ、秀人は俊平から自分のカバンを取り戻した。
浅村大学は、駅名からもわかるように、駅の目の前にある。
ヨドバシ○メラもびっくりな近さだ。
秀人は午前に講義が入っていない。
まら何をしに来たとかと言うと、サークルを覗きに来たのである。
ちなみに、俊平は午前から講義が入っているらしく、駅を出るなり駆け足で秀人のもとを去って行った。
「おはよ〜。誰かいる〜?」
そんな挨拶をしながら、所属しているサークルである、ファンタジー研究会の扉をあけた。
「今日は私だけなのですよ〜」
そう返事したのは秀人の幼馴染、坂口公代である。
「なんだ、お前だけか。」
「ちょっと秀くんなんだってひどくな〜い?公ちゃん傷ついたよぅ」
なんとも演技らしく、公代がつぶやく。
秀人は気づかないふりをして、椅子にかけた。
「今日は秀くんも大喜びなプレゼントがあるんですよぅ。じゃーん!」
公代が取り出したのはそう、高時給のバイトだけを集めたいわば、バイト雑誌の王様、バイト君2号(消費税込864円)であった
「公代、悪かった。だからそのバイト君を渡せぇ!」
なんともらしくない秀人であったが、それもそのはず。バイト君2号には時給1000円以上の物しか掲載されていないのである。
「いいですよぅ。ちなみに、一番時給のいいバイト探しておきましたから♩」
上機嫌そうに公代が答える。
「で、なんなんだ?そのバイトは。肉体労働は嫌だぞ?」
「大丈夫大丈夫♩肉体労働なし、誰でも歓迎って書いてあるから!」
「おお!それはいい!で、肝心の仕事内容は?」
興味津々で秀人が尋ねる。
「それがねぇ、なんも書いてないの。笑っちゃうよね〜」
場の空気が凍りつく。
(えっこいつ、なんのバイトかも分からないのに俺に勧めて来たのか?だとしたらバカだな。大馬鹿だ。真面目に接する意味はない)
秀人は一瞬でそんなことを考えると、即座に返事を返した。
「そんなバイト行くわけないだろ!
まあ、時給3000円以上なら考えるがな。」
時給3000円以上のバイトなんてない。そう踏んだ上での返答だった。
しかし、公代の返事は意外なものだった。
「いやぁ、それがね、このバイト時給5000円なの!」
「………」
あまりの衝撃に、何も返せなかった。
すると、ここぞとばかりに公代が畳み掛けて来た。
「まあ、一応面接行ってみてもいいんじゃない?
こんなに時給高いんだしさ。
他のバイト大変なんでしょ?」
「そ、そうだな。そうしてみるよ」
不覚にも言いくるめられていしまう。
「じゃあ、今日の午後から面接らしいから!
講義は休めよ!じゃあな!」
「いや、ちょ、待てよ!」
某有名映画のセリフを言いながら立ち上がり、止めようとするが、公代は秀人の言葉など耳に入らない様子で、部屋を出て行った。
そして秀人は一人、部屋の中で立ち尽くしていた。
午後、秀人はとあるビルの前にいた。
「まあ、やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいいよな。」
自分に言い聞かせるようにそうつぶやくと、秀人はビルの中に入って行った。
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