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ダスターハウス・ベイビーズ

一瞬で読み終わると思います。特に何も思わないで終わると思います。

本当に暇な時にでも!

都内で一番大きい駅構内のコインロッカー内にて、遺棄された嬰児の亡骸が見つかった。女児で、臍の緒も取れていない状態。詳しい身元は不明で、現在捜索中。先ずは母親の足取りから探す模様。現在確認が取れているのは、女児は双生児であった可能性が高いと言うこと。

彼は淡々と過去のニュース記事を読み漁っていた。25年前のニュースとしても異例で大きく扱われていた事もあり、インターネットが普及した今は尚、情報の収集が容易であった。

少し拓けた街の中心に行けば、パソコンからインターネットが使える環境は、どこも整っていてその点は困らない。充分過ぎる程だ。そう考え彼はカタカタとキーボードを叩いている。

彼はほぼ理解しかけていたが、確証は無かった。自らの出生の経緯も詳しく知らないし、育ちも悪く、学も無い。自らの運命と頭の悪さを呪う日々だった。それも今日でおさらばと思えれば、こんな時にでも満面の笑みを浮かべる事が出来る。

今こうしてほこり臭い個室に居る事も、彼にとってはこの上無い幸福なのだ。無心で画面を注視し続け何か考え動いていることさえも。その理由が分かったのだから。教えられないことこそが教えだ。時間はかかったが、そんなことを忘れてしまう位これからの時間を大切に思えているのかもしれない。

彼はニュース記事の女児を「いずこ」と勝手に名付けた。名前すら与えられなかった子に対する憐れみ等ではない、れっきとした考えの下だ。世間体を気にすれば、何処に行ってしまった彼女の事を思い付けたのだろうが、彼にとっては本意ではないのかもしれない。それでも、何かを感じ取る人が独りでも居た時は、その人には本当の理由を喜んで話すのだろう。

半世紀前の終戦時期のイデオロギーからの完全な脱却が図れて無い日本も、かなり前を見れていると感じた。ただ、その先にを求め続けるとある「悪さ」を彼は分かっている。その繰り返しに嫌気が指す人々も目に見えている。

だからこそ今はこうして独りで笑う事が出来、必要とあらば大衆の前で抗議デモをすることさえも厭わないだろう。

ただ過去に縋る人間は大嫌いだ。それ以上に、未来の事にしか拘れない人間は最高につまらない。

ぱっとしない生涯に、生き甲斐が出来たのだ。いじめ、不登校、留年、通院、入院、オーバードーズ。何だっていい。そんな話を求める世の中があれば、講師として呼ばれる世の中でも、喫茶店の角部屋の話題作りでも良い世の中でも。

ただ、一つ懸念はある。こうして彼がここに居る理由。懸念でもあり、有益な状態でもあるのだが、一人として話相手が居ない。だが彼が愛するものはいた。都合は整った。少しだけ肩書きが欲しくなった。必要と思えばがむしゃらに求め続ける。

定職にも付けず意志も持たず放浪すらも出来ずにいた彼が、類は友を呼んだ。友もまた彼を知っていて、招き入れて職場への門戸は開かれた。一年と持たず、都合と言う肩書だけで自主的に退社を促され、ここにいる。彼はしばらく人と口も聞かないだろう。友が何を思って誘ったのか、唯一分からず終いと嘆いていたが、少しだけ納得が出来た瞬間でもあった。

言葉は親友で、文字は愛妻になる。そう確信した。裏切られたと一時的に思い込んだとしても、この2人は相手を永遠に信じ続けるのだ。そう考えれば交換日記は永久に保存して、結婚式のバイブルは、辞書にでもなるのだろう。

携帯電話のたった一言のやり取りで、世界を愛すると言い切った人物でさえも、ただのこんな一般人を背信させてしまう力がある怖さも分かり切っている。世界を愛すなんて無理だし、思っても口に出してはいけない。口に出しては意味が無い言葉も幾つか思い当たる。

だから言葉を信じる。慮る。兎に角時間が欲しかったが、時間が生まれた故にこうした考えを持てた背景もある。バランスは重要だ。少し違う雑多な話もパソコンで調べ始めた。

世界がどうかは知らない。日本しか知らない。日本の在り方を見ているし、こうして日本に居るのだから、ルールに従う。日本語を操り日本語でありがとう、ごめんなさいを言える環境に感謝するための日々になる。それだけじゃ面白くないから、余計なモノを交えて話す。誰だってそうだ。

誰だってそう。面白いと思うことを面白く話すし、聞きたいと思う人は聞きたいと思うことを聞く。それだけの単純な世界。だからこそ自分がつまらないと分かっている彼は、ここに居る世界を変えていける訳がないと知っている。

大それた話にも聞こえることが、彼には当たり前なのだ。つまらない、極端、異端、そこから生まれる嘲笑と失笑。相手方から見受けられた様々な表情は、今までのこちら側の生き方をなぞらえただけの方程式で何も面白くなかった。だから変えて行きたくなっただけだ。

記事を調べて行くうちに分かったことがあった。やはり女児は双生児。相手方は男児と言うこと。じわじわと真相に近付けた。

ゴミ屋敷から産声をあげた父親を思い出した。周りは可哀想に思うだろう。父親にとってもそうだった。ひたすら運命を呪い、足掻き続けた生涯だったこと。今も尚父親は健在だが、唯一彼には、生き永らえているとしか見えなかった。罵詈雑言の数々。学も無く知識も乏しいため、同じ単語をひたすら連呼するだけの父親だった。常識と社会の二つを振りかざす、そんな言葉を愛して病まない、少し前の世相を反映するような父親だった。そんな父をつまらなく思い、乏しい語彙から意味を感じ取り、分からなければ色々な方法で探るのは、至極自然な流れ。

そうして探った結果や手応えを、彼はカタチとして感じ取っている。

パソコンを使えるスペースは限りがある、それだけじゃ済まない理由もある。早々にここを去る決意をした。昨日までもそう。こうして調べ物をしたことで少しだけのいとまに価値をもたらした。

これから忙しくなると思った。考えることも今以上に増えること、考えを辞める必要もあるし、それに伴い迷いが生じる事、そんな全てを心から受け入れられる姿勢で立ちあがった。

何も変わっていない。だけど、彼は少し文字にした。下らない意味の無いことのほうが格好が付くと考える逆説的な思考。それを定説と思わせる文言を今以上に欲している。周りが最高に面倒でつまらなく思えるやっつけに、彼は一生涯の楽しみを見出だしている。

いずこから探し当てた記事のロッカーから発見された女児の名前はやはり概ね正しかった。何処に逝っていても、通ずるものがあったのだろうか。わざと間違えたとも取れるのか。そして彼は今何の因果か、母親の居場所を突き止めた。法的な時効。でも場所云々そんなものに興味は無かった。そんな時間を割く暇があれば、動き出していた。

まだ若い。25年と言う四半世紀を終える寸前の自分をそう解釈し、

常に哀しみと喜びを知れる覚悟を従え、彼は歩き出した、何も考えてない。誰だってそうなのだからと知っていたはずだから。

まずは、目に見えるもの程信じる癖に、たった1つだけ違うもの。ありふれたものから着手することにした。


小説としてはものすごく短いですが、過去読んだものを少しでも理解し、

踏襲出来ていれば嬉しいです。

小説に限らず、ともかく楽しい面白いと思い、読み手の方が一つでも意味を感じ取ってもらえれば嬉しいです。

これからも沢山載せていこうと思います。


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