なめんなよ
「黒沢先輩!!」
昼休み、黒沢先輩を見つけ出して思わず駆け寄る。
先輩の勘違いで戸村先輩が殴られてから一週間たった。
学年が違うことから、あれから先輩とは校内ですれ違うことも無かった。
このまま、先輩が卒業するまでとくに関わることなく終わるかと思っていたが、そうも言っていられない状況になった。
驚いてこちらを見ている黒沢先輩に構わず、腕を掴んでまくし立てる。
「先輩、お願いがあるんです!」
「・・・とりあえず、飯くってからでいいか?」
私が掴んでいた腕には箸が握られていた。
はっと気付くと場所は食堂で、強面の先輩に大きな声で話しかけていた私は、食堂中から注目されていた。
「・・・すみません、外で待ってます」
必死になりすぎて、周りが見えていなかった。
その後、食堂から出てきた先輩と裏庭に出た。
「で、お願いってなんだ?」
ここは頼むのは私なんだから、ちゃんと目を見ないとな。そう思って先輩を見上げる。
「殴り方を教えて欲しいんです」
「殴り方?」
「はい、本格的にじゃなくていいんですけど・・・。」
「なんでまた?」
「・・・どうしても一発殴りたいやつがいるんです。」
困惑した表情を浮かべる先輩。
そりゃ女の私がこんなお願いをしたら困るだろう。やっぱり、全部言わないと納得してもらえないか。
でも、言っても信じてもらえるかな?
「信じられないかもしれないんですけど・・・、私ここ何日か痴漢にあってたんです。」
「痴漢!?」
そう、痴漢。
私が下校時に乗る電車は、時間も関係するのか利用者が極端に少ない区間がある。
座席に座ってうとうとしていたら、膝に違和感が。
見ると隣に座っている男の人の手が、私の足をなでまわしていた。
頭が真っ白になった。そっと、隣を見ると若いサラリーマン。
周りを見てみると、車両には私とその人しか乗っていない。
パニックに陥っていると、電車が駅に着き男性は降りて行った。
私は1人電車に揺られながら震えた。
もちろん怒りで。
しかし、腹が立つことにこの痴漢は次の日もやってきた。
私の座っている隣に普通に座り、また私の足をなでたのだ。
私は痴漢の手をつかむ。
「さわらないでください!」
今度は、警察に突き出してやる。
普通、こういった場合捕まえられたほうは少しは驚くと思う。
しかし、こいつは違った。
「君みたいなチビ、さわってもらえるだけありがたいと思わなきゃ」
あまりの暴言に、固まった。しかも鼻で笑いやがった。
そいつはそう言いきると簡単に私の手から逃れ、丁度ついた駅に降りて走り去ってしまった。
そして、私は電車に揺られながら震えた。
もちろん前回を上回る怒りで。
それが昨日の話。
いくらなんでも、今日も痴漢にあうとは思っていない。
が、私の怒りを甘く見てほしくない。
いくら私が小さかろうと、乙女の生足を本人の許可なくなでまわした揚句、鼻で笑いやがって!
絶対見つけて一発殴らなければ気が済まない。
しかし、私の今のパンチではたいして痛くないだろう。
そんなことでは、見つけても意味がない。
そこで、黒沢先輩の出番だ。一発で良いから、相手を痛めつけれる打撃を教えてほしいのだ。
「先輩、私痴漢を捕まえようとしたんです。でも、侮辱されて、逃げられた!次見つけた時は、一発殴らないと気が済まないんです!!」
一生懸命、先輩に訴える。