逃避しきれない現実
泣くな・・・!
「ふっ・・・」
泣くなって・・・!
涙は、私の願いかなわず重力に従って目からポロリとこぼれ落ちていく。
一度流れ出した涙は、止まることなく次々とあふれ出していく。
「うっ・・・うっ・・・さくらぁ」
もう全てが我慢できなくなり、想いが声に出てしまっている。
勘弁してくださいっ!!
二人っきりを避けたくて喫茶店に入ったのを、今は猛烈に後悔している。
周りからは『修羅場?』などと囁きあう声、確認しなくても分かるほど店中から視線を集めてしまっていた。
私の向かいの席では事情を説明し終え、その『さくら』ちゃんとやらのことを思い出したのか泣き出してしまった佐々木弟。
少しおさまりかけたかと思うと、私の方を見てはまた泣き出す。
しかも小さな声ではあるが、なんで俺じゃ駄目なんだとか、俺のほうが好きなのに等と聞こえてくる。
泣きたいのはこっちだ!!
これじゃまるで私がその『さくら』ちゃんだと思われる。しかも、二股した感ん満載な・・・。
席を立ちたいのは山々だが、それこそ私が『さくら』ちゃんみたいじゃないか。
早く泣きやめ。そんでもって正気に戻ってくれ。
そう思いを込めて、弟君にはハンカチを差し出す。彼が、それを受け取り涙をぬぐっている間、私は席が窓際なのを良いことに外を眺めて、現実逃避することにした。
外は予想通り、私の帰宅を待つことなく雨が降りコンクリートの色を変えてしまっていた。
色とりどりの傘をさした人々が、店の前を通り過ぎていく。
何の気なしに見ていた外の風景に、見知った人物が私の視界に入った。
ただでさえ大きな体で小さな折り畳み傘がより小さく見え、さらに周りの人たちが避けていることで目立っていた。
それこそ夢を見ているのかと思った。
目の前を通り過ぎ見えなくなるまで視線で追いかけた。
見間違いであってほしかった。
あれは、黒沢先輩だった・・・
先輩は仲良く手をつないで、この雨の中相合傘をしていた。