二人の気持ち
あの後、気が付けば青い顔をした田中をゆすっていた腕は、クラスメート達に止められていた。
教室中からの冷たい視線を浴びつつも、私が田中を担げるわけもなく保健室へ運ばれていくのを見送った。
ごめんよ、田中。悪気はなかった。
今までのことを思い返して、ちょっとスッキリ。なんて私思って無いよ、本当。
心の中でそうは思ってみつても、謝らないといけないことに変わりは無い。昼休みには、謝ってこいと友人達に教室から放り出されるという後押しもあり、保健室までやって来た。
保健室につくまで、田中にどう謝ろうかとそればかり考えていた。
扉に触れたところで気がついた。
先輩だ。
黒沢先輩の声がする。
それまで動いていた体がピタリと止まる。
中から田中の声もする。
いけない。
頭では立ち聞きはいけないと分かっていても、実際は息さえうまく出来なくなったかのように、動けなかった。
二人の声は聞こえるが、内容までは分からない。
それでも田中の声が徐々に大きくなり、苛立ちが伝わってくる。
二人は喧嘩してるの?
さっきの今で黒沢先輩に殴られたりなんかしたら、田中の具合が余計悪くなる。
二人が対峙している様子を想像して、慌てて扉を開きかける。
少し開いた扉から、今まで不明瞭だった二人の会話が耳に飛び込んできた。
思わずそこで手を止めてしまった。
「俺は、俺はずっと好きだったんだよ!天はどうなんだよ!はっきり言えよ!!」
「・・・ああ、好きだ」
う、うそでしょ・・・。
叫び出さないように、口元を押さえる。
頭をガツンと殴られたかのようなショックが私を襲った。