表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

一時の温もり(黒沢視点)

俺の手から離れた浩次を、今度は浩輔が部屋から運び出すため担ごうとしている。

それを申し訳なく思ったのか、鈴木が手伝おうと俺のそばから離れようとした。

もしかしたら、浩次の目が覚めるまで側についておくつもりなのかもしれない。


目が覚めて、すぐそばに心配そうにこちらを見ている鈴木を想像して、たまらず彼女の腕をつかんだ。


そんなことになったら、間違いなく浩次は鈴木に惚れてしまう!

現に俺に腕を掴まれ驚いて振り向いている表情でさえ、こんなに可愛いんだ。

それに、浩次はまだどことなく幼さを残したかわいい顔をしている。俺と違って威圧感を与えることが無い。今の状況から考えてまずあり得ないが、鈴木が浩次の想いに応えるなんてことが万が一起こったら・・・・

早く浩輔や浩次から鈴木を引き離したい。

その一心で鈴木をひきよせた。


「送ってく」


香恋がこちらを青ざめた顔で見ていたが、とりあえず今は鈴木を優先させたかった。

後でまた来るとだけ伝え、リビングから出ようと鈴木の手を引くと、あせったように鈴木に呼びかけられる。

そこではじめて気が付いた。触れている彼女の手が、震えている。

とたんに、怒りがあふれ出そうになるのを何とか抑えるため、鈴木を見つめる。

少し驚いたような表情でこちらを見上げてくる様子から、自分が震えていることに気づいていないのかもしれない。

それでもここに留まろうとする彼女に我慢できず、以前のように抱き上げ浩輔の家を出た。


しばらく歩いていると、遠慮がちに声をかけられた。


「先輩、一人で帰れるんでおろしてもらえませんか?」

無理だ。こんな震えてる鈴木を一人で帰らせるなんて、俺には出来ないし、したくもない。

答える代りに、腕に力を込めた。

以前同じように素直におろさないからか、鈴木は驚いたように身じろぐ。

もしかして、自分が震えているってことにまだ気が付いてないのか・・・?


「震えてる」


鈴木は俺の服をつかんでいた手を閉じたり開いたりして、確認するとぽつりと一言。


「アル中・・・」


いやいやいや、

「違うだろ」

今まで震えてはいるが、案外落ち着いていると思っていた鈴木の発言に思わずつっこんだ。

想像以上に混乱してたのか!?

落ち着かせようと、あわてて目に入った公園へ向かいベンチに座った。


こういう時は、えっと、ど・・・どうすりゃいいんだ?

ふと自分が小さいころ、犬に怯えた俺を親がよく落ち着けるときにしてくれたことを思い出した。


俺の膝の上でいまだに震えている鈴木の頭にそっと掌をのせて、頭を自分の胸に抱き寄せた。

そう、そうだった。

心臓の音が聞こえると、不思議と落ち着いたんだ。

本当は鈴木を落ち着かせるためにした行為だった。それが、気が付けば大人しく俺に抱き寄せられている鈴木の体温が、俺も落ち着かせていく。


自分自身も相当まいっていたようだ。

静かな公園の中、鈴木と自分しかいないことでやっと肩から力が抜けていく。


「無事で良かった・・・」


自然と言葉がこぼれた。


今、俺の腕の中にいる。

徐々に鈴木の震えが収まってくると、今度は違う思いで彼女の温かさを意識してしまう。


以前のように、抱きしめたい。

この腕の中におさめて、鈴木の匂いや柔らかさを、体いっぱいに鈴木を感じたかった。

衝動にしたがうように、彼女の頭に触れていた手が離れ抱きしめようと動く。

それでも、怯えていた原因を考えるとそんなことはするべきじゃないと、理性が止める。


せめて今、顔を上げてくれたら、鈴木の俺をまっすぐ見るあの目が間近で見れるのに。

そう思って鈴木の頭を見ていたら、願いが通じたかのように彼女が顔を上げた。


好きだ。


鈴木の目を見た瞬間、そう言いそうになった。

声に出てなかったのが自分でも不思議なくらい、そう思った。


鈴木は俺の目を見た瞬間、大きく目を見開いて俺から離れると、こちらが止める間もなくお礼を言って目の前からいなくなってしまった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ