脱出方法
とりあえず落ち着こうと、出された紅茶を飲む。
気がついてはいる。
この間黒沢先輩の家へ連れて行かれた時と、状況が似ていることに・・・。
黒沢先輩のお母さんのポジションが、香恋ちゃんに変わっただけだということは。
思わず佐々木を睨みそうになるが、そこは香恋ちゃんの前ということもあり何とか我慢する。
しかも、今度は黒沢先輩の家では無いので、自力でどうにかして帰らねば。
「お兄ちゃん、ヒロ兄もう帰ってるかな?呼んでもいい?」
香恋ちゃんがそう佐々木に問いかけた。
「おっ?まだだと思うぞ?」
ちょっとあわてたように答えるているが、私はこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「先輩もそろそろ帰ってるはずだと思うよ?私も先輩に会いたいな」
あのときのように黒沢先輩が来てくれたら、この男から解放されるはず!
必死な気持ちを隠し香恋ちゃんに笑いかけた。
なぜか香恋ちゃんはぽっとほほをピンクに染めた。
「本当に仲が良いんだね?私呼んでくる!」
そう言って嬉しそうにリビングから出て行った。
「呼んで、くる?」
思わず声に出ていた。電話するのかと思ったが、玄関の扉が開く音が聞こえ本当に呼びに行ったことが分かった。
「ああ、言ってなかったっけ?ヒロん家すぐそばなんだ。ほんと目と鼻の先」
ケーキをぱくつきながら、どうでもよさそうに説明された。
「へぇ、じゃ幼馴染とかですか?」
「まぁ、幼馴染って言えばそうだな。でも、一との方が付き合いは長いな」
はじめ?黒沢先輩の名前は天だったよな?
「あの、一って誰ですか?」
佐々木がそれに答えようと口を開いた時だった。
ガチャンとリビングの扉がなった。
そこに立っていたのは、先輩より小さいがそれでも十分大きい男の子だった。
体は大きいがどうも顔が幼くて、迷いなく年下だと断言できる。
知らない人のいきなりの登場に驚いていると、佐々木に向かって一言。
「電話」
「家電にかよ?」
こくりと男の子がうなずく。
はぁっとため息をつき佐々木はひとこと私にことわるとリビングから出て行ってしまった。
出入り口に残り、無表情でこちらを見ている男の子と目が合う。
「おじゃましてます」
視線に居心地の悪さを感じ、私がした挨拶には目礼で返された。
たぶん、弟だと思うけど、こちらもまた似てないなぁ。
佐々木に比べると口数が少なく、大分落ち着いているように感じる。
そんな第一印象について考えていると、自分にふっと影がおちた。
顔を上げると間近に立った男の子の、どこかとろんとした目と視線が合う。
「あの、なんでしょう?」
何か用でもあるのか?無言じゃ分からないんだけど。
初対面の人間にすぐそばに立たれることに耐えられず、こちらから声をかけるとゆらりと男の子が動いた。