無意識
げっ
振り返った私は、そう声が出そうになった。
声の主は、黒沢先輩だった。
しかし、先輩は1人ではなく田中と二人でそこに立っていたのだ。
なんて気まずい組み合わせ。仲がよさそうなことは、田中が先輩を名前で呼んでいたことで想像できたけど、よりによって二人一緒に帰るところに出会うなんて想定外だ。
田中がこちらを不機嫌そうに顔をしかめて見ている。
「怪我したくなきゃそいつにかまうなって言ったよな?」
そう先輩が言葉を発した瞬間、恐ろしい表情をした田中と目があった。
ぅひ、怖いよぅ。
田中は割と小奇麗、というか上品な顔をしているためか、険しい表情をすると黒沢先輩とはまた違う凄味があるのだ。
は、早くこの場から去りたい、帰りたい。
「ちげーよ!俺が、こいつに、かまわれてたんだよ!」
そう言って男は体を先輩たちへ向けた。
私と男の間には、私の腕があった。
私は初めて見る田中の恐ろしい表情に、よっぽど怖かったのか無意識にそばにいた男の服をつかんでいた。あわてて手を離すが、みんなの視線が私に集中しているのが分かる。
違います!田中の顔が怖かったから無意識で!
なんて、本人目の前にして言えるわけない。
ど、どうしよ。
どう対応していいのか困っていると、つかつかと田中がそばに来て私の腕をつかむと、駅とは違う方向へ歩きだした。
「天、俺こいつと話あるから先帰ってて。」
こちらを振り向かずに話すので、表情は分からないが間違いなく怒っている。
普段の田中相手なら、私にはありません、といって帰っていたところだが今は恐ろしくてとてもじゃないが言えない。
結局、今日は早く帰れないのかと諦めて田中について行った。