情熱
さっきまで私を責めていた態度からは想像できないような、途切れがちな告白。
驚いて声も出せない。
あの田中が・・・好き。
そりゃ、もし本当に私と先輩が付き合っていたら、関係無いなんて言ってられない。
本人は言うつもりはなかったのか、なんだか跋が悪そうにこちらを見ている。
しかし、気まずいのは私も一緒。
いつもは、相手の目を見て話すよう気をつけているけれど、今は無理。
こんな時、なんて言えばいいの?
「えっと・・・、いつ、から?」
何か言わねばと口から出た質問に、自分自身が驚く。
そんなこと聞いてどうする!余計気まずくなる!
よっぽど私は驚いているみたいだ。
私に質問されるとは思って無かったようで、驚いた表情をしていたが開き直ったのか、まっすぐこちらを見て田中は答えた。
もちろん、その視線は合わせることはできなかったけど。
「初めて、初めて見たときから。最初は、いつの間にか視線が追っかけてて・・・それが気に食わなくて・・・。でも、気が付いたら見てた。それで・・・ああ、好きなんだなって気がついて・・・。」
う、ひゃー!!
田中!聞かせる相手間違ってるよ!
熱烈な告白に、本人よりきっと私の方が真っ赤になっている。
「そ、そっか。」
そう答えるのがやっと。しかし、田中はまた話し出す。
「でも、天と付き合ってるんだよな・・・こんなこと、本当は言うべきじゃなかったよな。」
そう言われて、まだ誤解を解いていないことに気付いた。
いくら自分が嫌いな奴といえど、人が人を好きになる気持ちを否定しちゃダメだよね。
そう思い、あわてて誤解を解く。
「あの、田中君の気持ち聞いてからこんなこと言うのなんだけど・・・、先輩と私、付き合って無いから。そもそも、告白されてないし。だか」
「本当か!?」
よっぽどうれしかったのか、まだ話している私の肩をつかむと覗き込むように聞いてきた。
近い近い!
あまりの勢いに、思わず首をかくかく縦に振る。
その瞬間、目の前の田中が嬉しそうにほほ笑んだ。
ああ、こんな顔で笑えるんだ。
思えば、いつも私と話すときはしかめっ面で不機嫌な顔しか向けられたことが無かった。
「そっか・・・そう、なのか。」
そういって、私から少し離れると、笑顔が消え真剣な表情にかわった。
「俺、希望があるなら、あきらめないから・・・」
「うん・・・。」
覚悟を決めた彼に、それしか言えなかった。
人を好きになるって、凄いことなんだなぁ。
そんなことを思いながら、後にこの時、言葉の続きを田中に言わなかったことを、後悔する。