自覚
いえいえ、泣くつもりはこれっぽっちも無かったんですよ、先輩。いや、ほんと。
そう冷静に思う自分もいるが、現に私は泣いている。
私はさっきまで先輩に怒っていた訳で、泣くような感情はそこには無かったはず。
『人ってね、怒るから悲しくなるんじゃなくて、悲しいから怒るんだって・・・』
友達の言葉がよみがえる。
あれは、彼女が二股され、その彼を彼女が殴り飛ばした日の帰り道で言った言葉だ。
彼に会うまで怒り狂っていた彼女が、帰り道には私に抱きつき泣きだしていた。
その時は、言葉の意味がよく分かっていなかった。
怒りは怒り、そう思っていた。
でも今なら分かる。
ああ、私、先輩に避けられて怒っていたのは、悲しかったからなんだ。
すごく悲しかったから、怒ったんだ。
そう自覚したとたん、胃のあたりが重くなったのを感じた。
自分で思っていたより、私は気持ちをため込んでいたみたいだ。
涙がこぼれてしまった瞬間、先輩は驚いていた。
でも、私自身も驚いた。だって、まさか自分が泣くなんて。
それまで冷静だった一部も、自覚した感情に飲み込まれそうになる。
「な、泣くな!悪かった!もう避けたりしないから・・・」
あわあわと手のやり場に困りながら一生懸命が話しかけてくる。
あのみんなから一歩引かれる強面な黒沢先輩が。
それこそ先輩が泣きそうな顔をして。
「えっと・・・ほら、昼飯!そう!お詫びに昼飯おごる!な!?」
クスッと笑いがもれた。
懇願するような勢いで提案してきた内容がなんでまた『昼飯』・・・。
そう、先輩のその必死な姿になんだか自分が泣いているのがばからしくなってきて、思わず笑った。
先輩から安堵のため息がもれる。
「ほんと、・・・悪かった。」
「・・・スペシャル」
「え?」
「スペシャルランチなら許します」
通常の定食セットが400円の我が校の学食で、スペシャルランチは850円する。
「約束ですよ?」
「ああ、分かってる」
「もう、避けたりしないでください」
「しない」
「・・・悲しかったんですよ」
「え?」
「いえ、なんでも。今日さっそくおごってくださいよ!」
「あ?ああ。分かった」
そんなやり取りをして別れた。
正直泣いてしまったことは、気恥ずかしかったし、なぜ避けていたのか結局教えてもらえていないけど、気持ちはすっきりしていた。
廊下を歩きながら、ふふっと笑いがこぼれる。
あんな大きな体を丸めて、一生懸命私に謝る姿は強面のはずの先輩がなんだか、かわいく見えたなぁ。
先輩って、意外とかわいいかも!
呼び出された時は、真反対のことを考えていたことに気付かず、のんきにそんなことを考えていた私は、昼休みにとんでもない試練が待ち受けているとは思いもしなかった。




