熱い視線
固まった私と黒沢先輩をおもしろそうに見る男の視線を感じる。
が、私と先輩はお互いを見たまま動けずにいた。
「天こんなところに立ってどうしたの?あら?」
おばさんの声で私と先輩は、はっと我に返る。
「あらあら、まぁ。ラブラブねぇあなたたち」
一気に私の顔に熱が集中するのが分かった。
は、恥ずかしい!!
今の私は、他人さまのお家でいちゃつくバカップルと思われてもおかしくない状態だ。
たとえ名前も知らない男といえど膝の上で腰に腕を回されケーキを食べてたんだから。
耐えられず出入り口から視線をそらす。それでも気持ちに体が応えるように震えてくる。
不意に視界がふさがった。
「ヒロがそんな怖い顔して見るから、泣いちゃったじゃねーか!」
私は男に黒沢先輩からかばうようにさらに抱き込まれていた。
笑いながら言っているあたり、明らかに先輩をからかっている。
泣いてません!恥ずかしいんですよ!そう言おうとしたとき、体が宙に浮くのを感じた。
次に感じたのは、私を抱きしめる黒沢先輩の腕。
「怪我したくなきゃこいつに構うな!」
ぎょっと、先輩を見るが凄い表情で男を睨みつけている。
「あら・・・あらあら、まぁまぁまぁ!!」
興奮するおばさんの声が聞こえたが、それに構わず先輩は歩き出す。
もうすぐ玄関というところで、声が上から降ってきた。
「事情は母さんから聞いてる・・・色々悪かったな。」
「いえ・・・」
やっとまともに話す機会が巡ってきたというのに、予想もしていなかった至近距離に大変困る。
「あの・・・、おろしてもらっていいですか?」
言われて初めて気がついたといった様子で、先輩はあわてて私をおろした。
「・・・」
「・・・」
なんなのこの気まずい雰囲気は。いや、私が悪いのは分かってるんだけど。
でも、今を逃したらまた避けられるかも知れないしな。
「あの」
いざ話そうとした時、強い視線を感じ振り返るとおばさんと男が、こちらを興味津津といった目で扉の隙間からのぞいていた。
「お、おじゃましました」
それだけやっと言えると私は急いで先輩の家をあとにした。