協力者
自分から向かわずとも、相談相手から私の方へ訪ねて来てくれた。
「で、なんで君と黒沢こんなことになってるの?」
開口一番訊ねられた。
「先輩・・・『なるほど』って言ってましたよね?何か知ってる訳ではないんですか?」
そう、私が相談相手に選んでいたのは戸村先輩。
私と黒沢先輩のことを知っていて、先輩に呼び出された時の真相を知る人。
『なるほど』と言ったからには何か知っているのかと思ったんだけど。
「いや、ここんとこ黒沢の様子が変で、君から逃げた日あったでしょ?あのときが一番変だったからさ・・・、原因は君かぁって納得してただけ」
やっぱり原因は私・・・というかあの抱擁事件なわけか・・・。
でも、それなら会わないように避けるのが普通じゃない?
「で、何があったの?」
なんだかきらきらした目で問いかけてくる先輩。
相談したかったし、やっぱり事情は話すべきだよね。
そう思い、痴漢を捕まえた日のことを大まかに話した。
が、一番肝心な抱きしめられたことは、なんだかこの人に話してはいけない気がして言えなかった。
話が進むにつれ、輝きが増していくあのきらきらした目がいけないと思う。
言いたいのは山々だが、私の中の何かが話すなと訴えている。
ここは自分のカンに従うことにした。
なにより恥ずかしいし。
「うーん、俺もなんで黒沢が君を避けるのか話し聞いても分からないなぁ。」
「そうですか・・・」
ですよね。だって、一番話さないといけないところを、話してませんから。
「何か俺に隠してない?なんでもいいから言ってごらん?」
ドキッとする。戸村先輩鋭い・・・。あわてて何か言わなくちゃと、とりあえず想いつたことを聞いて話題を変える。
「えっと、あ・・・あの、殴り方教えてもらえませんか?」
「え?殴り方?」
「はい。殴り方。あの、暴漢に襲われたときの対応とかでもいいんですけど・・・」
「・・・」
話題転換が無理やりすぎた。戸村先輩は訝しむ様に、こちらを見ている。
どうしよう・・・、余計怪しい態度を取ってしまった。
「それは、やっぱり痴漢対策?」
「え?いえ、痴漢対策というわけでは無いんですが・・・。」
クラスメイトを一発殴るため、なんて言えない。
先輩はまだ、何か探るような視線をこちらに向けている。思わず、視線を外してしまう。
「・・・、良いよ教えてあげる。大丈夫、どんな相手にだって弱点はあるからね」
一転して、優しい笑顔を浮かべて、戸村先輩は引き受けてくれた。
黒沢先輩に殴られて意識を落としていたので、あまり期待はしていなかったけれど案外頼もしい。
なんて、かなり失礼なことを思っていたのは内緒だ。