いい笑顔
教室の前で、自分の考えに落ち込んでいると、不機嫌な声が上から降ってきた。
「邪魔」
自分のいる位置が、教室の出入り口であることを思い出しあわてて、ごめんと謝りかけ、相手を見る。
そこにいたのはクラスメートの田中だった。
思わず目が据わる。
邪魔とはなんだ、邪魔とは。もっと言い方あるだろ。
確かに邪魔な位置に居たのは私だけれど。
君は私のブラックリストに載っている名前を繰り上げて欲しんだね。
無言で体を出入り口からずらす。
教室に入って行ったかと思われた彼は、立ち止りまた私に声をかけてきた。
「鈴木、お前黒沢先輩に告られたって、本当?」
「えっ!?」
思わぬところから、黒沢先輩の名前を聞かされ思わず変な声が出る。
「本当なのか?」
田中は驚いた様子で、もう一度聞いてくる。
「違う!」
思わず首をぶんぶん横に振ってこたえると、それを聞いて田中はそれはそれはいい笑顔で言いきった。
「だよな!絶対ありえねぇって思ったんだ!」
田中、君は今私の中のブラックリスト、トップに躍り出た、おめでとう。
やっぱり、誰かに殴り方を教えてもらう必要があるな。
そんなことがあった五日目からさらに二日たった今日。
その間に私は何度も黒沢先輩と遭遇した。
その度に私と目があうなり背を向け走り去っていく先輩。
しかし、どう考えてもおかしい。
先輩と遭遇する場所が私の教室前だったり、1年生の教室が並ぶ廊下だったりと、3年生の先輩が普段居るとは思えない場所ばかりだからだ。
先輩は私に会おうとしてる?
もしくは、私のクラスの誰かに会おうとしてる?
どちらにしろ、避けられていることには変わりはない。
が、変わりはないがこうも目があうたびに、あからさまに避けられると・・・
イライラする。
しかも、この状況を変だと感じているのは私だけでは無かった。
まわりは私と目があうなり逃げ出す先輩を見て、以前先輩が私を呼び出したこととつなげて考えたらしい。
黒沢先輩があんな態度をとるまでは、どうやら私が先輩に告白されたらしいという噂が流れたらしい。
しかし、今もっぱら噂されている話は理解できない。
黒沢先輩に呼び出された私が、先輩を返り討ちにした・・・らしい。
どうやったら私が、あんな大きい先輩を倒せると思うのか・・・。
先輩が何を考えてあんな行動に出ているのか、全然わからない。
避けるくらいなら、視界に入らないよう避けてくれればいいのに。
悩んでいても仕方がない。ここはあの人に相談してみよう。