重心移動は大事です
なんということでしょう!
某お家改装テレビ番組のナレーションが頭の中で響いている。
私の予想は裏切られた、・・・悪い方へ。
例の痴漢が私の目の前にいる。丁度人が少なくなる区間から乗り込んできたのだ。
私を見つけるとなんとも嫌な笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる。
視線を車内に走らせると、他に人が見当たらない。
やばくない?これって。
今なら何もできなかった悔しさと、侮辱された怒りで頭がまともに働いていなかったことが分かる。
殴るなんてとても無理。殴ったとしても、そのあと逆上されたらたまったもんじゃない。
密室に男と二人なのとたいして変わらないこの状況。
今さらながらに、怖いと思っても遅い。
隣の車両に移らなければ。
急いで立ち上がり、走り出そうとしたがその時には痴漢は私の肩を捕まえていた。
「こらこら、どこいくの。せっかく席が空いてるんだから、すわろうよ」
さすがに男の力にはかなわず、無理やり座らされてしまう。
男は前に立ち、頭を押さえてきた。そのせいで、私は立ち上がれない。
頭に乗っている男の手を、どうにかはずそうともがいていると、視界に男の手が入った。
その手はおもむろに私の胸に押し付けられた。
その瞬間、私はもがいていた動きを止めた。
我慢してたけど、もう無理。
16歳にもなって、まずいと思うけどもう、無理だ。