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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
Boy Meets Gal : 双方ともとんでもないというお話

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神楽坂周一郎

 廊下やドアには何かを示すプレートなどは何も無かった。


 「宗三」

 「兄貴!」


 自衛隊のたくさんの階級章などを付けた周一郎兄貴が大きなデスクに座っていた。

 現在38歳。

 兄貴は短髪で凛々しい顔だ。

 身長は2メートルを少し越す大柄な上、体中の筋肉が発達している。

 実際途轍もなく強い人で、自衛隊最強とも言われているし、海外の軍人たちの中でも評判になっているそうだ。

 兄貴をリスペクトしている人間も多く、「チャレンジコイン」という尊敬を示すコインを沢山持っている。

 「チャレンジコイン」は自分が敬慕する人間に与えるもので、各国の特殊部隊の人間や格闘家、諜報機関、それに秘密結社の人間のものもあるらしい。

 以前に兄貴の部下の方と話をする機会があり、そういうことを教えてもらった。

 その兄貴の後ろの両側に二人の男女が立っている。


 「冴姫ちゃーん!」

 「闇絵さーん!」


 兄貴の後ろの30代くらいの綺麗な女性が笑顔で冴姫に手を振った。

 身長180センチくらいで、腰までのロングのストレートの黒髪。

 冴姫とは違った和風の物凄い美人で、冴姫ほどではないが胸が大きくて腰がくびれ、腰回りがまた大きい。

 兄貴と同じく自衛官の制服を着ていた。


 「周一郎さん、来たよー」

 「ああ、御苦労だった」


 兄貴にも冴姫は気安く挨拶した。

 やはり以前からの知り合いらしい。

 

 「お前もいたのかよ、来栖!」

 「相変わらずケバいな、お前はよ」

 「なんだネクラ! またボコるぞ!」

 「やってみろ!」


 来栖と呼ばれた男性の方は、170センチちょっとで痩せている。

 俺と同じ20代前半に見える。

 髪は両サイドを刈上げ、伸ばした前と上の髪を縛っている。

 日焼けした健康的な浅黒い顔なのだが、どこか暗い雰囲気がある。

 やけに鋭い目つきが一番の印象だ。

 今の会話でも分かるが、どうやら冴姫とは犬猿の仲らしい。

 こっちは制服ではなく、ジーンズにロング袖のTシャツ。

 アニメの女性キャラのプリントがしてあった。

 ちょっとイタい奴に見える。

 俺もなんか付き合いたくはない感じだ。


 兄貴に大きなソファを勧められ、ドアを開けて制服の男性の自衛官が紅茶を持って来た。

 兄貴、俺、冴姫の順に紅茶を置き、部屋を出て行く。

 俺の隣に冴姫、向かいに兄貴が座る。

 見知らぬ二人の男女は兄貴の後ろに立ったままだ。


 「さてと、お前にも説明しないとな」

 「もっと早く教えてくれよー」


 最初に文句を言った。 

 今日一日、目まぐるしい上に理解不能だった。

 さっきまでは現実に振り回されて流されるばかりだったが、やっと兄貴の顔を見て説明してもらえるとなって、俺はようやく怒りが湧いて来た。


 「兄貴、なんなんだよ! 本当に突然わけのわからない……」


 兄貴が手で遮った。

 後ろで闇絵さんと呼ばれた女性が笑っていた。

 それを見て、俺の怒りのボルテージ下がった。

 冴姫もそうだったが、闇絵さんもとてもお美しい……

 ガキのように怒っている情けない姿をもう見せたくは無くなった。


 「まあ落ち着け宗三、今からそれを説明する。何しろ俺も急なことでお前に説明する時間も無かったんだ」

 「そんなわけあるかよ! 冴姫は家具類まで手配して、おまけに引っ越し蕎麦まで!」

 「それはまあな。高い可能性としてお前であることが予見されていたからな」

 「俺?」


 一体俺が何なのだというのか。


 「まずな、結論から言えば、お前が日本国の《特異点(Singular Point:シンギュラー・ポイント)》だと判明したんだ」

 「特異点?」

 「そうだ、詳しいことは説明出来ないが、要は宗三、お前が殺されれば日本国は滅びる」

 「なんですかぁーーー?」


 また理解が追いつかない。

 俺がなんだって?

 アホのように口が開いたままになった。


 「だからお前を全力で守る必要があるんだ。それは理解しろ」

 「出来るかよ!」


 そんな荒唐無稽な話を信じられるわけないだろう!

 でも今度は闇絵さんも他の人間も真剣な顔で俺を見ている。

 あれ、マジで?


 「とにかく、これからお前は狙われる可能性がある。だから強力な護衛が必要なんだ。そういうことで冴姫を派遣した。まあ、お前が《特異点》であることが確定したのが夕べのことでな。冴姫はその可能性を考慮して結構前から準備して待機していたんだ」

 「全然分かんねぇよ! 俺ってただの新卒の会社員だぞ!」

 「そんなことは関係無い。宗三、お前はティム・インゴルドを知っているか?」

 「全然知らねぇ!」


 急に話が変わった。

 自慢じゃないが、まったく知らん。

 インコがどうした!


 「世界最高峰の人類学者と呼ばれている。「ラインズ」の概念の提唱者で、まあ元祖はルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインかな。ヴィトゲンシュタインが「世界線」という概念を世界で初めて提唱した」

 「それも全然知らねぇ!」

 「今は量子力学でも「世界線」の概念が用いられている。要はそういうことなのだ」

 「だから何がぁ!」


 なんなんだ。


 「ヴィトゲンシュタインは言った。「Die Welt ist alles, was der Fall ist.(世界とは、起きている事全てのことである)」。つまり世界が事象の総体でありその連続であると規定した。そして「世界線」の概念で世界と歴史を観測しようとしたんだ、インゴルドはそれを更に発展させた「ラインズ」によって、より一層の世界の在り様を説明しようとした」

 「ふーん、すごいね」


 取り敢えず言っといた。

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