防衛省 市ヶ谷地区
俺も確かに抵抗はしなかったが、それは冴姫の恐ろしさもあったが、それ以上に冴姫が魅力的だったからだ。
突然若い美人が押し掛けてきて、一緒に暮らすなんて、ドキドキする!
俺の大好きなラノベの必勝パターンだ。
でも、もちろんだが異常事態なのは自覚している。
これは紛れもない現実だ。
多少なりとも俺が冷静だったのは、兄貴がこのことを知っているということを最初に聞いたためだ。
兄貴のことは非常に信頼している。
兄貴の仕事が国の重要な機密に関わる部署にいるということは、何となく知っていた。
詳しいことは全く知らないが、兄貴自身から直接そう言われているのだ。
兄貴が言うことは絶対に間違いは無い。
冴姫の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、兄貴の名前を知っており鍵も預かっていた。
それは兄貴から聞いて知っていなければ決して言えないことだ。
蕎麦を食べ終えてすぐに兄貴に電話した。
ちなみに蕎麦は結構美味かった。
店の名前を控えておいたぞー。
兄貴から聞いている緊急連絡先の番号に電話をした。
俺に何かあったらいつでも連絡するように言われているものだ。
しばらく応答が無かったが、兄貴ではない別な女性が電話に出た。
「神楽坂宗三さんですね?」
俺の電話番号が登録されていたのか、すぐに名前を確認された。
「はい。神楽坂周一郎の弟です。兄はおりますか?」
「緊急事態ですか?」
「え、あの、そうでもないんですが、ちょっと至急で確認したいことがありまして。ええと、冴姫さんという女性のことで」
「そうですか、分かりました」
電話の女性は終始冷静だった。
まるで俺の電話を予測していたかのような印象も感じた。
生憎兄貴は打ち合わせ中で不在であり、電話に出た女性の方に折り返しを頼んだ。
兄貴はラインやメールなどはやらない。
いつも昔ながらの電話での連絡だけだった。
何となく、記録に残らない方法が好きなようだと思っていた。
以前にテ〇グラムやシ〇ナルなどのメッセージアプリを検討したらしいが、周囲から止められたそうだ。
兄貴、そりゃそうだぜー。
あれはヤバい人たちも使うものだ。
冴姫は自分の部屋に閉じこもったままで、何をしているのか分からない。
部屋に入るのはちょっとコワイ。
本当は冴姫から聞けることを聞きたいのだが、俺はビビって自室にこもっていた。
やっと2時間後に兄貴から電話が来た。
「おう、冴姫がそっちに着いたかよ」
「着いたよ! なんなんだよ、これは! 聞いてないし!」
「慌てるな、ちゃんと説明はしてやる。今日、これからこっちに来れるか?」
「こっちって、市ヶ谷か?」
「そうだ、ゲートには話しておく。冴姫と一緒に来い」
「え、冴姫もか?」
「そうだ、絶対に一緒に来い」
「なんでだよ?」
「危険だからだよ」
「……はい?」
なんか、危ないらしい。
冴姫の部屋(元俺の)のドアをノックし、中へ入った。
冴姫は着替えており、黒のホットパンツに先ほどとは違うレモン色のTシャツでベッドに仰向けに寝転がっていた。
大きなオッパイがTシャツの中で拡がっている。
Tシャツはでかいマシンガンをぶっ放す伊勢海老だった(なにそれ?)。
冴姫に兄貴の所へ呼ばれたと言うと、めんどくさそうにされた。
大きな封筒から分厚い書類を取り出して読んでいたようだ。
「えぇ、折角落ち着いたのにぃ」
「そんなこと言わないでさ。これから一緒に暮らすのに聞いておかないと」
「あたし、知ってるもん」
俺が全然知らないからだよ!
「でも兄貴が冴姫も絶対に一緒にって」
「なんでよ!」
「なんか危険だって言ってた」
ベッドに寝転がって書類を拡げていた冴姫が飛び起きた。
「周一郎さんがそう言ったの!」
「え、う、うん」
「分かった。ちょっと待ってて」
冴姫はベッドを降りてTシャツを脱ぎ、ホットパンツも降ろした。
俺が目の前にいることに何の躊躇もない。
出て行けと言われなかったので、当然俺はずっと見ていた。
下着姿になり、最初に着ていた細長い三角形のパッチワークの革の服を着た。
おい、今その服はどこから出した?
ちなみに下はTバックだった。
素晴らしいです!
「いいわ、行きましょう」
「う、うん」
「あたしの下着を見たんだから、今日の夕飯は美味しいもの作ってね」
「はい!」
それでいいらしい。
喜んで!
驚いたことに、マンションの地下に、冴姫の車が停まっていた。
アストンマーチンDB12 ヴォタンテ。
V12気筒3.6リットルの巨大エンジンが最高速325キロ、680馬力をひねり出す、そうだ。
冴姫がハンドルを握りながら説明してくれた。
車が好きらしいし、運転も上手い。
都内のドライブは車も多く、360度の注意が必要だが、冴姫は余裕でモンスターカーを転がしている。
ヴォタンテに屋根はなく、オープンだ。
「ルーフがあると、攻撃の時に邪魔になるんだ」
「そうなんだ」
わかんないよー!
四谷見附を直進し、大きなスーパーの少し先の細い道を左折して直進。
5分も掛からずに目の前に市ヶ谷の防衛省が見えた。
非常に近いのだが、俺もここへ来たのは初めてだ。
普通の人間はまず用事が無い。
ゲートの門衛に冴姫が身分証を見せた。
チラッと俺も見たが、顔写真付きの身分証だった。
その途端に門衛から物凄い勢いで敬礼され、すぐにゲートが開いた。
冴姫が慣れた感じでヴォタンテを回していく。
駐車場に車を入れて、一緒に降りた。
建物の玄関にも自衛隊の隊員が二人立っていたが、もう身分証を見せることなく、冴姫を見つけて敬礼してくる。
門衛から連絡が回ったのだろうか。
冴姫は軽く敬礼を返し、中へ入って行った。
非常に慣れた仕草に見えた。
少なくとも何度も市ヶ谷の駐屯地には来ているみたいだ。
当然俺も後をついていく。
「冴姫って偉いのか?」
「まあね」
冴姫は迷うことなく廊下を歩いて、エレベーターに乗り、階ボタンを押す。
どこへ行くのか全然知らないが、冴姫が知っているようなので付いて行く。
エレベーターを降りてまた長い廊下を歩いて、冴姫がノックもせずに奥の立派なドアを開いた。




